アルバムレビュー:Low by David Bowie

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:1977年1月14日

ジャンル:アート・ロック、エクスペリメンタル・ロック、クラウトロック、アンビエント、ニューウェイヴ、電子音楽

概要

David BowieのLowは、1977年に発表されたスタジオ・アルバムであり、Bowieのキャリアだけでなく、ロック史全体においても極めて重要な転換点となった作品である。一般に「ベルリン三部作」の第一作として知られるが、実際の録音はフランスのChâteau d’Hérouvilleと西ベルリンのHansa Studioで行われた。Tony Viscontiをプロデューサーに迎え、Brian Enoが重要な共同制作者として参加した本作は、Bowieが1970年代前半から中盤にかけて築いてきたグラム・ロック、ソウル、ファンク、演劇的なキャラクター表現から大きく距離を取り、断片化されたロック・ソングと電子音響、アンビエント的なインストゥルメンタルを組み合わせた革新的なアルバムである。

Lowが生まれた背景には、Bowie自身の精神的・身体的な危機がある。1976年のStation to Station期、Bowieはアメリカでの生活、薬物依存、Thin White Dukeという冷たく危険なキャラクター、オカルトやファシズム的イメージへの接近によって、極度に不安定な状態にあった。Station to Stationは音楽的には非常に優れた作品だったが、その背後には破滅的な緊張が存在していた。Bowieはその状況から逃れるため、アメリカを離れ、ヨーロッパへ向かう。西ベルリンという分断された都市は、彼にとって匿名性と再生の場所であり、同時に冷戦の緊張、瓦礫の記憶、工業的な孤独を抱えた場所でもあった。

本作のタイトルLowは、低い状態、気分の落ち込み、精神的な下降を思わせる。Bowieはここで、以前のように巨大なキャラクターを演じるのではなく、むしろ壊れた自己、断片化した感情、言葉にならない不安を音にしている。Ziggy StardustやAladdin Saneの時代には、Bowieは自らの危機を演劇的なキャラクターへ変換していた。しかしLowでは、キャラクターが後退し、声も言葉も断片化される。Bowieはここで、完全な物語を語ることをやめ、壊れた意識の断片をそのまま提示する。

アルバム構成は非常に独特である。A面に相当する前半は、短く切り詰められたロック/ポップ・ソングが並ぶ。多くの曲は2分台で終わり、歌詞も断片的で、従来のヴァース/コーラス構造を意図的に避ける場面が多い。「Speed of Life」「Breaking Glass」「What in the World」「Sound and Vision」「Be My Wife」などは、いずれも強いリズムとメロディの断片を持ちながら、完全なポップ・ソングとして展開しきる前に終わってしまうような印象を与える。これは、Bowieの精神状態そのものを反映しているようでもある。曲は始まるが、完全には語られない。感情は現れるが、説明されない。

一方、B面に相当する後半は、ほぼインストゥルメンタル中心の電子音響作品群で構成される。「Warszawa」「Art Decade」「Weeping Wall」「Subterraneans」は、ロック・アルバムの中に突然現れる深い音響空間であり、アンビエント、クラウトロック、現代音楽、映画音楽的な感覚が混ざり合っている。ここではBowieの歌声は言葉を失い、時に非言語的な声として響く。意味を持つ歌詞よりも、音色、空間、残響、声の質感が重要になる。この構成は、当時のメインストリーム・ロックとしては非常に大胆だった。

Brian Enoの存在は本作の革新性に大きく関わっている。EnoはRoxy Music脱退後、電子音楽、アンビエント、偶然性を重視した作曲法に関心を深めていた。Lowでは、彼のシンセサイザーや音響的発想が、Bowieの断片的な作曲と結びつくことで、ロックの枠を超えた音世界が生まれている。ただし、本作を単純に「BowieがEnoに影響されたアルバム」と見るのは不十分である。Bowie自身もすでにドイツのクラウトロック、特にKraftwerk、Neu!、Cluster、Harmoniaなどに強い関心を持っていた。Lowは、Bowieのポップ・センス、Enoの音響実験、Viscontiのプロダクション、そしてドイツ電子音楽の影響が高度に結合した作品である。

