
発売日:2009年5月5日
ジャンル:フリー・フォーク、サイケデリック・フォーク、インディー・ロック、エクスペリメンタル・ロック、アヴァン・フォーク、アート・ロック
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. Everyone Is Guilty
- 2. River
- 3. Creatures
- 4. The Alps & Their Orange Evergreen
- 5. Set ‘Em Free, Pt. 1
- 6. Gravelly Mountains of the Moon
- 7. Many Ghosts
- 8. MBF
- 9. They Will Appear
- 10. Sun Will Shine (Warmth of the Sunship Version)
- 11. Last Year
- 12. Set ‘Em Free, Pt. 2
- 総評
- おすすめアルバム
- 1. Love Is Simple by Akron/Family
- 2. Meek Warrior by Akron/Family
- 3. Sung Tongs by Animal Collective
- 4. Cripple Crow by Devendra Banhart
- 5. Yellow House by Grizzly Bear
- 関連レビュー
概要
Akron/Familyの4作目のスタジオ・アルバム『Set ‘Em Wild, Set ‘Em Free』は、2000年代アメリカン・インディーにおけるフリー・フォーク/サイケデリック・ロックの流れを、より開放的で祝祭的な形へ押し広げた作品である。Akron/Familyは、フォーク、ノイズ、ゴスペル、アフリカン・リズム、サイケデリック・ロック、即興演奏、実験音楽を横断するバンドとして、2000年代半ばのアンダーグラウンド・シーンで独自の存在感を放っていた。彼らの音楽は、単なるフォーク・ロックでも、実験音楽でもなく、共同体的な歌、荒々しい演奏、突然の静寂、手拍子や合唱、ノイズの奔流が混在する、非常に有機的で予測不能なものだった。
本作は、メンバーのライアン・ヴァンダーホーフ脱退後、セス・オリンスキー、マイルズ・シートン、ダナ・ヤンセンの3人体制で制作されたアルバムである。この変化はサウンドにも大きく反映されている。以前の作品にあった密教的で内向的な実験性は残されているが、『Set ‘Em Wild, Set ‘Em Free』では、よりリズムが前面に出て、曲の輪郭も比較的明確になっている。タイトルが示すように、抑え込まれたものを野生へ、そして自由へ解き放つような感覚がアルバム全体を貫いている。
Akron/Familyのキャリアにおいて、本作は重要な転換点である。デビュー作『Akron/Family』では、静謐なフォーク、電子音響、奇妙なコーラスが重なり、まるで手作りの宗教音楽のような雰囲気を持っていた。Angels of Lightとのスプリットや『Meek Warrior』では、よりラディカルな即興性やノイズ、フリー・ジャズ的な爆発力が強まった。そして『Love Is Simple』では、共同体的な合唱と祝祭感が大きく広がった。『Set ‘Em Wild, Set ‘Em Free』は、その祝祭性を受け継ぎながら、よりバンド・アンサンブルとしての凝縮度を高めた作品である。
本作の音楽的背景には、2000年代のフリー・フォーク・ムーヴメントがある。Devendra Banhart、Animal Collective、Joanna Newsom、Six Organs of Admittance、Sunburned Hand of the Manなど、フォークを伝統的な弾き語りの形式から解き放ち、サイケデリア、実験音楽、即興、民族音楽的なリズムと結びつける動きがこの時期に広がっていた。Akron/Familyはその中でも、特にバンドとしての身体性と集団的な歌の力を重視した存在だった。彼らの音楽には、キャンプファイヤーのような親密さと、儀式のような高揚、そしてアンダーグラウンド・ロックのノイズが同時に存在する。
