- 発売日: 2007年9月11日
- ジャンル: アートロック、エクスペリメンタルロック、インディーロック
Dirty ProjectorsのRise Aboveは、2007年にリリースされ、バンドの革新性と実験性を存分に発揮した作品である。このアルバムは、Black Flagの1981年のパンク・クラシックアルバムDamagedを、デイヴ・ロングストレスの記憶を頼りに独自のアレンジで再解釈したものである。オリジナルの曲の構造や歌詞をほとんど覚えていないというロングストレスの記憶を基に、完全に新しい解釈が施され、パンクのエネルギーとエクスペリメンタルなアートロックが融合した異色の作品となっている。
このアルバムでは、アコースティックギターのリズムに複雑なポリリズムや変拍子が重ねられ、さらにエンジェル・デラドゥーリアンとアンバー・コフィンによる女性のハーモニーが独特な緊張感を加えている。ロングストレスの飄々としたボーカルと、時折激しくなるギターリフが混ざり合い、聴く者を予測不可能な音楽の旅に誘う。このRise Aboveは、単なるパンクのカバーアルバムではなく、ロックとアートを融合させたDirty Projectorsのオリジナリティが炸裂するアルバムだ。
トラック解説
1. What I See
アルバムの幕開けを飾るこの曲は、緊張感のあるリズムと不安定なメロディが特徴的。ロングストレスのボーカルとバックグラウンドのコーラスが奇妙なハーモニーを奏で、オリジナルのパンクから一変したアートロックへと昇華している。
2. No More
複雑なリズムとギターの不協和音が交差する一曲。ロングストレスの抑揚のある歌い方が、内向的な雰囲気を漂わせる。Black Flagのオリジナルの激しさは残しつつも、Dirty Projectorsの独自の視点から再構成されている。
3. Depression
静かに始まるイントロから、激しくなる展開が印象的な曲。エンジェル・デラドゥーリアンとアンバー・コフィンの美しいハーモニーが、タイトルに反してどこか温かみを感じさせる。抑制されたエネルギーと静かな激しさが調和している。
4. Six Pack
オリジナルのパンク的な疾走感を残しつつ、複雑なリズム構成でアレンジされている。ボーカルのリフレインが耳に残り、バンド全体の一体感が感じられる。パンクのエネルギーと実験的な要素が混在し、スリリングな印象を与える。
5. Thirsty and Miserable
浮遊感のあるメロディとリズムが不穏な雰囲気を醸し出すトラック。ロングストレスのボーカルが感情を抑えつつも、その裏にある焦燥感を滲ませる。アートロックとパンクが独自の形で融合した、異色のサウンドが展開されている。
6. Police Story
荒々しいギターフレーズと、ジャズ的なリズムが印象的。ボーカルが次第に熱を帯び、エンジェルとアンバーのハーモニーが冷たい静寂を生み出している。攻撃的なタイトルに反して、どこか無機質で抑制された雰囲気が漂っている。
7. Gimme Gimme Gimme
原曲の激しいエネルギーを維持しながらも、リズムとメロディの複雑さが増している。アコースティックギターが特徴的で、ローファイな質感と混ざり合い、Dirty Projectorsならではの実験的なサウンドが炸裂する。
8. Spray Paint (The Walls)
静かなイントロから徐々に盛り上がり、エモーショナルな展開を見せる一曲。オリジナルの攻撃的なエネルギーに対し、ここでは繊細さが強調され、バンドの成熟した音楽性が感じられる。
9. Room 13
美しいメロディとボーカルのハーモニーが際立つ一曲。静かなリズムの中に、ロングストレスのボーカルが浮かび上がり、詩的な雰囲気を漂わせている。緊張感のあるサウンドが独特の引力を生み出し、聴く者を惹きつける。
10. Rise Above
アルバムのタイトル曲であり、力強いボーカルとリズムが特徴。オリジナルのBlack Flagのパンクソングをアートロックに昇華し、抑制されたエネルギーが内面から湧き上がるように感じられる。アルバムの締めくくりにふさわしい、エモーショナルなフィナーレだ。
アルバム総評
Rise Aboveは、Dirty Projectorsの独創性が存分に発揮されたアルバムであり、単なるカバーを超えたアートロックとして完成された作品だ。Black Flagの攻撃的なパンク・エネルギーを新しい視点で再構成し、ロングストレスの独自の解釈とバンドの実験的なアプローチが融合している。リズムやハーモニーの複雑さ、不協和音を取り入れたアレンジは、オリジナルのパンクファンにとっても新鮮であり、またアートポップのファンにとっても興味深い要素が詰まっている。Dirty Projectorsの音楽的探求が一段と深化した本作は、リスナーに挑戦を促し、新たな音楽体験を提供している。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- Person Pitch by Panda Bear
サイケデリックなエレクトロニカとアートポップが融合し、実験的なサウンドが印象的。Dirty Projectorsのような大胆な音の遊びが好きなリスナーにぴったり。 - Bitte Orca by Dirty Projectors
Rise Aboveに続くDirty Projectorsの代表作で、複雑なハーモニーとリズムがさらに進化している。ロングストレスの作曲センスが一段と冴えた一枚。 - Remain in Light by Talking Heads
アフリカンリズムやポリリズムを取り入れ、実験的な要素が詰まった名盤。リズムやリフの反復がRise Aboveに通じる部分がある。 - Veckatimest by Grizzly Bear
美しいハーモニーとアートポップ的な要素が際立つアルバム。複雑な構成や緊張感のあるサウンドがDirty Projectorsファンに響く。 - A New White by Subtle
インディーロックとヒップホップ、エレクトロニカが交差するユニークな作品で、アヴァンギャルドなアレンジが特徴。Dirty Projectorsのファンには、その実験的な音楽性が魅力的に映るだろう。
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