1. 歌詞の概要
「Bodies」は、Robbie Williamsが2009年にリリースしたアルバム『Reality Killed the Video Star』のリードシングルとして発表された楽曲であり、スピリチュアルな問い、自己の肉体性、宗教観、そしてアイデンティティの混乱を激しいビートと共に表現した、哲学的かつ挑発的なロックナンバーである。
タイトルの「Bodies(身体たち)」という複数形は、単なる肉体の集合ではなく、精神と肉体の乖離、人間の存在の不確かさ、そしてメディアや宗教によって“消費される身体”というテーマを暗示している。歌詞の中には、「Jesus really died for me?(イエスは本当に僕のために死んだのか?)」といった宗教的な挑発や、「God gave me the sunshine / Then showed me the sun」など詩的かつ矛盾的なフレーズが連続して現れ、聴き手を困惑させながらも引き込んでいく。
明確な物語構造はなく、むしろ断片的で象徴的な言葉の連なりがリスナーの想像力を刺激する構成となっており、Robbie Williamsがキャリアの中で培ってきた“カリスマ性”と“破綻寸前の精神性”が一体となった、一種の自己解体ソングといえる。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Bodies」は、Robbie WilliamsがTake That脱退後の長いソロキャリアを経て、一時期の引退状態から復帰するきっかけとなった曲であり、アルバム『Reality Killed the Video Star』のリードトラックとして発表された。プロデュースは、Tears for FearsのTrevor Hornが担当し、ポップとエレクトロ、ロックの要素を融合した複雑なサウンドスケープが特徴となっている。
この楽曲は、Robbie自身が公言していたように、自己啓発書やスピリチュアル思想への傾倒、薬物依存、宗教的混乱、そして名声の中での自己喪失といったテーマから生まれており、本人いわく「ちょっとクレイジーだけど、今の自分を全部詰め込んだ」と語っている。
とりわけ歌詞に散りばめられた宗教的言及や矛盾した表現は、彼の心の中にある信仰と懐疑、自己と他者、現実と幻想の間にある揺らぎを反映しており、この曲をただのロックアンセムに留まらせない深みを与えている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
“God gave me the sunshine / Then showed me my lifeline”
神は僕に太陽の光をくれた そして僕の人生の綱を見せてくれた
“I was told it was all mine / Then I got laid on a lay line”
それは全部僕のものだと言われた でも僕はエネルギーの線の上に寝かされたんだ
“What a day, what a day / And your Jesus really died for me?”
なんて日だろう 君のイエスは本当に僕のために死んだのかい?
“Bodies in the Bodhi tree / Bodies making chemistry”
菩提樹の下の身体たち 化学反応を起こす身体たち
“Bodies in the way of me / Bodies in the way of you”
僕の行く手を阻む身体たち 君の道をふさぐ身体たち
“Bodies that are coming through”
何かに突き動かされてやって来る身体たち
歌詞引用元:Genius – Robbie Williams “Bodies”
4. 歌詞の考察
「Bodies」は、Robbie Williamsという存在が長年抱えてきた**“自分とは何者か?”という問いへの爆発的な応答である。歌詞に一貫性や明確なストーリーはなく、むしろ夢の中の断片や意識の流れ(stream of consciousness)のように構成されており、論理ではなく直感で感じるべき作品**だと言える。
特に印象的なのは、「Bodies in the way of me(僕の行く手を阻む身体たち)」という一節に見られるように、身体=自己の象徴でありながら、同時に他者や制度、社会の中で自分を制限する“檻”にもなっているという二重性である。これはRobbie自身が、名声という枠組みの中で“身体的な存在”として認識されながらも、精神的には逸脱を求めていたことと重なる。
また、「And your Jesus really died for me?(君のイエスは僕のために死んだのか?)」という疑念に満ちた問いかけには、宗教的な教義への懐疑と、それでも救済を求める人間的な弱さが滲んでおり、彼の内面がいかに複雑で矛盾に満ちているかを象徴している。
それでもこの楽曲は、絶望や混乱を超えて、最終的には“存在すること”そのものを肯定している。サビで繰り返される「All we’ve ever wanted is to look good naked(僕たちがずっと望んでたのは、裸で美しく見えること)」というフレーズは、人間の本質的な承認欲求や、飾らない自分を肯定してほしいという願望をユーモラスかつ痛烈に表現した一節であり、この曲の核心と言ってよい。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Personal Jesus by Depeche Mode
信仰と自己投影、孤独と救済のあいだを揺れる感情をミニマルに描いたエレクトロ・ロックの金字塔。 - Jesus Walks by Kanye West
宗教、アイデンティティ、社会的立場を大胆に横断する、自省と挑発が同居した楽曲。 - Ashes to Ashes by David Bowie
自己再構築とアイデンティティの崩壊を描くポストモダンな音楽詩。 - Come Undone by Robbie Williams
「Bodies」の内省的側面をさらに深化させた、破壊と癒しのバラード。
6. “身体という檻を突き破れ”
「Bodies」は、ポップアイドルやセレブといった外面的なレッテルを剥ぎ取り、Robbie Williamsという人間が“魂と身体の不協和”をどう捉え、どう闘っているのかを露わにした作品である。
そこにあるのは、スピリチュアルな救済への願望と、現実の混乱との衝突。そして、名声という名の装飾をまといながらも、“裸で立つ自分”を認めてほしいという切実な声である。
「Bodies」は、宗教、名声、肉体、精神、あらゆる“ラベル”を脱ぎ捨ててなお残る“自分という存在”に向き合った、ロビー・ウィリアムズの魂のロックアンセム。混乱の中からしか見えない真実が、ここにはある。
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