アルバム・タイトル『Set ‘Em Wild, Set ‘Em Free』は、非常に象徴的である。「彼らを野生にし、自由にせよ」という言葉には、文明的な制御やジャンルの枠組みから音楽を解放する意志がある。ここでの「野生」は、単なる粗暴さではない。むしろ、人間の声、リズム、集団性、身体の衝動を、整えすぎずに音楽へ戻すことを意味している。Akron/Familyはこのアルバムで、フォークの素朴さと実験音楽の自由、ロックのエネルギーと祈りのような合唱を共存させている。
歌詞の面では、自然、精神性、共同体、自己解放、喪失、変化といったテーマが繰り返し現れる。彼らの歌詞は、明確な物語を語るというより、断片的なイメージ、詩的な呼びかけ、反復されるフレーズによって、聴き手をある感覚状態へ導く。これはフォーク・ミュージックの伝統にある語りとは異なり、むしろ呪文や祈り、集団で歌われるチャントに近い。言葉は意味を伝えるだけでなく、声として、リズムとして、身体に作用する。
日本のリスナーにとって本作は、いわゆるインディー・フォークの穏やかなイメージを大きく広げる作品である。アコースティックな響きはあるが、単なる癒やしや静けさではない。そこには、荒々しさ、熱狂、混乱、即興、ユーモア、霊性が混ざっている。Animal Collectiveの初期作品、Fleet Foxesの合唱的なフォーク、Grizzly Bearの実験的なハーモニー、またはポストロックやアヴァンギャルド音楽に関心があるリスナーにとって、本作は非常に興味深いアルバムである。
全曲レビュー
1. Everyone Is Guilty
アルバムの冒頭を飾る「Everyone Is Guilty」は、本作のテーマとサウンドを力強く提示する楽曲である。タイトルは「誰もが有罪である」という重い言葉を持つが、曲調は単純な暗さではなく、リズムと反復による高揚感を備えている。Akron/Familyらしい、罪や不安を共同体的な歌へ変えていく力が冒頭から表れている。
音楽的には、パーカッシヴなリズムとギターの反復が中心となり、徐々に声や音が重なっていく。ロック的な推進力はあるが、通常のヴァース/コーラス構造よりも、集団的なうねりが重視される。アフリカン・リズムやサイケデリック・ロックの影響も感じられ、身体を動かす音楽でありながら、どこか儀式的である。
歌詞では、人間が抱える罪や不完全さが示される。ただし、ここでの「guilty」は、法的な罪というより、誰もが何かを背負っているという存在論的な感覚に近い。Akron/Familyはその重さを個人的な告白として閉じるのではなく、全員で歌い、踊り、共有するものとして提示する。
この曲は、アルバム全体の入口として非常に重要である。罪や不安を抱えたまま、それでも音楽によって身体を動かし、共同体へ向かう。その姿勢が『Set ‘Em Wild, Set ‘Em Free』の核心にある。
2. River
「River」は、タイトル通り水の流れ、変化、移動、浄化を連想させる楽曲である。Akron/Familyの音楽において自然のイメージは重要であり、川はその中でも特に象徴的なモチーフである。川は止まらず、形を変えながら流れ続ける。その性質は、本作全体にある解放と変化のテーマと重なる。
音楽的には、比較的穏やかな始まりから、徐々に広がりを見せる構成を持つ。アコースティックな響きとエレクトリックな質感が混ざり合い、フォーク的な親密さとサイケデリックな空間性が同居している。声の重なりは、個人の歌というより、川の流れに沿って複数の人間が声を合わせるように響く。
歌詞では、流れること、身を委ねること、浄化されることが示唆される。川は過去を運び去るものでもあり、新しい場所へ連れていくものでもある。Akron/Familyはこの曲で、自然を単なる背景としてではなく、精神状態や人生の変化を映す存在として扱っている。
「River」は、本作の中で比較的メロディアスで聴きやすい楽曲である。だが、その背後には、自然、時間、自己変容という大きなテーマが流れている。アルバムの祝祭性の中に、静かな精神性を与える重要曲である。
3. Creatures
「Creatures」は、本作の中でも特に生命感が強い楽曲である。タイトルの「生き物たち」は、人間だけでなく、動物、自然、見えない存在、あるいは音楽の中で動き回る声やリズムそのものを連想させる。Akron/Familyの世界では、人間は自然から切り離された存在ではなく、他の生物や環境と一体になって動く存在として描かれる。
