
1. 楽曲の概要
「What About Us」は、アメリカのシンガーソングライター、P!nkが2017年に発表した楽曲である。収録作品は、同年10月にリリースされた7作目のスタジオ・アルバム『Beautiful Trauma』。アルバムからのリード・シングルとして2017年8月10日に配信リリースされた。
作詞・作曲はP!nk、Johnny McDaid、Steve Macの3人による。Johnny McDaidはSnow Patrolのメンバーとして知られ、Ed Sheeranなどとの共作でも実績を持つソングライターである。Steve Macはイギリスのポップ・プロデューサーで、同曲ではプロデュースも担当している。
P!nkは2000年代初頭から、ポップ、ロック、R&B、ダンス・ミュージックを横断しながら、力強いボーカルと率直な歌詞で支持されてきたアーティストである。「Get the Party Started」「Just Like a Pill」「So What」「Raise Your Glass」「Just Give Me a Reason」など、反抗心、自己肯定、傷つきやすさを同時に扱う楽曲を多く発表してきた。
「What About Us」は、そのキャリアの中でも特に社会的なメッセージが強く読まれた曲である。サウンドはEDM/エレクトロポップの形式を持ちながら、歌詞は個人的な恋愛だけでなく、約束を裏切られた人々、声を聞かれない人々の問いとして機能している。2017年という政治的・社会的緊張の強い時期に発表されたこともあり、多くのリスナーに「抗議のアンセム」として受け止められた。
2. 歌詞の概要
「What About Us」の歌詞は、繰り返される問いかけによって構成されている。語り手は、誰かに対して「私たちはどうなるのか」と問い続ける。この「us」は、恋愛関係の中の二人としても読めるが、それだけではない。社会の中で約束を信じ、声を上げ、期待してきた人々の集合としても読むことができる。
歌詞の中心にあるのは、裏切られた感覚である。語り手は、相手が答えを持っていると言ったこと、希望を示したこと、導くと約束したことを思い出している。しかし実際には、その約束は果たされず、幸福な未来は壊れている。ここにあるのは、怒りだけではなく、失望と困惑である。
この曲の特徴は、相手を直接攻撃するのではなく、問いの形を取り続ける点にある。「What about us?」という言葉は、抗議であると同時に、まだ対話を求める言葉でもある。完全に見限った後の拒絶ではなく、なぜ自分たちは置き去りにされたのかを問う姿勢である。
また、歌詞には「we」という主語が多く使われる。これはP!nkの個人的な心情だけを語る曲ではなく、聴き手が自分自身を重ねやすい構造になっている。恋人に裏切られた人、政治に失望した人、社会から無視されていると感じる人、どの立場からでもこの問いを受け取ることができる。
3. 制作背景・時代背景
「What About Us」が発表された2017年は、アメリカをはじめ多くの国で政治的分断が強く意識されていた時期である。P!nk自身は明確な政治的発言を行うこともあるアーティストだが、この曲では特定の人物名や政党名を出していない。そのため、歌詞は具体的な政治批判でありながら、同時により広い失望の歌としても機能している。
アルバム『Beautiful Trauma』は、P!nkにとって2012年の『The Truth About Love』以来となる本格的なスタジオ・アルバムだった。前作から数年を経て、彼女は母親としての生活、結婚生活、社会への視線、キャリアの成熟を反映した楽曲群を発表した。「What About Us」は、その中でも最初に提示された楽曲であり、アルバム全体の重心を示す役割を持っていた。
サウンド面では、2010年代後半のポップ・ミュージックにおけるEDMの影響が強い。大きなシンセサイザー、反復するビート、サビへ向かうビルドアップなどは、クラブ・ミュージック以降のポップの語法である。ただし、この曲は単なるダンス・トラックではない。P!nkのボーカルと歌詞の問いかけが中心にあり、ビートはその感情を広げるために使われている。
ミュージック・ビデオも、この曲の解釈に大きく関わっている。群衆、ダンス、都市の空間、孤独な身体が映し出され、個人の痛みと集団的な不安が重ねられている。振付は、言葉では言い尽くせない怒りや悲しみを身体で表現する役割を持っている。P!nkはこの曲で、ポップ・スターとしての大きな歌声だけでなく、共同体の不安を代弁する存在としての姿を見せた。
4. 歌詞の抜粋と和訳
What about us?
和訳:
私たちはどうなるの?
このフレーズは、曲全体の中心である。非常に短く、単純な問いでありながら、そこには多くの感情が含まれている。語り手は、自分たちが忘れられたこと、約束から外されたこと、説明を受けていないことに対して問いかけている。
「us」という言葉が重要である。これは「私」ではなく「私たち」である。P!nk個人の悲しみではなく、同じように置き去りにされた人々の声として響く。だからこそ、この曲は恋愛の失望にも、政治的な失望にも、社会的な疎外にも結びつく。
What about all the broken happy ever afters?
和訳:
壊れてしまった、幸せな結末の約束はどうなるの?
