
1. 歌詞の概要
「Block Buster!(ブロック・バスター!)」は、イギリスのグラム・ロック・バンド、スウィート(Sweet)が1973年にリリースしたシングルであり、バンドにとって初の全英シングルチャート1位を獲得した記念碑的な楽曲である。グラム・ロック黄金期に生まれたこの一曲は、**派手な衣装と舞台演出、そして圧倒的な音の“押し出し感”**によって、まさに“爆発的ヒット=Blockbuster”の名を地で行く存在となった。
歌詞のテーマは明示的ではないものの、「Block Buster」というタイトルの印象通り、何か強大な存在や出来事――おそらくは社会の枠を破壊する“異物”――が町に現れ、人々が騒ぎ立てているという筋立てが暗示されている。その語り口はまるで70年代B級パニック映画のナレーションのようでもあり、聴く者の想像力を刺激するような断片的な物語展開が特徴的だ。
サウンドはヘヴィでグルーヴィー、印象的なリフと叫ぶようなボーカル、緊張感のあるパーカッションなどにより、聴き手を“緊急事態”の中へと巻き込んでいく。スウィートの音楽が視覚と聴覚の境界を揺さぶる一つの演劇であることを示す代表作である。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Block Buster!」は、スウィートと、当時彼らの音楽制作を手がけていたヒットメイカー・チーム、**ニッキー・チン(Nicky Chinn)とマイク・チャップマン(Mike Chapman)**による共同作。彼らはバンドにキャッチーでインパクトの強い曲を与え続けたが、本作はその頂点のひとつと言える。
この曲のリフは、デヴィッド・ボウイの「The Jean Genie」と非常に似通っていることで当時話題になった。実際、両曲は同じ年のほぼ同時期に発表されており、偶然の一致とされているものの、グラム・ロックというジャンル内での影響の波紋を感じさせる興味深い事例でもある。
「Block Buster!」が特異なのは、その音楽的な“警報性”とでも言うべき緊張感である。サイレンのように鳴るギター、ぶ厚いリズム、そして「We just haven’t got a clue what to do!(どうすればいいのか、まるで分からない!)」というパニック調の歌詞――それらは、単なるロックソングではなく、一種のポップ・スリラー的演出に満ちている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
You better beware, you better take care
気をつけろ、ちゃんと備えておけYou better watch out if you’ve got long black hair
黒くて長い髪をしてるなら、とくに気をつけろHe’ll come from behind, you go out of your mind
奴は背後からやってくる、そして君は正気を失うYou’d better not go, you’d never know what you’ll find
外に出るな、何が起こるか分からないからBlock Buster!
ブロック・バスターが来たぞ!
(参照元:Lyrics.com – Block Buster!)
この不穏な語りと命令口調は、スリル映画の予告編や、70年代の少年雑誌のような魅力を帯びている。
4. 歌詞の考察
「Block Buster!」の歌詞は、具体的なストーリーがあるというよりは、断片的なシーンの連続で構成されている。そこには明確な“悪”の存在と、それに怯える人々の群像があり、まるでポップ・カルチャー版の“ゴジラ”や“ジェイソン”が町に現れたかのような世界観が展開されている。
この“Block Buster”が象徴するものは、単なるモンスターではなく、社会の中に潜む混乱、逸脱、あるいは変化への恐怖心であるとも解釈できる。特にグラム・ロックというジャンルが、性の曖昧さや伝統的価値観への挑発をその表現に含んでいたことを考えれば、この曲は既成秩序を壊しに来た“異物”としての自分たちの存在を、戯画的に描いた自己言及的作品と見ることもできる。
その意味で「Block Buster!」は、当時の保守的な社会に対する**“グラム・ロックの逆襲”のテーマ曲**のような存在でもある。音もビジュアルも過剰であることを恐れず、あえてパニックを装いながら、実は自由と新しさの到来を告げる――それがこの曲の背後にあるメッセージなのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- The Jean Genie by David Bowie
同時期・同リフの姉妹曲とも言える存在。アート性と暴力性が交錯するストリートの物語。 - Hell Raiser by Sweet
同じくスウィートのグラム・アンセム。騒動と興奮がテーマ。 - Mama Weer All Crazee Now by Slade
群衆心理とパーティ感が溢れる、グラム期の代表的な熱狂ソング。 - Ballroom Blitz by Sweet
混乱と熱狂をテーマにした“暴動型ポップ”の名作。併せて聴きたい。
6. グラム・ロックの“非常警報”としての位置づけ
「Block Buster!」は、スウィートの音楽キャリアの中でも最も“危険な匂い”を放つ楽曲であり、グラム・ロックの視覚性・演劇性・挑発性のすべてを体現した象徴的作品である。彼らが後年に見せる洗練とは異なり、ここにはまだ荒削りな勢いと“社会をざわつかせる快感”が剥き出しになっている。
また、この楽曲は単なるノスタルジーではなく、現代のポップやファッション、パフォーマンスアートにも多大な影響を与え続けている。シンプルな構成ながら強烈なリフ、演劇的なヴォーカル、そして一度聞けば忘れられない“Block Buster!”のシャウト――それらは時代を超えて聴き手の心を揺さぶる力を持っている。
つまりこの曲は、単なるヒットソング以上に、“社会に何かが起きる予感”を音楽に閉じ込めた爆弾のような存在なのだ。今もどこかで、サイレンのようなギターとともに、「Block Buster!」が新たなカオスを呼び起こしているのかもしれない。
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