Tony Viscontiのプロダクションも非常に重要である。特にDennis Davisのドラムに施された処理は、本作のサウンドを決定づけている。ドラムは生々しいロックの響きではなく、ゲート処理されたような硬く乾いた質感を持ち、のちのニューウェイヴやポストパンク、さらには1980年代のドラム・サウンドにも大きな影響を与えた。George Murrayのベース、Carlos AlomarとRicky Gardinerのギター、Roy Youngの鍵盤も、過剰な演奏ではなく、音の断片として機能する。バンド演奏でありながら、全体は非常に編集的で、機械的で、断片化されている。

音楽史的に見ると、Lowはポストパンク、ニューウェイヴ、シンセポップ、アンビエント、インダストリアル、オルタナティヴ・ロックに大きな影響を与えた。Joy Division、Gary NumanThe Human League、Magazine、UltravoxDepeche ModeNine Inch Nails、Radioheadなど、直接的・間接的に本作の影響を受けたアーティストは非常に多い。ロック・アルバムにおいて、歌、リズム、電子音、無言の空間がこれほど大胆に共存した例は、それ以前には少なかった。Lowは、ロックが自己表現や物語性だけでなく、音響そのものによって精神状態を描くことができることを示した。

全曲レビュー

1. Speed of Life

アルバム冒頭の「Speed of Life」は、Bowieのヴォーカルを持たないインストゥルメンタルであり、Lowという作品の異質さを最初から宣言する楽曲である。通常、ロック・アルバムの冒頭曲は、歌手の声や明確なメッセージによって聴き手を迎えることが多い。しかし本作では、Bowieはまず声を消す。これは非常に象徴的である。Lowは、Bowieが自らの声やキャラクターを一度解体するアルバムだからである。

音楽的には、鋭いドラム、うねるベース、シンセサイザー、ギターの断片が組み合わされ、短いながらも強い推進力を持つ。Dennis Davisのドラムは極めて硬く処理されており、従来のロック・ドラムとは異なる機械的な質感を持つ。曲名の「Speed of Life」は、人生の速度、あるいは意識の速度を示すように響くが、楽曲そのものは前へ進むエネルギーと、どこか制御不能な不安を同時に持っている。

歌がないことで、聴き手はメロディや言葉ではなく、音の質感そのものに意識を向けることになる。Bowieはここで、従来のソングライターとしてではなく、音響の構成者として登場する。この曲は、アルバム全体の前置きであり、Bowieが「言葉ではなく音で精神状態を語る」方向へ進むことを示している。

2. Breaking Glass

「Breaking Glass」は、非常に短い楽曲でありながら、Lowの前半を象徴する断片的なロック・ソングである。タイトルは「ガラスを割る」という意味で、破壊、暴力、神経症的な衝動を連想させる。曲はわずか数分にも満たないが、その中に不穏な関係性、自己破壊、支配、断片化した感情が詰め込まれている。

音楽的には、鋭いリズムとファンキーなベース、切れ味のあるギターが中心である。Bowieのヴォーカルは短いフレーズを投げつけるように歌われ、歌詞はほとんど断片で構成される。従来の物語的な歌詞ではなく、壊れた会話の一部だけを聴かされているような印象を受ける。

歌詞には、部屋、祈り、ガラス、他者への不穏な言及が現れる。ここでの語り手は、相手を傷つけているのか、自分自身を傷つけているのか、明確ではない。重要なのは、感情が整った言葉にならず、暴力的な断片として噴き出している点である。Bowieはここで、Thin White Duke期の危険な冷たさを、さらに壊れた形で提示している。

この曲の短さは、未完成ではなく意図的な切断である。曲がもっと展開してもよさそうな瞬間に終わることで、聴き手は不安を抱えたまま次の曲へ移される。これはLow前半全体の特徴であり、Bowieの精神的断片化を音楽構造として表現している。

3. What in the World

「What in the World」は、前曲から続く神経質なエネルギーをさらに加速させる楽曲である。タイトルは「一体何が起きているのか」という困惑を示し、本作全体の精神状態をよく表している。Bowieはここで、自分の置かれた世界、自分自身の内面、他者との関係を理解できないまま、混乱の中で歌っているように響く。

音楽的には、速いテンポ、鋭いシンセ、硬いドラム、ファンキーなベースが組み合わされ、非常に落ち着きのない曲になっている。Iggy Popのバッキング・ヴォーカルも加わり、ベルリン期周辺のBowieとIggyの創作的な結びつきが感じられる。サウンドにはパンクやニューウェイヴを先取りするような切迫感があり、1977年という時代の変化を強く反映している。