この一節では、かつて信じていた未来が壊れていることが示される。「happy ever after」は、おとぎ話の結末のような幸福を思わせる言葉である。しかし、それはすでに壊れている。語り手は、希望を与えられた後で裏切られた人の立場から問いかけている。
歌詞引用は批評・解説に必要な最小限にとどめた。歌詞全文は権利者によって管理される著作物であり、ここでは楽曲理解に必要な短い範囲のみを扱っている。
5. サウンドと歌詞の考察
「What About Us」のサウンドは、静かな導入から大きなサビへ向かう構成を持っている。冒頭ではピアノと控えめなリズムが中心で、P!nkの声が近くに聞こえる。そこから徐々にビートとシンセが加わり、サビでは大きな空間が開ける。この構成は、個人の問いが集団の声へ広がっていく流れと一致している。
P!nkのボーカルは、この曲の最も重要な要素である。彼女は力強い歌唱で知られるが、この曲では最初から全力で押し切るのではない。抑えた声で問いを置き、サビで感情を解放する。声の強さと傷つきやすさが同時に存在しているため、歌詞の問いが単なるスローガンにならない。
ビートはダンス・ミュージック的だが、享楽的なクラブ感よりも、行進や集会のような集団性を感じさせる。反復するリズムは身体を動かすが、軽いパーティー・ソングにはならない。むしろ、同じ問いを繰り返しながら前へ進む抗議のリズムとして機能している。
シンセサイザーの使い方も特徴的である。音は明るく広がるが、コード感には影がある。大きなサビは解放感を持つ一方で、完全な救済には至らない。これは歌詞の内容とも合っている。語り手は答えを得ていない。だから、サウンドは高揚するが、問題が解決したようには響かない。
「What About Us」は、P!nkの過去のアンセム的な楽曲ともつながっている。「Raise Your Glass」や「Fuckin’ Perfect」では、社会から外れた人々への肯定が明るいロック/ポップの形で提示された。一方、「What About Us」は、より重く、社会的な失望を前面に出している。自己肯定の歌というより、見捨てられた人々の問いの歌である。
また、「Just Give Me a Reason」と比較すると、この曲の広がりが見えやすい。「Just Give Me a Reason」は、壊れかけた関係を修復できるかを問うデュエット曲だった。「What About Us」も壊れた約束を扱うが、その対象は恋人だけに限定されない。二人の関係から、社会全体の関係へとスケールが拡張されている。
歌詞の反復は非常に効果的である。「What about us?」という問いは、何度も繰り返されることで、答えのなさを強調する。普通なら反復は単調になりやすいが、この曲ではボーカルの強弱、ビートの展開、サウンドの厚みによって、問いが少しずつ大きくなっていく。最初は個人的な疑問に聞こえた言葉が、曲の終盤では群衆の声のように響く。
この曲は政治的な文脈で語られることが多いが、歌詞の優れている点は、特定の時事問題に閉じ込められていないことである。リーダーへの失望、恋人への失望、親への失望、社会への失望など、さまざまな関係に当てはまる。だからこそ、2017年の曲でありながら、時代を超えて聴かれる余地がある。
P!nkのキャリア上では、「What About Us」は成熟期の代表曲である。初期の反抗的なポップ・ロック、2000年代後半の大衆的なアンセム、2010年代のバラード表現を経て、彼女はここで個人の痛みと社会的な問いをひとつにまとめている。歌唱力だけでなく、どのような立場から歌うのかというアーティストとしての姿勢が問われる曲である。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Just Give Me a Reason by P!nk featuring Nate Ruess
壊れかけた関係を修復しようとするバラードであり、P!nkの感情表現がよく表れた代表曲である。「What About Us」よりも恋愛の文脈が明確だが、失われた信頼をどう扱うかという点で共通している。
- Fuckin’ Perfect by P!nk
自分を否定された人に向けて、自己肯定を呼びかける楽曲である。「What About Us」のように、社会から傷つけられた人々に寄り添う視点がある。より個人に向けた励ましの曲として聴ける。
- Praying by Kesha
傷つけられた経験から立ち上がることを歌った2017年の重要曲である。「What About Us」と同じ時期に発表され、ポップ・ミュージックが個人的な痛みや社会的な声を担う流れの中にある。ボーカルの解放感も比較しやすい。
- Chained to the Rhythm by Katy Perry featuring Skip Marley
2017年のポップにおける社会批評的な楽曲である。明るいダンス・ポップの形式を使いながら、現実から目をそらす社会を批判している。「What About Us」と同じく、ポップな音と政治的な違和感が結びついている。
- Born This Way by Lady Gaga
自分の存在を肯定するポップ・アンセムであり、マイノリティや社会的に周縁化された人々へのメッセージを持つ曲である。「What About Us」よりも祝祭的だが、「私たち」という共同体の感覚をポップ・ソングに変える点で共通している。
7. まとめ
「What About Us」は、P!nkが2017年に発表した『Beautiful Trauma』のリード・シングルであり、彼女の成熟期を代表する楽曲である。P!nk、Johnny McDaid、Steve Macによる楽曲は、EDM/エレクトロポップの大きなサウンドを持ちながら、中心には非常にシンプルな問いを置いている。
歌詞の核は、「私たちはどうなるのか」という問いである。この言葉は、恋愛の失望にも、政治的な裏切りにも、社会から無視される人々の声にもなり得る。特定の説明をしすぎないことで、曲は多くのリスナーが自分の状況を重ねられる構造になっている。
サウンド面では、抑えた導入から大きなサビへ向かう構成、反復するビート、広がるシンセ、P!nkの力強いボーカルが一体となっている。曲は踊れる形を持ちながら、軽い娯楽にはならない。身体を動かす音楽でありながら、問いを突きつけるポップ・ソングである。
P!nkのキャリアにおいて、「What About Us」は反抗心と共感力が最も大きなスケールで結びついた曲のひとつである。個人の声から始まり、やがて「私たち」の声へ広がる。その構造こそが、この曲を2010年代後半の重要なポップ・アンセムにしている。
参照元
- P!nk Official Website
- What About Us / Wikipedia
- Beautiful Trauma / Apple Music
- P!nk’s “What About Us” Songwriter Explains the “Alchemy” Behind Her Bold New Single / Billboard
- P!nk Releases New Single “What About Us” / Marshall Arts
- P!nk Makes a Comeback with Empowering Ballad “What About Us” / Time
- P!nk Returns with New Political Anthem, “What About Us” / Out

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