音楽的には、反復するリズムと声の重なりが、群れのような動きを作る。整然としたポップ・ソングというより、生き物が集まり、鳴き、動き出すような有機的な構成を持つ。ギターやパーカッションは、明確な装飾というより、曲全体の生命活動を支える役割を果たしている。
歌詞では、生物的な衝動、自然とのつながり、集団性がテーマになっていると考えられる。「creatures」という言葉には、人間を特別視せず、他の生き物と同じ地平に置く視点がある。これは、近代的な個人主義よりも、より原始的で共同体的な感覚へ向かうAkron/Familyの美学と結びつく。
「Creatures」は、アルバム・タイトルの「wild」という言葉を強く体現する楽曲である。野生とは、秩序を失うことではなく、生命が本来持つ動きや声を取り戻すことだと、この曲は示している。
4. The Alps & Their Orange Evergreen
「The Alps & Their Orange Evergreen」は、タイトルからして非常に詩的で、Akron/Familyらしい風景感覚が強く表れた楽曲である。アルプスという壮大な山岳風景と、「オレンジ色の常緑」というやや非現実的な色彩の組み合わせは、自然描写であると同時に、幻覚的なイメージとして機能している。
音楽的には、より静謐で瞑想的な雰囲気がある。前半のリズム主体の楽曲に比べると、ここでは音の広がりや余白が重視される。ギターや声は、風景の中に溶け込むように配置され、聴き手は山岳の空気や光を想像するような感覚へ導かれる。
歌詞では、自然の巨大さ、人間の小ささ、そして視覚的なイメージの変容が示される。アルプスのような場所は、単なる観光的な美しさではなく、精神を変化させる場として響く。オレンジ色の常緑という表現には、現実の風景が内面の状態によって変化して見えるようなサイケデリックな感覚がある。
この曲は、本作の中でAkron/Familyのアヴァン・フォーク的な側面を示す。力強いリズムや合唱だけでなく、風景を音に変える繊細な能力があることを示す楽曲である。
5. Set ‘Em Free, Pt. 1
タイトル曲の前半にあたる「Set ‘Em Free, Pt. 1」は、アルバムの理念を明確に提示する楽曲である。「彼らを自由にせよ」という言葉は、音楽、身体、感情、共同体、あるいは人間が抱える抑圧された部分への呼びかけとして響く。
音楽的には、歌とリズムが徐々に開かれていく構成を持つ。Akron/Familyの特徴である集団的な声の力が中心にあり、個人の独白ではなく、複数の人間が同じ方向へ向かって声を重ねるような印象を与える。これはフォーク・ミュージックの共同体性と、サイケデリック・ロックの解放感が結びついたものと言える。
歌詞では、自由になること、解放すること、抑え込まれたものを外へ出すことがテーマになる。ただし、ここでの自由は単純な個人主義的自由ではない。むしろ、他者や自然、音楽との関係の中で自分を解き放つことを意味している。Akron/Familyにとって自由とは、孤立ではなく、より大きな流れに参加することでもある。
「Set ‘Em Free, Pt. 1」は、アルバムの精神的中心のひとつである。本作が、聴き手に対してただ音楽を鑑賞することではなく、声を出し、身体を動かし、何かを手放すことを促しているように感じられる。
6. Gravelly Mountains of the Moon
「Gravelly Mountains of the Moon」は、タイトルからして幻想的で、宇宙的な風景を思わせる楽曲である。「月の砂利だらけの山々」というイメージは、地上の自然と宇宙の荒涼を結びつける。Akron/Familyのサイケデリックな想像力が強く表れた曲である。
音楽的には、実験的な質感が濃い。音の配置は必ずしも直線的ではなく、声や楽器が不思議な距離感で鳴る。フォーク的な親密さよりも、どこか異世界的な空間が前面に出ている。曲は、聴き手を具体的な物語へ導くというより、奇妙な風景の中へ放り込む。
