アルバムレビュー:Coming Up by Suede

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

  • 発売日: 1996年9月2日
  • ジャンル: ブリットポップ、グラム・ロック、オルタナティブ・ロック、インディー・ロック

概要

Suedeの『Coming Up』は、1996年にリリースされた3作目のスタジオ・アルバムであり、バンドのキャリアにおける大きな転換点となった作品である。1993年のデビュー・アルバム『Suede』で、彼らはブリットポップの先駆的存在として注目を浴び、続く1994年の『Dog Man Star』では、より退廃的で壮大なアート・ロックへと踏み込んだ。しかし、その制作過程で中心的ギタリストだったバーナード・バトラーが脱退する。バンドの創造的核と見なされていたバトラーの不在は、当時Suedeの存続そのものに関わる重大な問題と受け止められた。

『Coming Up』は、その危機を乗り越えるためのアルバムである。新ギタリストとして当時まだ若かったリチャード・オークスを迎え、さらにキーボーディストのニール・コドリングが本格的に加わったことで、Suedeは音楽性を大きく再編した。『Dog Man Star』の暗く、重厚で、長尺のドラマ性から一転し、本作ではきらびやかでコンパクトなグラム・ロック/ポップ・ロックへと方向を切る。これは単なる商業的な路線変更ではなく、バンドが自らの退廃美を、より即効性のあるポップ・ソングへ圧縮した結果である。

1990年代半ばの英国音楽シーンは、Oasis、Blur、Pulp、Elasticaなどによるブリットポップの全盛期にあった。労働者階級的なロックンロール、英国的ユーモア、ギター・ポップの復権が大きな潮流となる中で、Suedeは少し異なる位置にいた。彼らの音楽には、デヴィッド・ボウイ、T. Rex、Roxy Music、The Smiths、ポスト・パンクの影響が色濃くあり、英国郊外の倦怠、性的曖昧さ、ドラッグ、退廃、孤独を美しく、時に過剰に演出する美学があった。『Coming Up』は、そのSuedeらしさを保ちながら、より華やかで、よりラジオ向きの形へと磨き上げたアルバムである。

本作の最大の特徴は、全曲がシングル候補のように強いフックを持っている点である。「Trash」「Beautiful Ones」「Saturday Night」「Lazy」「Filmstar」といった楽曲は、いずれも短く、明快で、サビが強い。『Dog Man Star』のような暗い叙事詩的構成は後退し、代わりに3分台のポップ・ソングの中で、Suede特有の都市的な孤独とグラム的な煌めきが表現される。ブレット・アンダーソンの歌詞は、依然としてアウトサイダー、若者、性的逸脱、階級的な閉塞感を描くが、音楽はより開かれたものになっている。

リチャード・オークスのギターも重要である。バーナード・バトラーのギターは、劇的で、感情的で、時に楽曲そのものを支配するような存在感を持っていた。一方、オークスのギターはより整理され、曲のフックや勢いを支える方向に機能する。鋭いリフ、グラム・ロック的なきらめき、シンプルで効果的なコードワークによって、本作のポップな方向性を強く支えている。また、ニール・コドリングのキーボードは、アルバム全体に華やかさと近未来的な質感を加え、Suedeのサウンドをより色彩豊かにした。

歌詞の面では、『Coming Up』はSuedeの世界をよりポップに凝縮した作品である。ブレット・アンダーソンは、日常から少し外れた若者たち、クラブや街角をさまよう人々、メディアに消費されるスター、退屈と快楽の間で揺れる都市生活を描く。ここにあるのは、健全な青春ではなく、傷つき、過剰に着飾り、どこか壊れやすい若者たちの姿である。しかし本作では、その暗さが重く沈むのではなく、ギター・ポップの輝きの中で鳴らされる。つまり『Coming Up』は、退廃を祝祭化したアルバムである。

キャリア上の位置づけとして、本作はSuedeにとって商業的にも非常に重要な成功作となった。バーナード・バトラー脱退後の不安を払拭し、バンドが新体制で強力なポップ・アルバムを作れることを証明した。『Dog Man Star』が批評的評価の高い暗い傑作だとすれば、『Coming Up』はSuedeが広いリスナーに届くための扉を開いた作品である。両者は対照的だが、どちらもSuedeの本質を異なる形で示している。

