
1. 歌詞の概要
Takin’ Care of Businessは、カナダのロックバンド、Bachman-Turner Overdriveが1973年のアルバムBachman-Turner Overdrive IIに収録し、1974年にシングルとして広く知られるようになった楽曲である。作詞作曲はRandy Bachman。のちにバンドを代表するアンセムとなり、アメリカのBillboard Hot 100では12位、カナダのRPMチャートでは3位を記録した。ウィキペディア
歌詞の中心にあるのは、朝の通勤、仕事、日々のルーティン、そしてそこから少し距離を置いた自由な生き方である。
ただし、この曲は単純な労働賛歌ではない。
タイトルだけを見ると、いかにも仕事をバリバリ片づける男たちのテーマソングのように聞こえる。実際、スポーツ中継や映画、広告などで使われるときも、何かをやり遂げる場面、チームが勢いに乗る場面、働く人々がギアを上げる場面にぴったりはまる。
しかし歌詞をよく追うと、そこには少しひねったユーモアがある。
朝早く起き、電車に乗り、街へ出ていく人々。頭上では汽笛が鳴り、人は押し合い、日々の仕事へ向かっていく。その光景を見つめながら、語り手は自分の働き方を軽やかに誇る。自分は会社勤めではなく、自分のペースで動いている。しかもその語り口には、真面目さとふざけた感じが同居している。
この曲の面白さは、労働のしんどさを真正面から嘆くのではなく、ロックンロールの陽気なビートに乗せて、働くことそのものを少し茶化しているところにある。
それでも皮肉だけでは終わらない。
サビで繰り返されるタイトルフレーズは、聴いているうちに本当に力強い合言葉になっていく。仕事でも、遊びでも、バンド活動でも、生活でも、とにかく目の前のことを片づけていく。その感じが、ギターのリフとピアノの跳ねる音に乗って、どんどん身体に入ってくる。
つまりTakin’ Care of Businessは、労働者の歌であり、怠け者の歌であり、ロックバンドの自己紹介であり、人生を大げさに笑い飛ばすための曲でもある。
その二重性こそが、この曲を単なる70年代のヒット曲ではなく、時代を越えて使われ続けるロックアンセムにしているのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
この曲の原型は、Randy BachmanがThe Guess Whoに在籍していた時代に書いたWhite Collar Workerという曲だったとされる。もともとは、朝の通勤風景やホワイトカラーの生活を題材にした楽曲だった。だが当時のバンドでは採用されず、曲はしばらく眠ることになる。ウィキペディア
転機になったのは、Bachman-Turner Overdriveとして活動していた時期のライヴだった。
BTOは当時、まだ小さな会場を回っていた。Randy Bachmanはバンクーバーへ向かう道中、ラジオDJの決まり文句として使われていたtakin’ care of businessというフレーズを耳にする。その言葉が頭に残ったまま、夜のステージへ向かった。
その日のライヴで、リードヴォーカルのFred Turnerの声が出なくなった。そこでRandy Bachmanが急きょ歌うことになり、バンドにシンプルなコード進行を繰り返すよう指示した。そして、もともとあったWhite Collar Workerに、新しいフレーズを差し込んだ。
それがTakin’ Care of Businessだった。
観客は強く反応した。曲が終わっても手拍子と歓声が止まらず、バンドはもう一度その曲を引き延ばして演奏したという。楽曲がスタジオで緻密に完成されたというより、ライヴの熱気のなかで観客に発見されたような曲なのだ。
この成り立ちは、曲の質感にもそのまま表れている。
Takin’ Care of Businessは、完璧に磨き上げられたアートロックではない。むしろ、少し荒く、少し大雑把で、しかしやたらと気持ちがいい。ギターリフは直線的で、ドラムは太く、ベースは地面を踏みしめるように鳴る。そこへピアノが転がり込むことで、曲全体に酒場のような陽気さが生まれている。
スタジオ録音にはNorman Durkeeのピアノが入っている。彼がどのような経緯で参加したかについては複数の説があるが、このピアノが曲の印象を決定づけていることは間違いない。ハードロックの重量感だけなら、ここまで親しみやすい曲にはならなかったかもしれない。ピアノが入ることで、曲は工場のサイレンのような荒々しさと、週末のバーで鳴るブギの楽しさを同時に持つことになった。ウィキペディア
Bachman-Turner Overdriveというバンドにとっても、この曲は重要な位置にある。
BTOは、Randy Bachman、Tim Bachman、Robbie Bachman、Fred Turnerを中心にカナダで結成された。1970年代前半のロックシーンにおいて、彼らの音楽はきらびやかなグラムロックや実験的なプログレッシブロックとは少し違う場所にあった。もっと肉厚で、もっと路上に近く、トラックのエンジン音のように鳴るロックである。
Takin’ Care of Businessは、そのバンド像を一曲で伝えてしまう。
スマートすぎない。だが、そこがいい。
