発売日: 1996年6月4日
ジャンル: メロディック・ハードコア、パンクロック、ハードコア・パンク
“反逆”を語るための実践マニュアル——激情と信念が交錯する、90年代パンクの金字塔
『A Comprehensive Guide to Moderne Rebellion』は、カリフォルニアの政治的ハードコア・パンクバンドGood Riddanceが1996年に発表した2作目のフルアルバムである。
前作『For God and Country』(1995)で鮮烈なデビューを果たした彼らは、本作でさらにリリックの鋭さとサウンドの完成度を研ぎ澄ませ、メロディック・ハードコアの代表格としての地位を確立した。
アルバムタイトルは、“現代的反逆への包括的な指針”という意訳が可能であり、
その名の通り、本作は政治的憤り、個人の倫理、社会制度への批判といったテーマを、緻密な構成と怒れるメッセージでまとめ上げた、まさに反逆のマニュアルのような内容となっている。
プロデューサーにはFat Wreck Chordsの重鎮Ryan Greeneを起用。
スピード、メロディ、インテリジェンスの三位一体が、ここに極まる。
全曲レビュー
1. Weight of the World
社会における抑圧と無力感を“世界の重み”として描写。
疾走感とともに、Good Riddanceのシリアスな政治性が冒頭から全開になる。
2. Steps
“変化への一歩”を象徴するメッセージ・ソング。
ポジティブさと焦燥感が同居し、青臭さではなく信念としての決意が感じられる。
3. A Credit to His Gender
フェミニズムとジェンダー観への考察をテーマにした異色の楽曲。
保守的な価値観への批判が込められた、当時としては大胆な社会的問いかけ。
4. Trophy
前作からの再録。
動物の命と人間の快楽を天秤にかける社会を糾弾する一曲。
Good Riddanceのアニマルライツ思想を象徴する代表作。
5. Up & Away
スピード重視のパンクナンバー。
逃避ではなく、上昇=向上としての“飛翔”が、自己肯定と結びついている。
6. Last Believer
再び登場する前作曲のリミックス版。
“信じる者の孤独と誇り”を描いた、感情的にも構成的にもタフなアンセム。
7. Static
情報の洪水と精神の沈黙を“ノイズ(=static)”として描く現代批評ソング。
無音と騒音のはざまで、Good Riddanceの知性がきらりと光る。
8. Favorite Son
ナショナリズムと軍国主義への批判を明確に打ち出した楽曲。
“お気に入りの息子”という皮肉なタイトルが、戦死や英雄神話の虚構を暴く。
9. West End Memorial
都市空間と個人の喪失感を描いた、抒情的なミドルテンポの楽曲。
ハードコアながらもエモーショナルな構成が心を打つ。
10. This Is the Light
“それでも希望を信じたい”という願いが込められた一曲。
荒々しいサウンドの中に、静かに灯るような肯定が感じられる。
11. Bittersweet
甘さと苦さのあいだを彷徨うような、エモーショナルな短編。
個人的な関係性と社会構造が交錯する、詩的で痛切な曲。
12. Token Idiot
“トークン的存在”という言葉を使ったアイデンティティ批判。
ステレオタイプや差別の構造を、ユーモアと毒舌で撃ち抜く。
13. Come Dancing (The Kinks カバー)
唯一のカバー曲。
Kinksのオリジナルに比べて遥かにスピーディかつハードだが、
“かつての幸福な時間”へのノスタルジーは、違和感なく溶け込んでいる。
14. Lampshade
人生の中にある“仮面”や“隠蔽”を象徴するランプシェード(照明の覆い)をテーマにした曲。
アルバムの締めくくりにふさわしく、問いを残しながら幕を引く。
総評
『A Comprehensive Guide to Moderne Rebellion』は、Good Riddanceが90年代パンクシーンにおいて、単なる反骨ではなく“思想と対話をもった怒り”を提示するバンドであることを決定づけた作品である。
パンクの即効性と、リリックの知性。
ハードコアの激しさと、エモーショナルな人間味。
それらを両立させた本作は、ラディカルでありながら深く、誠実でありながら鋭い。
デビュー作の荒々しさを洗練させ、バンドとしてのアイデンティティを確立したこのアルバムは、
後続の政治的ハードコア/メロディック・パンクバンドたちにとっての“教科書”であり続けている。
おすすめアルバム
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Strike Anywhere – Exit English (2003)
政治的メッセージとメロディックなアプローチを融合した後継バンドの代表作。 -
Propagandhi – Less Talk, More Rock (1996)
同時期に出た思想的ハードコア・パンクの傑作。 -
Bad Religion – No Control (1989)
インテリジェンスとスピードが共存するメロディック・ハードコアの原点。 -
None More Black – File Under Black (2003)
パーソナルで皮肉なリリックがGood Riddance的美学と交差する。 -
Rise Against – Revolutions Per Minute (2003)
政治とメロディック・ハードコアの理想的結合。GRからの影響も濃い。
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