歌詞では、月、山、石、遠い場所といったイメージが、精神的な旅や未知への憧れと結びつく。月の山は、人間が直接住む場所ではなく、想像の中でしか触れられない場所である。その距離感が、現実から少し離れたサイケデリックな意識状態を表している。
この曲は、アルバムの中で冒険的な役割を持つ。ポップな聴きやすさよりも、音によって未知の風景を作ることが重視されており、Akron/Familyの実験音楽的な背景を感じさせる。
7. Many Ghosts
「Many Ghosts」は、本作の中でも特に内省的で、喪失や記憶のテーマを強く感じさせる楽曲である。タイトルの「多くの幽霊」は、過去の記憶、失われた人々、消えた関係、または自分の中に残る古い自己を象徴している。
音楽的には、比較的静かで、声の響きが重要である。Akron/Familyの合唱はしばしば祝祭的に響くが、この曲ではより霊的で、少し悲しげな響きを持つ。音の余白が多く、幽霊の存在を直接描くのではなく、いなくなったものの気配を感じさせる。
歌詞では、過去から離れられない感覚が描かれる。幽霊とは、完全に消えたものではなく、現在の中に残り続けるものだ。人は生きていく中で、多くの記憶や失われた関係を抱える。Akron/Familyはそれを恐怖としてではなく、人生の一部として受け入れるように歌う。
「Many Ghosts」は、アルバムの祝祭性に深い陰影を与える曲である。解放や自由を歌うアルバムであっても、過去の影を完全に消すことはできない。その影を抱えたまま自由へ向かうことが、本作の重要なテーマになっている。
8. MBF
「MBF」は、タイトル自体が略語的で謎めいており、Akron/Familyの遊び心と実験性を感じさせる楽曲である。本作の中では、音の構成やリズムの面でやや異質な位置を占め、アルバムに変化を与えている。
音楽的には、反復的なグルーヴと、断片的な音の配置が特徴である。曲は明確なフォーク・ソングの形を取るというより、リズムや音響の実験として展開する。Akron/Familyはここで、歌ものバンドとしてだけでなく、音そのものを組み替える実験集団としての側面を見せている。
歌詞は断片的で、意味よりも音の響きやフレーズの反復が重要になる。こうした曲では、言葉は物語を伝えるためではなく、声として、リズムとして機能する。これはAkron/Familyが持つ、フォークと実験音楽の境界を曖昧にする手法の一つである。
「MBF」は、アルバムの中で小さな異物のように作用する。聴きやすさだけを追求するなら削られてもよさそうな曲だが、こうした実験的な断片があることで、本作は単なるサイケデリック・フォークのアルバムではなく、より自由な音響作品になっている。
9. They Will Appear
「They Will Appear」は、タイトルからして予言的、あるいは霊的な響きを持つ楽曲である。「彼らは現れる」という言葉には、まだ見えない存在、未来に来る者たち、あるいは記憶や幽霊が姿を現す瞬間が含まれている。
音楽的には、ゆっくりとした展開と、声の重なりが重要である。曲は急激に盛り上がるのではなく、何かが少しずつ姿を現すように進む。Akron/Familyの音楽における「出現」は、しばしば音の層として表現される。最初は小さな声やリズムだったものが、次第に集団的な響きへ変化していく。
歌詞では、未知のものを待つ感覚が描かれる。ここでの「they」が何を指すのかは明確ではない。人かもしれないし、霊的な存在かもしれないし、新しい時代や変化そのものかもしれない。この曖昧さが、曲に神秘的な広がりを与えている。
「They Will Appear」は、本作の中で期待と不安を同時に抱えた楽曲である。自由へ向かうことは、何が現れるか分からない場所へ進むことでもある。その未知への開かれた姿勢が、Akron/Familyらしい。
10. Sun Will Shine (Warmth of the Sunship Version)
「Sun Will Shine」は、タイトル通り太陽、光、回復、希望を強く感じさせる楽曲である。ただし副題に「Warmth of the Sunship Version」とあるように、これは単純な明るさではなく、少し宇宙的でサイケデリックな温もりを持つ。太陽は自然の存在であると同時に、精神的なエネルギー源として描かれる。
