God Shuffled His Feet by Crash Test Dummies(1993)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「God Shuffled His Feet」は、カナダのフォーク・ロック・バンドCrash Test Dummies(クラッシュ・テスト・ダミーズ)が1993年にリリースしたセカンド・アルバム『God Shuffled His Feet』のタイトル・トラックであり、神、信仰、そして人間の存在意義を、哲学的かつユーモラスに問い直す寓話的な楽曲である。

歌詞の内容は、“人々が神に会いに行く”という神話的な状況を描くもので、神の姿はまるで人間のように、穏やかで礼儀正しく、しかしどこか頼りなく、語る言葉すら曖昧な存在として描かれている。
人々は神に「世界の仕組み」や「人生の意味」を問いたくて集まるが、神は何も明確には答えず、ただ“足をもじもじと動かした”——“God shuffled His feet”という謎めいた描写が残される。

この曲は、“絶対的な答え”を期待する人間の欲望と、神や宇宙の沈黙との対峙を、ユーモアと詩的イメージで巧みに描き出している。
宗教的というよりはむしろ信仰そのものをメタ的に捉える問いの歌として、多くのリスナーに深い余韻を残した。

2. 歌詞のバックグラウンド

Crash Test Dummiesは、常に宗教、哲学、文学、皮肉といった要素を独自のユーモアと低音の美学で包み込むスタイルを貫いてきたバンドであり、「God Shuffled His Feet」はその代表的な例である。

この楽曲は、ヴォーカリストでソングライターのブラッド・ロバーツ(Brad Roberts)によって書かれた。彼はしばしば、人間の信念や社会の制度を、寓話的なフィルター越しに再解釈し、疑問を投げかける作風を得意としている。

“神が足をもじもじさせる”というイメージは、神が全知全能であるはずだという固定観念に対する疑念と、神の不在感あるいは曖昧さを、風刺的に表現したものと考えられる。
この構図は、聖書的な荘厳さというよりも、サミュエル・ベケット的な不条理劇や、モンティ・パイソン的な風刺に近い。

また、曲のアレンジも印象的で、静かなピアノと語るようなバリトンボイス、滑らかなギターと不穏なストリングスが、神秘と皮肉の狭間で揺れるリスナーの感情を巧みに導いていく

3. 歌詞の抜粋と和訳

“After seven days / He was quite tired, so God said: Let there be a day / Just for picnics, with wine and bread”
七日間の創造の後
神は疲れて言った:「今日はピクニックにしよう。ワインとパンを持って」

“He said: ‘Some days I’ll lie on my back and look up in the sky / And wonder why there’s something rather than nothing at all’”
神は言った:「ある日は空を見上げて思うのさ
“なぜ無ではなく、何かが存在するのだろう”とね」

“And then he shuffled his feet / And glanced around at them”
そして神は足をもじもじと動かし
人々をちらりと見渡した

“The people sat waiting out on their blankets in the garden / But God said nothing”
人々は庭の敷物の上で答えを待っていたが
神は何も言わなかった

引用元:Genius

4. 歌詞の考察

この曲の美しさは、神と人間の関係を“問いと沈黙”の形式で描いた点にある
語られる神は威厳ある支配者ではなく、どこか親しみやすく、しかし決して明確な答えを与えようとしない存在だ。
彼はピクニックを好み、存在の意味について独りごちる——まるで思索的な哲学者であり、同時に“答えを持たない神”でもある

「And then he shuffled his feet」という行動は象徴的で、これは何かを言い淀んだり、責任を避けたり、あるいは“わかっているが言わない”という態度の象徴とも読み取れる。
それは、宗教が提供しようとしてきた“絶対的な答え”が、実際にはいつも沈黙と余白に満ちているという冷ややかな視線でもある。

そして人々は、神が答えてくれることを期待して集まる。だが、神は何も語らない。
この構図はまるで人間の内面にある“救済の物語を欲しがる本能”と、それに応じてくれる存在の不在を、そっと突きつけてくる。

それでもこの曲は、ニヒリズムに陥るわけではない。むしろ、“答えが与えられなくても、それでも問い続けることが人間である”という美学が静かに息づいている。
ブラッド・ロバーツの低く穏やかな語り口が、その“問いを抱えたまま生きる姿勢”に温かさと品格を与えているのである。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “One of Us” by Joan Osborne
    「神様がもし普通の人間だったら?」という問いを通して信仰の本質を探る90年代の名曲。
  • Losing My Religion” by R.E.M.
    信仰と疑念の間で揺れる人間の姿を繊細に描いたオルタナティヴ・クラシック。
  • “Dear God” by XTC
    神の沈黙に対する怒りと失望をストレートにぶつけた、痛烈な信仰批判ソング。
  • “With God on Our Side” by Bob Dylan
    神の名のもとに繰り返される戦争と欺瞞を、冷徹な観察で描いたフォークの傑作。
  • Hallelujah” by Leonard Cohen
    信仰、愛、絶望が複雑に絡み合う、最も美しく複雑な“神の歌”のひとつ。

6. 沈黙する神と、問い続ける人間——Crash Test Dummiesが描いた“信仰の寓話”

「God Shuffled His Feet」は、神という概念を権威でも超越者でもなく、“わからなさ”そのものとして描いた極めて現代的な寓話である。
それは、宗教そのものを否定するものではなく、むしろ「神とは何か」「信じるとはどういうことか」という問いを“詩的なかたち”で提示する試みなのだ。

Crash Test Dummiesはこの曲で、信仰を押しつけることも、風刺で断罪することもせず、ただ静かに、答えなき世界を生きる者たちの姿を見つめる
そして、神が沈黙するその足元で、人々が問い続けること——それこそが、私たちの生きる意味の断片なのかもしれない。

「God Shuffled His Feet」は、“答えなき問い”を生きる私たち全員のための、小さな叙事詩である。

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