日本のリスナーにとって『Coming Up』は、Suede入門として非常に適したアルバムである。メロディが明快で、曲が短く、グラム・ロック的な華やかさもあるため、ブリットポップに馴染みがなくても聴きやすい。一方で、歌詞を深く読むと、そこには階級、孤独、性的アイデンティティ、メディア社会、都市の若者文化といったSuedeらしいテーマが濃く存在している。華やかでありながら、決して軽くはない。『Coming Up』は、ポップ・アルバムとしての即効性と、Suede特有の危うい美学を両立させた名作である。

全曲レビュー

1. Trash

オープニング曲「Trash」は、『Coming Up』の方向性を最初の数秒で示す代表的な楽曲である。タイトルの「Trash」は「ごみ」や「くず」を意味するが、ここでは社会の中心から外れた若者たち、自分たちが高級でも正統でもないことを理解しながら、それをむしろ誇りに変えるアウトサイダー的な感覚を示している。Suedeにとって「trash」は、侮蔑語であると同時に、自己定義の言葉でもある。

歌詞では、安っぽい服、壊れた夢、郊外の退屈、社会から見れば価値が低いとされる若者たちの姿が描かれる。しかし、ブレット・アンダーソンは彼らを哀れむのではなく、華やかに祝福する。ここにSuedeの美学がある。社会が「くだらない」と見なすものに、ロマンと輝きを見出す。高級なものではなく、安っぽく、汚れていて、壊れかけたものの中に美を見つける感覚である。

音楽的には、きらびやかなギター、勢いのあるリズム、強いサビが特徴である。リチャード・オークスのギターは、バーナード・バトラー時代の複雑なドラマ性とは異なり、より直線的で、楽曲を前へ押し出す役割を担う。イントロからサビまでの流れは非常に明快で、アルバムの幕開けとして強い即効性を持つ。

ブレット・アンダーソンのヴォーカルは、ここで非常に高揚している。彼の声は、弱さや退廃を歌いながらも、ステージ上で旗を掲げるような力を持つ。「Trash」は、敗者の歌ではなく、社会の周縁にいる者たちのアンセムである。惨めさをそのまま提示するのではなく、それを美しく、派手に、ポップに変換している。

「Trash」は、『Coming Up』の核心をなす楽曲である。退廃、安っぽさ、若者の孤独を、グラム・ロック的な輝きへ変える。Suedeが新体制で再び強力なポップ・バンドとして立ち上がったことを示す、完璧なオープニングである。

2. Filmstar

「Filmstar」は、メディア、名声、虚像をテーマにした楽曲である。タイトルは「映画スター」を意味するが、ここで描かれるスター像は、輝かしい成功者というより、消費されるイメージとしての存在である。ブレット・アンダーソンは、スターを憧れの対象としてだけでなく、空虚で人工的な存在として描く。

歌詞では、映画スターのように見られること、他人の視線によって自分が作られていくことがテーマになっている。1990年代のブリットポップ期には、音楽とメディアの関係が非常に密接であり、バンド自身も雑誌やテレビによって消費される存在だった。Suedeはデビュー当初から、ブレット・アンダーソンの性的に曖昧なイメージや退廃的な言動によって注目されたバンドでもある。そのため「Filmstar」は、単に映画スターを歌った曲ではなく、メディアに映し出される自己像への皮肉としても聴ける。

音楽的には、非常にグラム・ロック的である。鋭いギター・リフ、タイトなリズム、派手なコーラスが、スターの虚飾をそのまま音にしたような華やかさを持つ。曲はコンパクトで、無駄がなく、フックが強い。『Coming Up』がいかにポップ・アルバムとして設計されているかをよく示す曲である。