歌詞では、女性像や自己の混乱が断片的に現れる。ここでも物語は明確ではなく、感情の破片だけが提示される。Bowieは何かを説明するよりも、混乱そのものを音にしている。曲はポップなエネルギーを持つが、その内側には不安と焦燥がある。

「What in the World」は、LowのA面における断片的ポップの典型である。短く、鋭く、踊れる要素がありながら、どこか壊れている。後のポストパンクが持つ、リズムの身体性と精神的な不安の結合が、すでにここに表れている。

4. Sound and Vision

「Sound and Vision」は、Lowの中でも最も有名な楽曲の一つであり、Bowieの代表曲の一つとして広く知られている。だが、この曲の魅力は、単にキャッチーなメロディにあるのではない。むしろ、明るく軽快なサウンドと、歌詞に込められた孤独や沈黙の対比にこそ重要性がある。

音楽的には、軽やかなリズム、印象的なシンセサイザー、明るいコーラスが曲を支えている。冒頭からしばらくBowieのヴォーカルが入らず、楽器とコーラスが空間を作る。この構成は非常に大胆で、ポップ・ソングとしては歌の登場を遅らせることで、待機と空白の感覚を生む。Bowieがようやく歌い始めると、その声は孤独な部屋の中から聞こえてくるように響く。

歌詞では、青い部屋、カーテン、音と視覚を待つ語り手が描かれる。これは、創作の回復を待つBowie自身の姿として読むことができる。彼はまだ完全に歌えない。まだ世界とつながれない。ただ、音と視覚が戻ってくるのを待っている。表面的には明るい曲だが、その中心には深い鬱状態と創造力の停滞がある。

この曲が重要なのは、Bowieが自己の沈黙や孤独を、暗いバラードではなく、明るく簡潔なポップ・ソングとして提示している点である。喜びと空虚、光と閉塞が同時に存在する。この二重性が「Sound and Vision」を、Lowの中でも最も完成度の高い楽曲の一つにしている。

5. Always Crashing in the Same Car

「Always Crashing in the Same Car」は、本作の中でも特に内省的で、Bowieの自己破壊的な行動を象徴する楽曲である。タイトルは「いつも同じ車で衝突している」という意味で、同じ失敗を繰り返すこと、自己破壊のパターンから抜け出せないことを示している。これは、薬物依存や精神的混乱を経たBowieの自己認識として非常に重要である。

音楽的には、落ち着いたテンポで、冷たいシンセサイザーとギターが空間を作る。曲には派手な爆発はなく、むしろ静かな反復が支配している。Bowieのヴォーカルは抑制され、疲労感を帯びている。彼は破滅を叫ぶのではなく、すでに何度も繰り返してきた事故を淡々と認めるように歌う。

歌詞では、同じ車で同じように衝突する語り手の姿が描かれる。これは非常に強い比喩である。人は自分の破滅の仕方を知っていても、それをやめられないことがある。Bowieはここで、自己破壊をロマンティックに美化していない。むしろ、そこには疲れと諦めがある。

ギター・ソロも重要である。Ricky Gardinerのギターは、感情を直接的に泣かせるというより、冷たい空間の中で浮遊するように響く。その音は、事故の衝撃ではなく、事故の後に残る静けさのようである。この曲は、Lowの中でもBowieの自己分析が最も深く表れた楽曲の一つである。

6. Be My Wife

「Be My Wife」は、Low前半の中では比較的伝統的なポップ・ロックに近い構造を持つ曲である。しかし、その歌詞と歌唱には、孤独と切実さが強くにじんでいる。タイトルは「僕の妻になってくれ」という直接的な求愛の言葉だが、ここでの求愛は幸福な愛の宣言ではなく、孤立した人物が誰かにすがるような響きを持つ。

音楽的には、ピアノのリフとギター、硬いドラムが曲を引っ張る。少し古いロックンロール的な感触もあり、Bowieの作品の中では比較的親しみやすい。しかし、その親しみやすさの裏に、語り手の切実な孤独がある。Bowieのヴォーカルはどこか乾いており、求愛の言葉が完全には温かく響かない。