音楽的には、温かい音色とゆったりしたリズムが中心で、アルバム終盤に穏やかな光をもたらす。声は優しく重なり、聴き手を包み込むように響く。ここでは、前半の激しい解放感よりも、回復と受容の感覚が強い。
歌詞では、太陽が再び輝くという希望が歌われる。これは単純な楽観ではなく、暗さや喪失を経た後の希望である。Akron/Familyの音楽における光は、常に影と隣り合っている。だからこそ、この曲の温かさには説得力がある。
「Sun Will Shine」は、本作の中で最も明確に救済的な響きを持つ曲のひとつである。アルバム全体の野生的な解放が、ここでは穏やかな肯定へと変化している。
11. Last Year
「Last Year」は、過去を振り返る楽曲であり、アルバムの終盤に強い時間意識をもたらす。タイトルは「去年」を意味するが、ここでの過去は単なる一年ではなく、すでに失われた時間全体を象徴しているように響く。
音楽的には、比較的静かで、内省的な雰囲気がある。Akron/Familyの激しい面よりも、フォーク的な語りと繊細なメロディが前面に出る。アルバムの中で多くのリズムや声が解き放たれた後、この曲は過去を見つめ直す時間を与える。
歌詞では、過ぎ去った時間、変化してしまった関係、自分自身の変容が描かれる。去年の自分と今の自分は同じではない。だが、完全に切り離されているわけでもない。過去は幽霊のように現在に残り、現在の感情を形作る。このテーマは「Many Ghosts」とも響き合う。
「Last Year」は、本作の中で特に人間的な感傷を感じさせる曲である。壮大な自然や霊的なイメージだけでなく、具体的な時間の経過に対する痛みがここにはある。
12. Set ‘Em Free, Pt. 2
アルバムを締めくくる「Set ‘Em Free, Pt. 2」は、「Set ‘Em Free, Pt. 1」で提示された解放のテーマを再び呼び戻し、作品全体を循環的に閉じる楽曲である。リプライズ的な役割を持ちながら、単なる反復ではなく、アルバムを通過した後の変化を感じさせる。
音楽的には、声とリズムが再び集団的な響きを作り、アルバム全体の祝祭性を回収する。だが、前半の解放が勢いに満ちていたとすれば、終盤のこの曲には、過去、幽霊、希望、喪失を通過した後の深みがある。自由になることは、ただ走り出すことではなく、抱えているものを認めたうえで、それでも手放すことなのだと感じさせる。
歌詞のテーマは、再び自由へ向かうことにある。アルバム全体を通して、Akron/Familyは罪、自然、幽霊、時間、光を歌ってきた。そのすべてを経たうえで、最後に「自由にせよ」という言葉へ戻ることで、本作のメッセージはより強くなる。
「Set ‘Em Free, Pt. 2」は、アルバムの終曲として非常にふさわしい。明確な結論を提示するというより、聴き手を再び開かれた場所へ送り出す。『Set ‘Em Wild, Set ‘Em Free』というタイトルの精神が、最後にもう一度大きく響く。
総評
『Set ‘Em Wild, Set ‘Em Free』は、Akron/Familyの音楽的特徴である実験性、共同体性、フォーク的な親密さ、サイケデリックな広がりを、非常にバランスよくまとめたアルバムである。前作までの混沌や即興性を引き継ぎつつ、本作では曲ごとの輪郭がより明確になり、聴きやすさも増している。しかし、その聴きやすさは商業的な丸さではなく、バンドの野生的なエネルギーを整理し、より大きな流れへ変換した結果である。
アルバム全体を貫くテーマは、解放である。だが、その解放は単純な自由礼賛ではない。「Everyone Is Guilty」で示される罪の感覚、「Many Ghosts」で現れる過去の影、「Last Year」で描かれる時間の痛みがあるからこそ、「Set ‘Em Free」という言葉は重みを持つ。Akron/Familyは、何も背負っていない人間の自由ではなく、罪や記憶や喪失を抱えた人間が、それでも自由へ向かう姿を音楽にしている。
音楽的には、フォーク、ロック、サイケデリア、アフリカン・リズム、ノイズ、即興、合唱が混ざり合う。通常のロック・バンドのように、ギター、ベース、ドラム、歌が明確な役割分担をするというより、すべての音が有機的に絡み合い、集団的なうねりを作る。Akron/Familyの音楽では、演奏は単なる伴奏ではなく、共同体が立ち上がる場である。声は個人の感情を伝えるだけでなく、複数の人間を結びつける道具になる。
