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概要
「23’s A Baby」は、Blondshellが2023年10月にデラックス・エディションとして再リリースしたセルフタイトル・アルバム『Blondshell』に追加収録された新曲であり、年齢・自己認識・未成熟への苛立ちと優しさが交錯する、鋭くも愛すべきロックバラードである。
タイトルの「23’s A Baby(23歳は赤ん坊)」という一文が、すでにこの曲の本質を射抜いている。
それは若さの無知さを皮肉ると同時に、振り返る視点で自分自身の弱さを抱きしめようとする言葉でもあるのだ。
オリジナルアルバムで描かれたテーマ——恋愛依存、自己破壊、回復の予兆——を受け継ぎながらも、本作ではより冷静な視線と軽やかなユーモアが加わり、Blondshellの物語が次のフェーズへと向かいつつあることを感じさせる。
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歌詞の深読みと文化的背景
「23’s A Baby」は、そのタイトル通り、ある年齢にまつわる自己意識の揺らぎと、それに対する自己評価の変化をテーマにしている。
冒頭から、23歳という“まだ未熟な年齢”で経験してきたこと——間違った恋、自己肯定感の欠如、間違った場所での居心地の悪さ——が、皮肉と優しさの両方を込めて綴られる。
これは、単に若気の至りを笑う曲ではなく、過去の自分に手紙を書くような視点で書かれている。
「そんなに大人になろうとしなくてもよかった」といったニュアンスが散りばめられており、それはZ世代的な“成熟への拒否反応”とも読める。
社会から押し付けられる“しっかりしなきゃ”という空気への違和感——この曲は、そうした空気に対して静かに抗うアンセムでもあるのだ。
また、タイトルに数字(=年齢)を直接用いる点でも、「22」や「Fifteen」などの年齢ポップの系譜にありながら、Blondshellはそこに毒と笑いを混ぜる。
“可愛くない”年齢描写、それこそがこの曲の魅力である。
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音楽的特徴
曲調はミッドテンポのギターロックで、ややスモーキーなギターとタイトなドラムが骨格を成す。
サビではギターがぐっと厚みを増し、歌声が自然に前に出る構造となっており、「静かな怒り」や「かすかな寂しさ」がそのまま音の強弱に置き換えられている。
ボーカルはいつものBlondshellらしく、感情を前面に出しすぎず、むしろ淡々と語るように進行する。
しかしその冷静さこそが、リスナーに“過去の自分”を重ねさせる力を持っている。
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特筆すべき点
- 年齢に対する皮肉と許しのバランス
—— 若さへの苛立ちだけでなく、「わかってなかった自分」に対する優しさが内包されている。 - 自伝的でありながら普遍的
—— Blondshellの個人的記憶が、リスナーそれぞれの“未熟だった時代”とリンクする構造になっている。 - 笑えるのに、泣ける
—— ユーモラスなフレーズや皮肉的な語り口の中に、切実なリアルがにじんでいる。
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結論
「23’s A Baby」は、Blondshellの作品群の中でも、特に感情の距離感が優れている一曲である。
それは爆発でも癒しでもなく、“笑って見送れる痛み”として過去を扱っているからこそ、リスナーは自分自身の「取りこぼした時間」に優しくなれる。
それは、ロックにしかできない救済のかたちでもある。
過去を茶化しながらも、未来へ進む勇気をくれる。
Blondshellが描く“23歳”は、あまりに愚かで、でも愛すべき自分自身なのだ。
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