アルバムレビュー:Blue Öyster Cult by Blue Öyster Cult

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発売日: 1972年1月16日
ジャンル: ハードロック、サイケデリックロック、プロトメタル


謎と鋼鉄の序章——“カルト的知性”と“鋭利な美学”の胎動

Blue Öyster Cult』は、1972年にリリースされたアメリカのロックバンド、Blue Öyster Cult(以下BOC)のデビュー・アルバムである。
この作品は、後に“インテリ系メタル”と呼ばれるBOCの世界観が静かに芽吹いた原点であり、アメリカン・ハードロックの流れの中でもひときわ知的かつミステリアスな輝きを放っている。

リフ中心の無骨なロックサウンドを基調としながらも、SF的テーマ、神秘主義、都市的冷淡さなどを内包する歌詞世界が異彩を放つ。
この時点ですでに、BOCのアイデンティティである「文学性とロックの融合」「多重意味のタイトルと詩的構成」が明確に示されている。

“メタルのレコードを買いたがらないボブ・ディラン好きの学生向けバンド”という当時のレコード会社のコンセプトも、興味深い背景だ。


全曲レビュー

1. Transmaniacon MC

オープニングは、ヘルズ・エンジェルスとオルタモントの悲劇を描いた実話ベースの楽曲。
硬質なリフと鋭いドラム、そして疾走する語り口が、BOCの“都市型ロック神話”の幕開けを告げる。

2. I’m on the Lamb but I Ain’t No Sheep

謎めいた逃亡者の視点から描かれる、変則リズムとメタファーに満ちた知的ロック
後にリメイクされて名曲「The Red and the Black」となるが、ここではまだ静かな狂気が漂っている。

3. Then Came the Last Days of May

BOCのバラード路線の原点にして、静かな語り口で展開する青春の破滅譚。
ドラッグ・ディールと死を扱った実話ベースの内容で、抑制されたギターが哀しみを刻む。ライブでの定番曲でもある。

4. Stairway to the Stars

SF的比喩に満ちた歌詞とメロディアスなリフが印象的な、BOC流のキャッチーなハードロック。
タイトルにこそ“Stairway”の語が使われているが、ツェッペリンとはまったく異なる、冷たい美学が支配している。

5. Before the Kiss, a Redcap

一見ラブソングのようでいて、実はドラッグと裏社会が主題。
レッドキャップ=薬物が“キス”とともに渡されるという二重の意味が巧みに構成されたストーリー。
ジャズ調のミドルセクションも含む、複雑かつ実験的なアプローチが光る。

6. Screams

耽美で不穏なバラード。
メランコリックなコード進行と、不安定なハーモニーが、幻影のような“叫び”を想像させる。
アルバムの中でもっともダークで詩的な楽曲。

7. She’s as Beautiful as a Foot

タイトルからして異様なこの曲は、BOCのシュールかつ倒錯的センスの象徴。
女性を「足のように美しい」と表現するブラックユーモアは、サイケ/アートロック的。
不協和音的な構成も含め、実験的な一曲。

8. Cities on Flame with Rock and Roll

本作の代表曲にして、BOC初期最大のハードロック・アンセム。
ヘヴィなリフ、ミッドテンポのドライヴ感、そして“都市を焼き尽くすロックンロール”という虚構の中の真理が炸裂する。
Black Sabbath的ヘヴィネスと、MC5のエネルギーが交差するような名演。

9. Workshop of the Telescopes

音響的に最もサイケデリックでスローな曲。
“望遠鏡の作業場”というタイトルが示す通り、内省的かつ宇宙的。
断片的な詩句が浮遊し、まるで幻視の中をさまようような構成となっている。

10. Redeemed

カントリー風味のアコースティックナンバーで幕を閉じる異色作。
BOCの意外な側面を見せつつも、歌詞にはどこか虚無感が漂う。
ラストにふさわしい“乾いた余韻”が残る。


総評

Blue Öyster Cult』は、後のヘヴィメタルやゴシックロック、さらにはオルタナティヴ・ロックにまで影響を与えた、“知のハードロック”の原型である。
ここには、単なるギターリフではなく、物語性、文学性、そして都市と死をめぐる哲学的想像力が込められている。

音楽的にはまだ荒削りな部分もあるが、そのぶん“何かが始まる”予感と緊張感に満ちた一枚。
深夜にひとりで聴くには最適なアルバムであり、リフの隙間に漂う不穏な空気に耳を澄ませたくなる。


おすすめアルバム

  • Black SabbathMaster of Reality
     重厚で神秘的な世界観と、音の“黒さ”が通底。
  • Alice Cooper『Love It to Death』
     知的で演劇的なハードロックの先駆。BOCとの美学の近似がある。
  • Hawkwind『Doremi Fasol Latido』
     SF的コンセプトとサイケデリックな演奏が共鳴する一枚。
  • Blue Cheer『Vincebus Eruptum』
     BOC以前のプロトメタル的暴力美に触れるならこの一枚。
  • The DoorsStrange Days
     都市の不安と詩的語りが交差する、アメリカ的知性のロック源流。

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