歌詞では、移動を続けてきた人物が、誰かと生活を共有したいと願っている。だが、その願いは安定した愛情というより、孤独から逃れるための切実な要求に近い。Bowieは世界を移動し続け、人格を変え続けてきたが、その代償として居場所を失っている。この曲は、その居場所への欲求を非常に直接的に表現している。

「Be My Wife」はシングルとして発表されたが、当時大きな商業的成功を収めたわけではない。しかし、Lowの文脈では重要な曲である。実験的なアルバムの中に、ほとんど古典的な求愛歌の形を置くことで、Bowieの人間的な脆さが浮き彫りになる。

7. A New Career in a New Town

A面最後の「A New Career in a New Town」は、インストゥルメンタルを基調とした楽曲であり、アルバム前半と後半をつなぐ重要な橋渡しである。タイトルは「新しい街での新しいキャリア」を意味し、Bowieがアメリカを離れ、ヨーロッパで再生を試みた状況と直接結びつく。

音楽的には、軽やかなリズムとハーモニカが印象的である。ハーモニカの音色は、どこか寂しさと旅情を感じさせる。前曲までの断片的な歌ものから、後半の深い音響空間へ移る直前に、この曲は小さな希望のように響く。ただし、その希望は明るく確信に満ちたものではなく、不安を抱えた再出発である。

タイトルに含まれる「new」は重要である。Bowieは新しい場所で新しい人生を始めようとしている。しかし、過去を完全に消すことはできない。曲には前進する感覚がある一方で、どこか懐かしさや不安もある。新しい街とはベルリンであり、同時にBowieの内面の新しい場所でもある。

この曲は、Low前半の中で最も穏やかな解放感を持つ。だが、B面に入ると、アルバムはさらに深い内面と都市の陰影へ沈んでいく。したがって「A New Career in a New Town」は、再生の始まりであると同時に、まだ完全には癒えていない精神の中間地点である。

8. Warszawa

B面の冒頭を飾る「Warszawa」は、Lowの中でも最も重要な楽曲の一つであり、Bowieのアンビエント/電子音響的な側面を決定づけた作品である。タイトルはポーランドの首都ワルシャワを指す。Bowieは東欧の都市の空気、冷戦下の重苦しさ、歴史の傷跡から強い印象を受けたとされる。この曲は、具体的な観光地としてのワルシャワではなく、都市の記憶と孤独を音響化した作品である。

音楽的には、Brian Enoの影響が強く感じられる。低く沈むシンセサイザー、重いコード、ゆっくりとした展開が、深い空間を作る。曲の前半はほとんど歌詞を持たず、音の層がゆっくりと動く。後半でBowieの声が入るが、それは明確な言語ではなく、架空言語のような非言語的な歌唱である。ここで声は意味を伝えるものではなく、都市の亡霊や宗教的な詠唱のように響く。

「Warszawa」は、ロック・アルバムの中に置かれた音響彫刻のような曲である。ポップ・ソングの時間感覚ではなく、歴史や記憶の時間が流れている。Bowieはここで、歌詞による説明を放棄し、音色と声の響きだけで場所の精神を表現する。これは後のアンビエント、ポストロック、映画音楽的なロック表現にも大きな影響を与えた。

この曲は、Lowの核心である「言葉にならない感情」を最も深く体現している。Bowieの危機、ヨーロッパの歴史、冷戦の空気、孤独な都市の風景が、すべて音として沈殿している。

9. Art Decade

「Art Decade」は、タイトルからして非常に象徴的である。「Art Deco」と「decade」を掛け合わせたような言葉であり、美術様式、時代、都市の記憶を同時に連想させる。曲名はベルリンの街路や建築から着想を得たともされ、荒廃した都市の美しさ、過去の様式の残骸を音にしたような作品である。

音楽的には、「Warszawa」よりも少し透明感があり、静かなシンセサイザーが空間を満たす。メロディは明確に歌われるわけではなく、音の層として漂う。曲全体には、廃墟の中を歩くような感覚がある。美しさはあるが、それは生き生きとした華やかさではなく、過去の残像としての美しさである。

タイトルに含まれる「decade」は、時代の終わりを感じさせる。Bowieは1970年代の終盤に、過去のロック・スターとしての自分、ヨーロッパの芸術的記憶、戦後都市の影を見つめている。ここでのアートは、未来へ進むための輝かしい道具ではなく、瓦礫の中に残る装飾のように響く。