本作の魅力は、野生と構築のバランスにある。完全に即興的で混乱した作品ではなく、各曲には明確な方向性がある。しかし同時に、音楽が過度に整えられすぎることもない。手拍子、叫び、ノイズ、突然の展開、静寂、合唱が、あたかもその場で発生しているかのように配置される。そのため、アルバム全体にはスタジオ作品でありながら、ライブや儀式に近い生命感がある。
2000年代のフリー・フォーク/アヴァン・フォークの文脈で見ても、本作は重要である。Devendra BanhartやJoanna Newsomがより個人的で詩的な方向へ向かったのに対し、Akron/Familyは集団的で身体的な方向を強く持っていた。Animal Collectiveの初期作品と同様に、声とリズムを通じて、人間の原始的な感覚を現代のインディー音楽へ戻そうとする姿勢がある。ただしAkron/Familyの場合、その音楽はよりフォーク的で、土の匂いがあり、共同体的である。
日本のリスナーにとって『Set ‘Em Wild, Set ‘Em Free』は、一般的なインディー・フォークの枠を超えた作品として聴く価値がある。穏やかなアコースティック・サウンドだけを求めると、時に奇妙で騒がしく感じられるかもしれない。しかし、フォークを実験音楽やサイケデリック・ロックの視点から聴きたいリスナーにとって、本作は非常に豊かな体験になる。曲によっては聴きやすく、曲によっては異様で、その振れ幅がアルバム全体を生きたものにしている。
『Set ‘Em Wild, Set ‘Em Free』は、Akron/Familyが持つ矛盾した魅力をよく示す作品である。土着的でありながら宇宙的で、素朴でありながら実験的で、騒々しくありながら祈りのように静かである。野生へ向かうことと自由へ向かうことが、同じ動きとして鳴っている。2000年代アメリカン・インディーにおけるフリー・フォークの豊かな可能性を示した、重要な一枚である。
おすすめアルバム
1. Love Is Simple by Akron/Family
Akron/Familyの共同体的な祝祭性が大きく開花した作品。合唱、手拍子、サイケデリックな展開が豊富で、『Set ‘Em Wild, Set ‘Em Free』の前段階として重要である。より荒々しく、より開放的なAkron/Familyを味わうことができる。
2. Meek Warrior by Akron/Family
Akron/Familyの実験性と即興性が強く表れた作品。ノイズ、フリー・ジャズ的な展開、サイケデリックな混沌が目立ち、『Set ‘Em Wild, Set ‘Em Free』よりもラディカルで取っつきにくい部分がある。バンドのアヴァンギャルドな側面を理解するうえで重要なアルバムである。
3. Sung Tongs by Animal Collective
2000年代フリー・フォーク/サイケデリック・フォークを代表する作品のひとつ。アコースティック・ギター、声の反復、奇妙なリズム、遊び心が組み合わされており、Akron/Familyと同時代の実験的フォークの空気を共有している。声とリズムによる原始的な高揚感を理解するうえで関連性が高い。
4. Cripple Crow by Devendra Banhart
フリー・フォーク・ムーヴメントの中心的作品のひとつ。Devendra BanhartはAkron/Familyよりも個人的で詩的、かつラテンやフォークの色彩が強いが、2000年代半ばのアメリカン・インディーにおけるフォーク再解釈を知るうえで重要である。奇妙さと親しみやすさが共存する点で共通する。
5. Yellow House by Grizzly Bear
実験的なハーモニー、室内楽的なアレンジ、フォークとサイケデリアの融合を特徴とする作品。Akron/Familyよりも構築的で繊細だが、2000年代インディーにおけるフォークの拡張という点で関連性が高い。『Set ‘Em Wild, Set ‘Em Free』の合唱的・音響的な側面に関心があるリスナーに適している。

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