スーツの襟を正すより、作業着の袖をまくる。理屈を並べるより、アンプの音量を上げる。そんなバンドの美学が、この曲には詰まっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞全文は権利保護のため掲載しない。ここでは楽曲の主題がもっとも端的に表れている短いフレーズのみを引用する。
Takin’ care of business
和訳:
やるべきことを片づけている
仕事をきっちりこなしている
自分の持ち場を回している
このフレーズの面白さは、businessという言葉の幅にある。
businessは仕事、用事、商売、務め、やるべきこと、といった意味を持つ。だからTakin’ care of businessは、会社で仕事をするという意味にもなるし、自分の人生をうまく回しているという意味にもなる。さらにロックの文脈では、ステージで観客を沸かせる、バンドとして役目を果たす、というニュアンスにも聞こえる。
歌詞全体では、朝の通勤や労働のイメージが描かれる一方で、語り手はそのシステムから少し外れた場所にいる。だからこのタイトルフレーズは、真面目な労働のスローガンであると同時に、自由業的な開き直りの言葉でもある。
引用元としては、Spotifyなどの配信サービス上で歌詞が確認できるほか、楽曲情報はBachman-Turner OverdriveのTakin’ Care of Businessとして各種音楽データベースに掲載されている。Spotify上でも同曲の歌詞冒頭が表示されている。Spotify
著作権表記については、作詞作曲者はRandy Bachman。楽曲はMercury Recordsからリリースされ、各配信ではUniversal Music Group関連の音源として扱われている。YouTubeの公式音源情報では、1973年の音源としてUniversal Music Group経由で提供されていることが確認できる。
4. 歌詞の考察
Takin’ Care of Businessの歌詞は、働くことをテーマにしているのに、どこか働きたくない人の歌にも聞こえる。
そこがとてもロックである。
ロックンロールは、まじめな社会の横に開いた抜け道のような音楽だ。朝、目覚まし時計に起こされる。電車に乗る。人混みに押される。誰かに雇われ、時間に縛られる。そうした日常の重さを、曲は否定しない。むしろ冒頭からしっかり描いている。
だが、その描き方は暗くない。
都市へ向かう通勤者たちの風景は、ブルースのような疲労感を持ちながらも、演奏はひたすら明るい。ドラムは転がり、ギターは分厚く鳴り、ピアノはまるで机の上を指で叩きながら鼻歌を歌うように跳ねる。
この落差が、歌詞の皮肉を引き立てる。
普通なら、朝の通勤風景は憂うつなものとして描かれる。だがこの曲では、それがひとつのショーのように見える。人々が押し合い、汽笛が鳴り、街が動き出す。その大きな機械のような社会を眺めながら、語り手は自分なりのbusinessをこなしている。
ここでいうbusinessは、必ずしも会社の仕事ではない。
ギターを弾くこと。歌うこと。バンドを続けること。観客を踊らせること。日々を楽しむこと。自分の生活を、自分のリズムで回すこと。
この曲が長く愛されている理由は、そこにある。
聴き手は、自分の置かれた状況に合わせて、このフレーズを受け取ることができる。月曜の朝に聴けば仕事へ向かうための景気づけになる。週末に聴けば、一週間を笑い飛ばすための乾杯の音になる。スポーツの映像に乗れば、チームが勝負に向かうテーマになる。映画で流れれば、登場人物がようやく歯車を動かし始める合図になる。
つまりTakin’ Care of Businessは、意味が固定されすぎていない。
それが強い。
タイトルフレーズは、ほとんど掛け声に近い。英語の細かい意味を知らなくても、サビを聴けばなんとなく分かる。やるぞ、片づけるぞ、こっちの番だぞ。そんな身体感覚がある。
サウンド面では、C、B♭、Fを中心にしたシンプルな進行が、曲の推進力を作っている。難しい展開で驚かせるのではなく、同じリフを繰り返すことで身体を巻き込んでいく。いわばエンジンの回転音のようなロックである。
ギターは硬く、少し埃っぽい。都会の洗練というより、ハイウェイ沿いのガレージから鳴っているような音だ。ベースとドラムは派手に暴れるというより、どっしりと下を支える。そこにピアノが加わることで、労働歌のような力強さと、ロックンロールの祝祭感がつながる。
Randy Bachmanのヴォーカルも、技巧で聴かせるタイプではない。
むしろ、語りかけるような粗さが魅力である。喉の奥から出る声には、完璧なスターというより、ステージに立った労働者のような質感がある。ギターを担いで、汗をかいて、夜ごと会場を回っている男の声。だからこそ、歌詞のユーモアが嫌味にならない。
この曲では、ロックバンドであることもひとつの労働として響いている。
華やかな世界に見えるが、実際には移動、設営、演奏、撤収、また移動の連続だ。毎晩違う町で音を出し、観客をつかまなければならない。BTOのようなバンドにとって、ロックは夢であると同時に、かなり肉体的な仕事でもあったはずだ。
だからTakin’ Care of Businessという言葉は、彼ら自身のスローガンでもある。
自分たちは今夜もやるべきことをやる。アンプを鳴らし、リフを刻み、客を沸かせる。それだけだが、それがすべてなのだ。
この潔さが、曲を強くしている。
