1. 歌詞の概要
「What About Us」は、P!nkが2017年にリリースした7枚目のスタジオ・アルバム『Beautiful Trauma』のリード・シングルであり、彼女のキャリアの中でも特に政治的かつ社会的なテーマに踏み込んだ意欲作です。これまで数多くのラブソングやセルフエンパワーメントを描いてきたP!nkが、この曲では「私たち(us)」という集合的な視点を通じて、見捨てられた人々の声なき叫びを切実に表現しています。
楽曲の表面上は、恋人に対して「私たちはどうなるの?」と問いかけているように見えますが、実際にはそれ以上の意味が込められており、政治・社会・人間関係のすれ違いによって裏切られた人々の嘆きと怒り、そして希望の光を描いた深い内容となっています。
“愛してる”という言葉を信じて進んだのに、結果としてそこに残ったのは空虚――その喪失感と、それでもなお「私たちの未来はどうなるの?」と問いかける勇気が、この曲には宿っています。
2. 歌詞のバックグラウンド
「What About Us」は、P!nkと長年のコラボレーターであるJohnny McDaid(Snow Patrol)とSteve Macによって共同制作されました。楽曲が書かれたのは2016年〜2017年にかけてで、当時のアメリカ社会は政治的分断、移民問題、LGBTQ+の権利、そして大統領選挙後の混乱など、多くの社会的緊張に包まれていました。
P!nkはこの曲について、「私たちは見捨てられたと感じている。約束された未来はどこにあるの?」という、政治的・社会的リーダーに裏切られた感覚を歌に込めたと語っています。ミュージックビデオでも、人種やジェンダー、年齢を超えた多様な人々が登場し、争い、愛し合い、傷つき、それでも前を向いていこうとする姿が映し出されており、「私たち」という言葉の持つ包括性が強調されています。
この曲は同時に、P!nk自身の人生経験――家庭、母としての責任、社会の一員としての葛藤――を反映した作品でもあり、「個」と「公」の間に揺れる女性の声としても大きな意味を持ちます。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「What About Us」の印象的なフレーズを紹介します。引用元:Musixmatch – P!nk / What About Us
“We are searchlights, we can see in the dark”
「私たちはサーチライト、闇の中でも見えるの」
“We are rockets, pointed up at the stars”
「私たちはロケット、星空に向かって飛ぶ存在」
“We are billions of beautiful hearts”
「私たちは何十億もの美しい心」
“What about us? What about all the times you said you had the answers?”
「私たちはどうなるの? あなたが“答えはある”って言ってくれたあの時は?」
“What about love? What about trust? What about us?”
「愛は? 信頼は? 私たちはどうなるの?」
この繰り返しの問いかけが、聴く者の心を静かに、そして深く揺さぶります。P!nkは答えを求めているのではなく、問いを共有することで、希望をつなごうとしているのです。
4. 歌詞の考察
「What About Us」は、単なる恋愛の喪失ではなく、信じていたものすべてが崩れていく感覚を歌っています。それは政治に対する信頼かもしれないし、誰かの愛かもしれない。あるいは、未来への希望だったかもしれません。けれどP!nkは、怒りや絶望だけで終わらせず、あくまでも「問い続けること」に希望を見出そうとしています。
特筆すべきは、「私」ではなく「私たち(We)」という主語を貫いている点です。これはP!nkの楽曲の中でも非常に象徴的であり、「孤独ではなく、共にある」という連帯のメッセージが強く感じられます。
また、「私たちはサーチライト」「私たちはロケット」といった比喩表現には、個人の力を信じる意志と、どんな闇の中でも見失わない可能性への信頼が込められており、リスナーにとって力強いエールとして響きます。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “A Thousand Years” by Christina Perri
愛と希望を静かに歌い上げたバラード。失われたものの中にある希望をテーマにしている。 - “Skyscraper” by Demi Lovato
崩れても立ち上がる自己の再建を描いた力強いバラード。 - “Praying” by Kesha
苦しみを経て赦しと再生を歌う、社会的かつ個人的な祈りの歌。 - “Beautiful” by Christina Aguilera
社会に抑圧されても、自分を肯定する勇気を与えてくれる曲。 - “Rise Up” by Andra Day
困難に直面した時の連帯と立ち上がる力を讃える感動的なアンセム。
6. “声を失った私たち”の歌――P!nkが問い続ける理由
「What About Us」は、P!nkが長年歌ってきた“個の痛み”を超えて、集合的な痛みと声なき人々の感情にフォーカスを当てた、新たな段階の作品です。それは単なる政治的抗議ではなく、社会と個人の間に横たわる断絶を“共に考える”ための音楽であり、リスナーを一人にはしない、包摂のバラードでもあります。
「私たちはどうなるの?」という問いには、明確な答えはありません。けれど、その問いを共有することで、人はつながり、前に進むことができる――P!nkはそのことをこの楽曲で静かに、しかし力強く訴えています。
「What About Us」は、見捨てられた者たちが自らの声を取り戻すための祈り。P!nkはここで、“強さ”だけではなく、“問い続けること”の勇気を歌い、私たちに最も大切なこと――“つながり”を思い出させてくれる。
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