発売日: 2007年7月2日
ジャンル: エレクトロクラッシュ、ダーティー・ポップ、ヒップホップ
概要
『3OH!3』は、コロラド出身のデュオ3OH!3が2007年に自主リリースしたデビュー・アルバムであり、ミレニアル世代のカオティックな感性とエレクトロ・パンクのエネルギーを結晶化させた異色作である。
後にメジャーでのブレイクを果たす彼らが、DIY精神に満ちたこの作品で示したのは、「ジャンル」という枠組みを破壊し、ユーモアと挑発に満ちた表現でリスナーの固定観念を揺さぶる姿勢だった。
エレクトロクラッシュ、ヒップホップ、スクリーモ、シンセポップが混在しながら、どの要素も完全には主流に馴染まないという独特のバランス感覚こそが本作の魅力であり、彼らの後の活動のプロトタイプがここにある。
このアルバムは、のちに再録される「Electroshock」や「Holler Til You Pass Out」など、ライブの定番となる楽曲を含んでおり、3OH!3という存在がいかにしてカルト的なファンダムを築いていったかを示す出発点として重要な意味を持つ。
その音は荒削りで衝動的。だが、その混沌こそが3OH!3の原点なのだ。
全曲レビュー
1. Holler Til You Pass Out
3OH!3の代名詞とも言える挑発的で爆発力のあるオープニング。
クラブミュージックとスクリームの中間のようなサウンドで、「叫び倒せ」というメッセージが全編に満ちる。
エレクトロ・パンクの快楽主義と暴力的なまでのテンションが融合した一曲。
2. Chokechain
ヒップホップの要素が強いが、ヴォーカルには明らかなパンク的アティチュードが漂う。
「支配されることの快感」をテーマにした歌詞は、痛みと快楽の境界線を彷徨うような危うさがある。
3. Dance with Me
ダンス・フロア向けのビートを備えながら、どこか破綻したようなリズムとサンプルが印象的。
官能性よりも、歪んだ身体性の爆発が中心にある楽曲。
4. Electroshock
後に再録される重要トラック。3OH!3流の「エレクトロと暴力性の結合」が見事に表現されている。
タイトル通り、聴く者に電撃を与えるような衝撃的サウンド。
5. Neatfreak 47
ユーモラスでありながらも不気味な、不条理性の漂う楽曲。
“清潔”への強迫観念と人間関係の摩擦がテーマとなっており、リリックの皮肉が冴える。
6. I’m Not Your Boyfriend Baby
フェイクな恋愛関係へのアンチテーゼ。
エレクトロとパンクが混ざり合い、「見せかけの愛など要らない」という反骨のメッセージが叫ばれる。
7. Starstrukk
本作では初期バージョンが収録され、のちのメジャー版とは異なるローファイな魅力がある。
有名人との空虚な関係性を風刺したこの楽曲は、ポップカルチャーへの批評とも取れる。
8. Bedford
いきなりテンションを落としたエモーショナルなナンバー。
ノイズとボーカルのバランスが繊細で、アルバム中唯一の静寂の瞬間。
9. Don’t Dance
「踊らないこと」を主張するアンチ・クラブソング。
ダンスフロアを否定することで、逆に身体性の過剰さを露呈するような構造が見られる。
10. Photofinnish
アルバムの中でもっともエクスペリメンタルなトラック。
歪んだエフェクトとリズムの断片がコラージュ的に構成され、無秩序の美を提示する。
11. Colorado Sunrise
唯一のフォーキーなラブソング。
地元コロラドの情景を織り交ぜた穏やかなメロディは、他の楽曲とあまりに対照的。
本作をカオスだけに終わらせない、“人間性”を示す最後の光である。
総評
『3OH!3』は、あらゆる意味で「整っていない」アルバムである。
だが、まさにその不均衡さと攻撃性こそが、当時の彼らの美学だった。
エレクトロでもヒップホップでもパンクでもない、そしてそのどれでもある――そんな未定義の音楽性が、MySpace世代の混沌としたアイデンティティと重なり、聴き手に強烈な個性を植えつける。
のちに3OH!3は「Don’t Trust Me」などでメジャーブレイクを果たすが、このデビュー作における荒々しさとDIY精神は、彼らの魅力の原点にして、最も純粋な部分である。
本作は商業的には小さなリリースだったが、エレクトロ・クラッシュとパンク的態度を合体させた点で、のちのHyperpop以降の音楽にも先行する要素を含んでいたとも言えるだろう。
『3OH!3』は、時代を先取りしすぎたのかもしれないが、それゆえに今聴くと、かえって新鮮に響く作品なのである。
おすすめアルバム(5枚)
- Mindless Self Indulgence『Frankenstein Girls Will Seem Strangely Sexy』
電子音とパンクを融合した異端児的存在。3OH!3初期と通じるアグレッシブな音世界。 - Crystal Castles『Crystal Castles (I)』
ローファイなエレクトロと狂気のエネルギーが交差する、同時代の革新的アルバム。 - Millionaires『Just Got Paid, Let’s Get Laid』
MySpace時代を象徴する女性版3OH!3的グループ。DIY感と下品さが共鳴。 - Blood on the Dance Floor『Epic』
カオティックなエレクトロ・スクリーモ。3OH!3の過激さとエンタメ性に近い。 -
Die Antwoord『$O$』
ジャンルを無視した破壊的サウンドとアート性の融合。3OH!3の実験性をより先鋭化したような一枚。
ビジュアルとアートワーク
アルバム『3OH!3』のカバーアートは、荒削りなDIY美学が前面に出ており、明確なブランド戦略よりも“勢い”と“混沌”を伝えることに焦点が当てられている。
手描き風のロゴやカットアップ的なデザインは、当時のMySpace世代に見られた「崩しの美学」と重なり、整然としたプロダクションとは対極にある感性を体現していた。
そのビジュアルセンスすら、音楽ジャンルと同様に“決まっていないこと”がかえって価値になっていた。これはのちのインターネット・カルチャーに先行した思想とも言える。
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