
発売日: 1996年4月29日
ジャンル: テクノ、IDM、アンビエント
エレクトロニック・ミュージックの芸術作品——Orbitalの最高傑作
1996年にリリースされたIn Sidesは、Orbitalのキャリアの中で最もコンセプチュアルで感情的な作品であり、エレクトロニック・ミュージックをアートの域に引き上げた名盤として広く評価されている。本作では、環境問題や社会問題といったテーマを音楽に組み込みつつ、クラブミュージックとしてのダイナミズムと、知的な音響設計を融合させた。
前作Snivilisation(1994年)で打ち出したIDM的な方向性をさらに進化させ、長尺の楽曲、シネマティックな構成、幻想的なサウンドスケープが際立つアルバムとなっている。特に「The Box」や「Out There Somewhere?」などの楽曲は、ダンスフロア向けの即効性を持ちながらも、ドラマティックな展開と奥深いストーリー性を備えている。
このアルバムは、90年代のテクノシーンにおいて最も芸術的な作品の一つとされ、Orbitalの最高傑作と評する声も多い。
全曲レビュー
1. The Girl with the Sun in Her Head
環境問題をテーマにした壮大なトラック。アナログシンセの温かみと、メロディの美しさが際立つ。この楽曲は、完全にソーラーパワーのみで録音されたことでも話題となった。リズムは比較的控えめだが、エモーショナルなメロディが繰り返され、リスナーを深い瞑想状態へと誘う。
2. P.E.T.R.O.L.
映画『Mortal Kombat』のサウンドトラックにも使用された、攻撃的なテクノトラック。インダストリアルなビートと、ノイズ的なシンセが絡み合い、緊張感のある展開が続く。ダークな雰囲気が特徴的で、アルバムの中でも特にアグレッシブな楽曲。
3. The Box (Part 1)
本作のハイライトのひとつ。ミステリアスなメロディと、不穏なパーカッションが組み合わさり、まるで物語の序章のような雰囲気を持つ。クラシック音楽の要素を感じさせるフレーズがあり、Orbitalの映画的なアプローチが際立つ楽曲。
4. The Box (Part 2)
前曲の続きとして展開されるが、よりダンサブルなビートが強調され、メロディも力強くなる。エレクトロニック・ミュージックにおけるストーリーテリングの傑作であり、クラブシーンとリスニング体験の両方に対応した名曲。
5. Dŵr Budr
タイトルはウェールズ語で「汚れた水」を意味し、環境問題をテーマにした楽曲。シンセの流麗なフレーズとトライバルなパーカッションが交錯し、ダークで神秘的な雰囲気を生み出している。
6. Adnan’s
戦争の犠牲となった子供をテーマにした楽曲。メランコリックなメロディが印象的で、どこか哀愁を感じさせる。リズムは比較的シンプルだが、徐々に高揚していく展開が感動的。
7. Out There Somewhere? (Part 1)
12分以上にわたる壮大なトラック。宇宙的なサウンドスケープが広がり、アンビエントとテクノの融合が極まった楽曲。リズムの構築が巧妙で、じわじわとトランス状態へと誘われる感覚を味わえる。
8. Out There Somewhere? (Part 2)
アルバムのクライマックス。前曲の続きとして展開されるが、さらにドリーミーで幻想的な要素が加わる。アルバム全体の流れを締めくくるにふさわしい、壮大でエモーショナルなフィナーレ。
総評
In Sidesは、Orbitalの芸術性が頂点に達した作品であり、エレクトロニック・ミュージックが感情やストーリーを表現できることを証明した名盤である。本作では、環境問題や戦争といった社会的テーマを背景にしながらも、純粋な音楽体験として圧倒的な没入感を提供している。
「The Box」や「Out There Somewhere?」など、長尺でありながらもリスナーを引き込む展開力を持つ楽曲が多く、映画のサウンドトラックのような奥深さを感じさせる。一方で、「P.E.T.R.O.L.」のようなクラブ向けの攻撃的な楽曲もあり、バランスの取れたアルバムとなっている。
Orbitalのディスコグラフィの中でも特に評価が高く、90年代のエレクトロニック・ミュージックの金字塔とされる作品。
おすすめアルバム
- Orbital – Snivilisation (1994)
- 本作の前作であり、より社会的メッセージが込められた実験的な作品。
- Aphex Twin – Selected Ambient Works Volume II (1994)
- エレクトロニック・ミュージックの瞑想的な側面を極めた作品。
- Underworld – Second Toughest in the Infants (1996)
- クラブミュージックとIDMの融合を果たした、知的で奥深いアルバム。
- The Future Sound of London – Dead Cities (1996)
- シネマティックなエレクトロニカの名盤。環境音を多用したサウンドスケープが魅力。
- Autechre – Tri Repetae (1995)
- ミニマルで複雑なリズムと、実験的なサウンドデザインが際立つIDMの名作。
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