ブレット・アンダーソンの歌唱は、ここでは少し芝居がかっている。彼は単にスターについて歌うのではなく、自らがスターの仮面をかぶっているように振る舞う。この演劇性はSuedeの重要な要素である。彼らの音楽では、本当の自分と演じられた自分の境界が常に曖昧である。

「Filmstar」は、名声と虚無を同時に描く楽曲である。華やかなサウンドの裏に、メディアによって作られる人間像の空虚さが潜んでいる。『Coming Up』のグラム的な側面を代表する一曲である。

3. Lazy

「Lazy」は、タイトル通り「怠惰」をテーマにした楽曲である。ただし、ここでの怠惰は単なるだらしなさではなく、1990年代の英国郊外に漂う倦怠感、働くことや成功することへの冷めた視線、日常から抜け出せない若者たちの感覚を表している。Suedeの歌詞には、しばしば郊外の退屈と、それを一時的に忘れさせる快楽が描かれるが、この曲はその典型である。

歌詞では、何もせずに時間を浪費する人々、刺激を求めながらも行動できない人々の姿が描かれる。ブレット・アンダーソンは、彼らを単純に批判するのではなく、その退屈の中にある美しさや滑稽さを捉える。怠惰は社会的には否定されるものだが、Suedeの世界では、それは現実に適応できない者たちの静かな抵抗のようにも響く。

音楽的には、軽快なリズムとキャッチーなメロディが印象的である。タイトルは怠惰でありながら、曲自体は非常に生き生きとしている。この対比が面白い。歌詞では何もしない人々を描きながら、音楽はグラム・ロック的に跳ね、ギターは鋭く、サビは明るく開ける。退屈を退屈な音楽で描くのではなく、退屈をポップに変換している点にSuedeのセンスがある。

「Lazy」は、『Coming Up』の中でも特にブリットポップ的な即効性を持つ曲である。しかし、その内側には、労働倫理や社会的成功に対する皮肉も含まれている。何者かにならなければならないという圧力に対して、何もしないこと、怠けること、時間を無駄にすることが、若者の現実として描かれている。

この曲は、Suedeが描く郊外的な倦怠を、明るくキャッチーなロックに変えた楽曲である。『Coming Up』のポップ性と社会的観察眼がよく表れている。

4. By the Sea

「By the Sea」は、アルバムの中で最も美しく、内省的なバラードのひとつである。タイトルは「海辺で」という意味を持ち、逃避、静けさ、過去、生活の疲労から離れた場所を連想させる。『Coming Up』は全体的に華やかでアップテンポな曲が多いが、この曲ではSuedeの叙情的な側面が前面に出る。

歌詞では、都市や日常から離れ、海辺で静かに暮らすようなイメージが描かれる。しかし、それは単純な幸福の風景ではない。海辺は解放の場所であると同時に、現実からの撤退の場所でもある。何かに疲れ、社会から降りるような感覚がそこにはある。ブレット・アンダーソンの歌詞では、逃避はしばしば美しく描かれるが、その美しさの中には喪失や諦めが含まれている。

音楽的には、穏やかなテンポと広がりのあるアレンジが特徴である。ギターとキーボードは、曲に淡い光のような質感を与える。サウンドは派手ではないが、メロディは非常に印象的で、アルバムの中で重要な緩急を作っている。グラム・ロック的なきらめきは抑えられ、よりチェンバー・ポップに近い繊細な響きがある。

ブレット・アンダーソンのヴォーカルは、ここでは高揚よりも疲労と優しさを帯びている。彼の声には、過去を振り返るような距離感があり、曲全体に薄い哀愁を与えている。『Dog Man Star』に通じるドラマ性もあるが、本作ではそれがよりコンパクトで親しみやすい形にまとめられている。

「By the Sea」は、『Coming Up』の中で、華やかなポップ・アルバムとしての表面に深みを与える曲である。逃避と静かな諦め、海辺の美しさと生活の疲労が重なった、Suedeらしいバラードである。

5. She

「She」は、Suedeらしい性的な曖昧さと都市的な孤独を持つ楽曲である。タイトルは非常にシンプルな「彼女」だが、その人物像は単純な恋愛対象として描かれているわけではない。ブレット・アンダーソンの歌詞に登場する人物たちは、しばしば性別や階級、欲望、自己演出の境界を曖昧にする存在であり、「She」もその系譜にある。