「Art Decade」は、Low後半の中でも最も静かで、視覚的な曲である。音は風景を描き、聴き手はその中を歩く。Bowieがロック・ソングから音響空間へ移行したことを示す、非常に重要なインストゥルメンタルである。

10. Weeping Wall

「Weeping Wall」は、タイトルが示すように「泣く壁」を主題にしたインストゥルメンタルであり、ベルリンの壁を連想させる楽曲である。分断された都市、冷戦、政治的境界、個人の孤立が、この曲の背後にある。Bowieはここで、壁を単なる建造物ではなく、感情を持つ存在として表現している。

音楽的には、反復するパターン、マリンバやシンセサイザーのような響き、東洋的ともミニマル・ミュージック的とも取れる質感が組み合わされている。曲は一定のパターンを繰り返しながら、少しずつ空気を変えていく。この反復は、壁の動かない存在感と、そこに蓄積された悲しみを表しているように聴こえる。

ベルリンの壁は、単に東西を分ける政治的な線ではない。それは家族、記憶、生活、自由を分断するものだった。「Weeping Wall」は、その壁が持つ歴史的・感情的な重みを、言葉なしで描く。Bowieのヴォーカルは前面には出ず、音そのものが壁の涙のように機能する。

この曲は、Low後半における都市的・政治的な感覚を強く示す作品である。Bowieは直接的なプロテスト・ソングではなく、音響によって分断の悲しみを表現している。その抑制が、かえって曲に深い余韻を与えている。

11. Subterraneans

アルバム最後を飾る「Subterraneans」は、Lowの終曲として非常に重要な作品である。タイトルは「地下の人々」「地下に住む者たち」を意味し、分断、亡命、隠された存在、戦後の影を連想させる。Bowieはここで、地上の華やかなロック・スター像から最も遠い場所へ降りていく。

音楽的には、深く沈むシンセサイザー、サックスのような音色、非言語的なヴォーカルが組み合わされ、非常に暗く、静かな空間を作る。曲は明確な結論を提示しない。むしろ、地中深くに沈み込むようにアルバムを終える。Bowieの声はここでも言葉を失い、意味ではなく響きとして存在する。

歌詞らしき断片はあるが、それは明確な物語にはならない。ここで重要なのは、言語化できない悲しみや孤独である。地下にいる者たちは、歴史から忘れられた人々、分断された都市の影、あるいはBowie自身の内面の奥に隠された存在かもしれない。Lowは、声を失ったところから始まり、最後に再び言葉以前の声へ戻る。

「Subterraneans」は、アルバムを救済や明るい再生で終わらせない。むしろ、再生はまだ途中であり、Bowieは地下の暗闇に降りて、そこにある声を聴こうとしている。この終わり方が、Lowを単なる実験作ではなく、深い精神的な旅として成立させている。

総評

Lowは、David Bowieのキャリアにおける最大の転換点の一つであり、1970年代ロックの終盤において、ポップ・ミュージックの未来を大きく切り開いた作品である。Bowieはここで、過去の自分を整理し、壊し、沈黙し、再構築している。Ziggy Stardustのような華やかなキャラクターも、Young Americans期のソウル的な熱気も、Thin White Dukeの冷たい演劇性も、ここでは断片として残るだけである。その代わりに現れるのは、壊れた意識、音の断片、都市の空気、電子音、無言の空間である。

本作の最大の革新は、ロック・アルバムの構造を根本から変えた点にある。前半は短く断片的な歌もの、後半はアンビエント的なインストゥルメンタルという構成は、当時の大衆的なロック・アルバムとしては非常に大胆だった。しかも、それは単なる実験のための実験ではない。Bowieの精神状態、ヨーロッパへの移動、ベルリンという都市の空気、創作の再生過程が、この構成に深く反映されている。

A面の楽曲は、どれも短く、鋭く、未完のように響く。「Breaking Glass」「What in the World」「Sound and Vision」「Always Crashing in the Same Car」「Be My Wife」などは、ポップ・ソングとして成立しながらも、通常のポップ・ソングが持つ説明や解決を拒む。感情は断片化され、歌詞は最小限に切り詰められ、曲は長く展開しない。これは、Bowieが自分を完全に語ることができない状態を、音楽形式そのものに変換した結果である。