1970年代のロックには、巨大化していく産業としてのロックと、まだ地元のバーやホールの匂いを残すロックが同時に存在していた。BTOは後者の感触を持ちながら、チャートでも成功したバンドである。Takin’ Care of Businessは、まさにその接点にある曲だ。
洗練されすぎていないから、誰でも入っていける。
単純だから、何度でも歌える。
少し皮肉があるから、大人になってから聴いても面白い。
一見すると、ただのご機嫌なロックンロールに聞こえる。だがよく聴くと、そこには働くことへの距離感、自由へのあこがれ、そして日々を笑い飛ばすための知恵がある。
この曲は、人生を劇的に変えてくれる歌ではないかもしれない。
けれど、朝の重い足取りを少し軽くすることはできる。退屈な作業にリズムを与えることもできる。やる気が出ない日に、ばかばかしいくらい大きな音で背中を押してくれる。
それがTakin’ Care of Businessの本当の力である。
歌詞引用部分の権利は作詞作曲者および権利管理者に帰属する。本記事では批評・解説を目的として、最小限の範囲で引用している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- You Ain’t Seen Nothing Yet by Bachman-Turner Overdrive
同じBTOの代表曲で、1974年のアルバムNot Fragileから生まれた大ヒットである。Takin’ Care of Businessよりもポップなフックが強く、サビの開放感が抜群だ。BTOの重たいギターサウンドと、耳に残るメロディのバランスを味わうなら外せない一曲である。Billboard Hot 100とカナダのRPMチャートで1位を記録した楽曲としても知られている。ウィキペディア
– Let It Ride by Bachman-Turner Overdrive
Takin’ Care of Businessと同じ時期のBTOらしさを味わえる曲。こちらはよりメロディアスで、ギターのうねりにも少し哀愁がある。ハードロックの力強さだけでなく、70年代ラジオロックの乾いた夕暮れ感を楽しめる。Takin’ Care of Businessの陽気な労働感に対して、Let It Rideはもう少し旅の匂いがする。
– Roll On Down the Highway by Bachman-Turner Overdrive
タイトル通り、ハイウェイを突っ走るようなロックナンバー。BTOの魅力である重量級のリフ、タイトなリズム、男くさいコーラスがそろっている。Takin’ Care of Businessを聴いて、もっとエンジン音のするロックが欲しくなった人には特に合う。車の窓を開けたくなるタイプの曲である。
– China Grove by The Doobie Brothers
BTOのブギ感やピアノを含んだロックの楽しさが好きなら、The Doobie BrothersのChina Groveもよく響くはずだ。リフの切れ味、軽快なグルーヴ、アメリカンロックらしい明るさがある。BTOより少し洗練されているが、身体を動かすロックとしての快感は近い。
– Bad Case of Loving You by Robert Palmer
少し時代は進むが、シンプルなロックンロールの推進力という点で相性がいい。ギターリフが前に出て、ヴォーカルが勢いよく飛び込んでくる。Takin’ Care of Businessのように、深刻になりすぎず、しかし演奏はしっかり太い。気分を上げたいときに効く、ロックの栄養ドリンクのような曲である。
6. ロックンロールが仕事になる瞬間
Takin’ Care of Businessは、仕事の歌でありながら、仕事から逃げる歌でもある。
この矛盾が、曲を長持ちさせている。
多くの人にとって、仕事は避けられないものだ。朝起きて、移動して、決められた場所へ行く。誰かに会い、何かをこなし、疲れて帰る。その繰り返しは、時に人を小さくする。
けれどロックンロールは、その繰り返しに別のリズムを与える。
Takin’ Care of Businessを聴くと、通勤電車の揺れも、工場の機械音も、オフィスのざわめきも、どこかバンドのリズム隊のように聞こえてくる。現実が少しだけ音楽に変わる。その変換こそが、この曲の魔法なのだ。
しかも、この曲は説教しない。
頑張れとは言わない。努力しろとも言わない。夢を追えと大げさに叫ぶわけでもない。ただ、分厚いリフで笑いながら言う。やることをやっているじゃないか、と。
その軽さがいい。
人生には、深刻なメッセージよりも、こういう太いリフのほうが効く日がある。何かを成し遂げる前から、もう少し元気になれる。問題が解決していなくても、足がリズムを刻み始める。
Bachman-Turner Overdriveは、この曲で巨大な思想を提示したわけではない。だが、ロックバンドにしかできない方法で、日常に火をつけた。
Takin’ Care of Businessは、立派な労働賛歌ではない。むしろ、少しずるく、少し笑えて、少し自由な労働賛歌である。
そこには、朝の目覚まし時計に勝つための音がある。
人混みを抜けるためのリズムがある。
そして、今日も何とか自分のbusinessを片づけるための、最高に頼もしいギターリフがある。

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