歌詞では、どこか危うく、魅力的で、社会の規範から外れた人物像が浮かび上がる。彼女は単なるロマンティックなヒロインではなく、都市の夜や快楽、退廃と結びついた存在である。Suedeの音楽では、こうした人物たちがしばしば美しく描かれる。社会的には不安定で、傷つきやすく、時に破滅的であっても、彼ら/彼女らは凡庸な日常を超える輝きを持つ。

音楽的には、鋭いギターとグラマラスなサウンドが中心である。曲はコンパクトでありながら、フックが強く、アルバムのポップな流れを保っている。リチャード・オークスのギターは、ここでもシンプルで効果的なリフを生み出し、楽曲に勢いを与える。

ブレット・アンダーソンのヴォーカルは、人物を観察するようでありながら、同時にその人物に強く惹かれているように響く。この距離感がSuedeらしい。彼は登場人物を外から描くだけではなく、自分自身の欲望や投影を重ねている。そのため、「She」は単なる人物描写ではなく、語り手自身の内面も映し出す曲である。

「She」は、『Coming Up』の中で、Suedeの退廃的な人物造形がよく表れた楽曲である。ポップなサウンドの中に、性的な曖昧さと都市的な危うさが込められている。

6. Beautiful Ones

「Beautiful Ones」は、『Coming Up』を代表する楽曲であり、Suedeのキャリア全体の中でも最も重要なシングルのひとつである。タイトルは「美しい者たち」という意味だが、ここで描かれる美しさは、健康的で整ったものではない。ドラッグ、ファッション、性的な曖昧さ、夜の街、若者の過剰さと脆さが入り混じった、Suede特有の美である。

歌詞では、若者たちの享楽的で危うい生活が描かれる。彼らは美しいが、同時に壊れやすい。着飾り、踊り、愛し、傷つき、快楽を求める。ブレット・アンダーソンは彼らを道徳的に裁くのではなく、まぶしい存在として描く。ここには、Suedeが一貫して持ってきたアウトサイダーへの視線がある。社会の中心にいる健康な若者ではなく、夜の街で自分を作り替える者たちこそが「beautiful ones」なのである。

音楽的には、非常に強力なグラム・ロック/ブリットポップ・アンセムである。ギター・リフは鋭く、リズムは軽快で、サビは大きく開ける。曲は短く、無駄がなく、最初から最後まで高いテンションを保つ。『Coming Up』のポップ性を最も分かりやすく体現した曲と言える。

この曲の魅力は、祝祭性と退廃性の共存にある。音楽だけを聴けば明るく高揚感があるが、歌詞を読むと、そこには自己破壊的な若者文化が描かれている。Suedeはその暗さを隠さず、むしろ美しいものとして鳴らす。ここに彼らのグラム・ロック的な本質がある。デヴィッド・ボウイやT. Rexから続く、作られた自己、華やかな仮面、退廃の美学が現代的に更新されている。

「Beautiful Ones」は、Suedeのポップな到達点であり、『Coming Up』の中心曲である。社会の端にいる若者たちの美しさを、きらびやかなギター・ロックとして祝福した、90年代ブリットポップを代表する名曲である。

7. Starcrazy

「Starcrazy」は、タイトル通り、スターへの熱狂、名声への憧れ、あるいはスターになることへの狂気をテーマにした楽曲である。『Coming Up』には「Filmstar」も収録されており、本作全体にメディア、スター性、虚像への関心が強く流れている。「Starcrazy」はそのテーマをより軽快でポップな形で表現した曲である。

歌詞では、スターに憧れ、普通の生活から抜け出したい人物像が描かれる。ブリットポップ期の英国では、バンドやポップスターが若者文化の中心的存在となり、メディアが彼らを大きく消費していた。Suede自身もその対象だった。「Starcrazy」は、スターへの憧れを描きながら、その憧れがどこか滑稽で空虚であることも示している。

