Love Is Like Oxygen by Sweet(1978)楽曲解説

 

1. 歌詞の概要

「Love Is Like Oxygen(ラヴ・イズ・ライク・オキシジェン)」は、1978年にリリースされたスウィート(Sweet)のシングルであり、同年のアルバム『Level Headed』に収録された楽曲である。バンドのグラム・ロック期から一歩進み、より洗練されたアートロック的アプローチとプログレッシブな構成を導入したことで、彼らの音楽性の進化を象徴する重要な転換点となった。

タイトルの「Love Is Like Oxygen(愛は酸素のようなもの)」という表現が示す通り、歌詞は愛を人間に不可欠な生命の源とみなす一方で、その過剰が窒息を招く可能性もあるというパラドックスを描いている。愛がなければ生きられない。しかし、愛に依存しすぎれば苦しくなる。それはまさに酸素と同じように、バランスが鍵となる感情なのだ。

メロディは劇的で美しく、サビのスケール感はスウィートの楽曲の中でも群を抜く。ロックバンドとしての彼らの成熟と、ポップスの枠を超えて自己表現を追求しようとする姿勢が、見事に結実した一曲である。

2. 歌詞のバックグラウンド

1970年代後半、スウィートはニッキー・チンとマイク・チャップマンによるプロデュースから離れ、自らの手で音楽をプロデュースし始めた時期にあった。バンドはそれまでのグラム・ロック的な派手さとパーティ感から脱却し、より洗練された音楽性と深いメッセージを求めていた。

その中で誕生した「Love Is Like Oxygen」は、まさにそうした変革の象徴とも言える作品である。この曲の複雑な構成――イントロのシンフォニックなキーボード、ミドルテンポのヴァース、そして空へ突き抜けるようなサビのメロディ――は、当時のアートロックやプログレッシブ・ロックに通じるものがあり、スウィートの新境地を提示した作品として高く評価された。

なお、本曲はアメリカで最高8位を記録し、イギリスやヨーロッパ諸国でも大ヒットを記録した。グラム期とは異なる層のリスナーにも支持されたことで、スウィートが一過性の現象ではなく、真の実力派ロックバンドであることを証明する結果となった。

3. 歌詞の抜粋と和訳

Love is like oxygen
愛は酸素のようなもの

You get too much, you get too high
多すぎれば、酔いしれてしまう

Not enough and you’re gonna die
足りなければ、生きられない

Love gets you high
愛は君を高みに連れていく

Time on my side
時間は味方についている

I got it all
すべては手の中にある

I’ve heard that pride
プライドは、と聞いたことがある

Comes before a fall
転落の前にやってくるものだと

(参照元:Lyrics.com – Love Is Like Oxygen)

このサビのラインは、ポップスとしては異例の哲学性を帯びたもの。愛という感情の複雑さを簡潔に、かつ象徴的に表現している。

4. 歌詞の考察

「Love Is Like Oxygen」は、スウィートが単なる享楽的なロックバンドではないことを示した決定的な楽曲である。愛の喜びを歌うだけでなく、その破壊力と中毒性、そして制御の難しさを描いたこの曲には、感情の深層に触れようとする鋭さがある。

“酸素のような愛”という比喩は、驚くほど適切である。人間は酸素がなければ生きられないが、酸素濃度が高すぎれば酸素中毒で命を落とすこともある。愛も同様に、過剰になれば束縛や依存に転じ、逆に欠如すれば心が枯れてしまう。その絶妙なバランス感覚を、あくまでポップで聴きやすい音楽の中で表現している点が、この曲の優れたところである。

また、後半のライン「I’ve heard that pride comes before a fall(プライドの後には転落がやってくる)」という警句的フレーズは、愛という感情だけでなく、人間関係や自己認識にも通じる普遍的なテーマを包含している。愛に溺れることの危険、しかし愛なくしては生きられないという二律背反――そこにスウィートの成熟した視点が見える。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • More Than a Feeling by Boston
     感情と記憶の結びつきをドラマティックに描いたメロディック・ロックの名曲。
  • Sailing by Christopher Cross
     癒しと内省を兼ね備えたバラード。音の柔らかさと感情の深みが共鳴する。
  • Alone Again (Naturally) by Gilbert O’Sullivan
     感情の機微を繊細に描いた歌詞と美しい旋律が「Love Is Like Oxygen」の憂いとリンク。
  • Owner of a Lonely Heart by Yes
     プログレ・ポップ的な構成と、孤独や自己探求をテーマにした哲学的アプローチが共通。

6. “感情のバランス”という命題に挑んだスウィートの成熟

「Love Is Like Oxygen」は、スウィートのキャリアの中でも特に精神的、音楽的に完成度の高い楽曲であり、バンドがグラム・ロックの装飾的世界から脱皮し、より深いテーマへと踏み込んだ証である。

この曲を聴くことで、私たちは“愛”という当たり前のように語られる感情が、実はどれほど繊細で、時に危ういバランスの上に成り立っているかを思い知らされる。快楽と苦しみ、癒しと中毒、自立と依存――それらがすべて“酸素”という一言に集約されている点において、この楽曲は非常に現代的な視座を持っていると言える。

スウィートはこの曲を通じて、ロックの享楽性と哲学性の両立を試みた。そして見事にそれを成し遂げた。だからこそ「Love Is Like Oxygen」は、ただのヒットソングではなく、ロックバンドが自己を再定義し、芸術的な地平へと踏み出した瞬間の記録なのだ。

それは今日でも、愛に息苦しさを感じたとき、あるいは愛を失って立ち止まったときに、ふと耳を傾けたくなる曲として、私たちの傍らに息づいている。音楽もまた、“酸素”のように、生きる力を与えてくれるものなのだから。

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