B面の楽曲は、さらに radical である。「Warszawa」「Art Decade」「Weeping Wall」「Subterraneans」は、ロック・アルバムの中に置かれたアンビエント的な都市音響であり、言葉を超えた感情の記録である。ここでBowieは歌手であることをやめ、声を音色として使う。彼は都市の記憶、冷戦の緊張、戦後ヨーロッパの影、自分自身の内面の地下室を音にしている。

Brian Enoの参加は、本作の音響的な革新を支える重要な要素である。しかし、LowはBowieとEnoだけの作品ではない。Tony Viscontiのプロダクション、Dennis Davisのドラム、George Murrayのベース、Carlos AlomarやRicky Gardinerのギターがあってこそ、このアルバムの独特な質感は成立している。特にドラム・サウンドは後のニューウェイヴやポストパンクに大きな影響を与えた。ロックのリズムが、ここでは人間的な揺れと機械的な硬さの中間に置かれている。

歌詞面では、本作は非常に少ない言葉で多くを語る。「Sound and Vision」の青い部屋、「Always Crashing in the Same Car」の反復する事故、「Be My Wife」の孤独な求愛。これらは、Bowieの精神的な回復過程を示す断片である。彼はまだ完全には回復していない。だが、自分が壊れていることを認識し、それを音楽へ変換することによって、再生の第一歩を踏み出している。

Lowの影響は非常に広い。ポストパンクの不安定なリズム感、シンセポップの冷たい電子音、アンビエントの空間性、インダストリアルの無機質な質感、オルタナティヴ・ロックの内省性。これらの多くが、本作から直接的または間接的な刺激を受けている。Bowieはここで、ロックが「歌とギターの音楽」であるという前提を大きく広げた。沈黙、断片、電子音、都市の空気もまた、ロックの表現になり得ることを示したのである。

日本のリスナーにとってLowは、Bowieの派手な代表曲から入った場合、最初は難解に感じられるかもしれない。だが、聴き込むほどに、その構成の大胆さと音の美しさが見えてくる。特に、YMO以降のテクノポップ、ニューウェイヴ、アンビエント、シティ・ポップ以後の電子音楽に関心があるリスナーにとって、本作は非常に重要な源流として聴くことができる。

総合的に見て、LowはDavid Bowieの最重要作の一つであり、ロックが自己を解体し、電子音楽やアンビエントと結びつくことで新しい表現へ向かった歴史的なアルバムである。これは落ち込んだアルバムであり、同時に再生のアルバムでもある。低い場所へ降りることでしか見えない風景がある。BowieはLowでその地下へ降り、自分の壊れた声と向き合い、そこから新しい音楽を作り出した。

おすすめアルバム

1. David Bowie – “Heroes”(1977年)

Lowに続く「ベルリン三部作」の第二作であり、都市的な緊張とロマンティックな高揚がより明確に表れた作品である。タイトル曲「“Heroes”」の壮大さと、B面の実験的インストゥルメンタルが対照的に配置されており、Lowで始まった音響実験がさらに発展している。

2. David Bowie – Lodger(1979年)

「ベルリン三部作」の第三作であり、Lowや“Heroes”のアンビエント的側面から、より歌もの中心のニューウェイヴ/ワールド・ミュージック的方向へ移行した作品である。移動、異文化、メディア、ジェンダーを扱い、Bowieの実験性がよりポップな形で展開されている。

3. Brian Eno – Another Green World(1975年)

Brian Enoの代表作の一つであり、短い歌ものとインストゥルメンタル、電子音響、アンビエント的な空間が美しく結びついた作品である。Lowの構成や音響的発想を理解するうえで非常に重要であり、BowieとEnoの共同作業の背景を知るためにも欠かせない。

4. Kraftwerk – Radio-Activity(1975年)

Bowieが強い影響を受けたドイツ電子音楽の重要作である。放射能、ラジオ、通信、機械的リズムをテーマにし、電子音による冷たい叙情性を確立している。Lowの後半にある無機質でヨーロッパ的な空気を理解するために有効な作品である。

5. Iggy Pop – The Idiot(1977年)

Bowieが深く関わったIggy Popのソロ作であり、Lowと同時期のベルリン周辺の創作環境を知るうえで重要である。暗く、機械的で、ファンクや電子音を取り込んだサウンドは、Bowie自身のLowとも密接に関連している。BowieとIggyが互いに影響を与え合った時期の重要な記録である。

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