音楽的には、アルバムの中でも特に軽快で、勢いのある曲である。ギターは明るく、リズムも前のめりで、ポップなフックが強い。曲自体がスターへの熱狂を表すように、短く派手に駆け抜ける。これは『Coming Up』のコンパクトなポップ・ソング志向をよく示している。

しかし、楽曲の明るさの裏には、自己演出への不安もある。スターになることは、自由になることのように見えるが、同時に他人の視線に自分を委ねることでもある。Suedeはその両面を理解している。スターは輝くが、その輝きは人工的で、消費されやすく、しばしば空虚である。

「Starcrazy」は、『Coming Up』における名声への皮肉と憧れを軽快に描いた楽曲である。ポップで楽しい曲でありながら、メディア社会における自己像の不安を含んでいる点が、Suedeらしい。

8. Picnic by the Motorway

「Picnic by the Motorway」は、タイトルからしてSuedeらしい倒錯した美学を持つ楽曲である。「高速道路のそばでのピクニック」というイメージは、本来の牧歌的なピクニックの風景を、都市郊外の人工的で騒音に満ちた場所へ置き換える。自然と工業、ロマンと退廃、日常と異様さが衝突するタイトルである。

歌詞では、郊外的な風景、逃避、愛、そしてどこか死の気配を含んだロマンが描かれる。Suedeの音楽には、英国郊外の灰色の風景がしばしば登場する。高速道路、団地、安い部屋、テレビ、ドラッグ、夜の街。そうした場所は本来、美しいものとして扱われにくい。しかしブレット・アンダーソンは、その人工的で寂しい風景の中に詩情を見出す。

音楽的には、ややミドル・テンポで、アルバムの中では叙情的な側面が強い。ギターとキーボードが柔らかく重なり、どこか夢の中のような空気を作る。『Coming Up』の華やかなシングル群とは少し異なり、この曲はアルバムに陰影を与える役割を持つ。

この曲の魅力は、Suedeが得意とする「美しくない場所を美しく歌う」能力にある。高速道路のそばは、普通ならロマンティックな場所ではない。しかし、社会の中心から外れた人々にとっては、そのような場所こそが記憶の舞台になることがある。豪華な場所ではなく、安っぽく、騒がしく、少し汚れた場所にこそ、個人的な愛や逃避の記憶が残る。

「Picnic by the Motorway」は、『Coming Up』の中で、Suedeの郊外的な詩情を最も明確に示す楽曲のひとつである。華やかなグラム・ロックの表面だけでなく、彼らの歌詞世界の深さを感じさせる曲である。

9. The Chemistry Between Us

「The Chemistry Between Us」は、タイトルが示す通り、人と人との間に生まれる化学反応、つまり恋愛や欲望、感情の引力をテーマにした楽曲である。Suedeの歌詞では、恋愛はしばしば清潔で安定したものではなく、身体的で、危うく、社会的な規範を逸脱するものとして描かれる。この曲もその流れにある。

歌詞では、二人の間にある説明しがたい引力が描かれる。理屈ではなく、身体や感覚が反応してしまう関係である。「chemistry」という言葉は、恋愛における相性を表す一般的な表現であると同時に、ドラッグや化学物質を連想させる。Suedeの世界では、愛、欲望、薬物的な高揚がしばしば重なり合う。この曲でも、人間関係は自然なものというより、何か危険な反応として描かれている。

音楽的には、メロディアスでありながら、どこか不穏な空気を持つ。キーボードの響きが曲に近未来的な感触を与え、ギターはグラム的な鋭さを保つ。『Coming Up』の中では、ポップ性と少しの実験性がバランスよく同居している曲である。

ブレット・アンダーソンの歌唱は、ここで官能的でありながら距離感もある。彼は欲望を歌っているが、それを完全にロマンティックにはしない。むしろ、その欲望が人を壊す可能性や、関係を不安定にする力も含めて表現している。Suedeのラブソングは、安心ではなく危険を伴う。

「The Chemistry Between Us」は、『Coming Up』における官能性とポップ性が結びついた楽曲である。人と人との間に生まれる引力を、甘い恋愛ではなく、危うい反応として描いている点がSuedeらしい。

10. Saturday Night

アルバムの最後を飾る「Saturday Night」は、『Coming Up』の中でも最も美しく、普遍的なバラードである。タイトルの「土曜の夜」は、ポップ・ミュージックにおいて特別な意味を持つ。外出、恋愛、街の光、孤独、期待、週末の解放。Suedeはこのありふれた言葉を使いながら、非常に切ない都市のラブソングを作り上げている。

歌詞では、土曜の夜に誰かと過ごすこと、あるいは誰かと一緒にいたいという願いが描かれる。ここには、『Coming Up』全体に登場してきたアウトサイダーたちの姿が静かに集約されている。彼らは社会の中心にはいないかもしれないが、週末の夜には、自分たちなりの輝きを求めて街へ出る。安い服を着て、少し背伸びをし、愛や快楽や忘却を探す。その中には孤独もあるが、同時に美しさもある。

音楽的には、穏やかなテンポと優しいメロディが特徴である。アルバムの多くの曲が鋭く、華やかに進むのに対し、この曲は最後に静かな余韻を残す。ギターとキーボードは柔らかく、ブレット・アンダーソンの声も過剰な演劇性を抑え、素直な感情を伝える方向に向かっている。

「Saturday Night」の重要性は、Suedeの退廃美がここで非常に人間的な優しさへと変わる点にある。本作では「Trash」や「Beautiful Ones」のように、アウトサイダーたちを華やかに祝福する曲が多い。しかし最後に置かれたこの曲では、その華やかさの後に残る寂しさと、誰かと一緒にいたいという素朴な願いが描かれる。

「Saturday Night」は、『Coming Up』の締めくくりとして完璧な楽曲である。アルバム全体のグラム的な輝き、若者の退廃、都市の孤独を、最後に優しいバラードとして回収する。華やかな夜の終わりに残る静かな感情を描いた、Suede屈指の名曲である。

総評

『Coming Up』は、Suedeがバーナード・バトラー脱退という大きな危機を乗り越え、新たな編成で作り上げたポップ・アルバムである。『Dog Man Star』のような重厚な芸術性を期待すると、本作は軽く感じられるかもしれない。しかし、この軽さは単なる妥協ではない。むしろ、Suedeの退廃的な美学を、最も明快で、最も華やかな形に凝縮した結果である。

本作の最大の魅力は、曲の強さである。「Trash」「Filmstar」「Lazy」「Beautiful Ones」「Saturday Night」など、収録曲の多くが強いフックと明確なキャラクターを持っている。アルバム全体に無駄が少なく、ギター、キーボード、ヴォーカルがそれぞれポップ・ソングの即効性を高めるように配置されている。Suedeの作品の中でも、最も聴きやすく、最も外向きなアルバムと言える。

しかし、聴きやすいからといって、内容が浅いわけではない。歌詞には、郊外の倦怠、階級的な閉塞感、性的な曖昧さ、メディアによる虚像、若者の自己破壊的な美しさが濃く存在している。「Trash」や「Beautiful Ones」は、社会から見れば価値が低いとされる若者たちを、グラム・ロックの輝きの中で祝福する曲である。「Filmstar」や「Starcrazy」は、スター性と空虚さを描く。「Picnic by the Motorway」は、英国郊外の人工的な風景に詩情を見出す。「Saturday Night」は、夜の終わりに残る孤独と優しさを静かに描く。つまり本作は、ポップな表面の下にSuedeらしい社会的・感情的なテーマをしっかりと持っている。

音楽的には、グラム・ロックの影響が非常に強い。デヴィッド・ボウイやT. Rexの系譜にある、性別の曖昧さ、人工的な華やかさ、退廃の演出が、1990年代ブリットポップの文脈で再構築されている。一方で、リチャード・オークスのギターは、バーナード・バトラーの劇的なスタイルとは異なり、よりシンプルで、曲の輪郭を明確にする役割を果たしている。これにより、アルバム全体は非常にシャープで、ポップな仕上がりになっている。

ニール・コドリングのキーボードも本作の重要な要素である。キーボードの導入によって、Suedeのサウンドはギター中心のブリットポップにとどまらず、より艶やかで、少し人工的な輝きを持つようになった。この人工性は、アルバムのテーマともよく合っている。『Coming Up』の登場人物たちは、自分自身を着飾り、演出し、夜の街で別の存在になろうとする。サウンドのきらびやかさは、その自己演出の音楽的表現でもある。

ブレット・アンダーソンのヴォーカルと歌詞は、本作でも中心的な役割を果たしている。彼の声は、退廃的でありながらアンセム的でもあり、弱さを歌いながらステージ上で強く響く。歌詞は時に断片的で、具体的な物語を説明しないが、その分、イメージの力が強い。安っぽい服、映画スター、郊外、海辺、高速道路、土曜の夜。そうした言葉が、Suede独自の世界を形作っている。

『Coming Up』は、1990年代ブリットポップの中でも独特の位置にある。Oasisのようなロックンロールの直線性、Blurのような英国的観察眼、Pulpのような階級と性の物語と比較すると、Suedeはよりグラマラスで、より性的に曖昧で、より退廃的である。本作は、その個性を大衆的なポップ・アルバムとして最も分かりやすく提示した作品である。

日本のリスナーにとっては、Suedeを初めて聴く際の入口として非常に適している。曲が短く、メロディが強く、アルバム全体のテンションも高い。一方で、歌詞や背景を掘り下げると、単なるブリットポップのヒット作ではなく、英国的な階級意識、都市の孤独、グラム・ロックの美学、90年代の若者文化が複雑に絡み合った作品であることが分かる。

総じて『Coming Up』は、Suedeが最もポップで、最も華やかで、最も開かれた形で自らの美学を提示したアルバムである。『Dog Man Star』の暗い芸術性とは対照的だが、こちらには即効性、祝祭感、そしてアウトサイダーたちへの優しい視線がある。退廃を明るく鳴らし、安っぽさを美へ変え、孤独な若者たちをグラム・ロックの光で照らした、Suedeの代表作である。

おすすめアルバム

1. Suede – Suede(1993)

Suedeのデビュー・アルバムであり、ブリットポップ前夜の英国ロックに大きな衝撃を与えた作品。バーナード・バトラーの劇的なギターと、ブレット・アンダーソンの性的に曖昧で退廃的な歌詞が強く結びついている。『Coming Up』よりも荒削りで暗いが、Suedeの美学の原点を知るうえで重要である。

2. Suede – Dog Man Star(1994)

Suedeの最も壮大で暗い作品。長尺の楽曲、重厚なアレンジ、退廃的な歌詞が特徴で、ブリットポップの枠を超えたアート・ロック的な傑作として評価されている。『Coming Up』の明快なポップ性と対比することで、Suedeの表現の幅広さがよく分かる。

3. Pulp – Different Class(1995)

ブリットポップを代表する名盤のひとつ。ジャーヴィス・コッカーの鋭い観察眼によって、階級、性、日常の滑稽さが描かれる。Suedeと同じく、英国的な生活感と性的なテーマを扱うが、Pulpはより皮肉で社会観察的である。『Coming Up』と並べて聴くことで、90年代英国ロックの多様性が見える。

4. David Bowie – The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars(1972)

Suedeの美学に大きな影響を与えたグラム・ロックの代表作。性的な曖昧さ、スター性、退廃、演劇的なロック表現が強く打ち出されている。『Coming Up』の「Filmstar」や「Beautiful Ones」にある人工的な華やかさを理解するうえで、重要な参照点となる。

5. Manic Street Preachers – Everything Must Go(1996)

『Coming Up』と同じ1996年にリリースされた、ブリットポップ期の重要作。リッチー・エドワーズ失踪後のバンドが、悲劇と喪失を大きなロック・アンセムへ変換した作品である。Suedeとは異なる政治性と重さを持つが、90年代英国ロックがいかに個人的な危機をポップな形へ変えたかを示す関連作である。

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