発売日: 2016年12月9日
ジャンル: フォーク・ロック、プロテスト・ロック、ローファイ
静かなる反逆の足音——Neil Young、“いま”のアメリカを歩くギターと声
『Peace Trail』は、Neil Youngが2016年に発表した34作目のスタジオ・アルバムであり、スタンディング・ロックの水資源保護運動やアメリカ社会の分断といった時事的テーマを反映しながら、フォーク・ロックの伝統と即興性を融合させた作品である。
基本編成は、ヤング自身のギター／ハーモニカに加え、ジム・ケルトナー（ドラム）とポール・ブッシュネル（ベース）のトリオ編成で構成されており、音のラフさ、ざらつき、そして即時性がアルバムの核となっている。
前作『The Monsanto Years』で政治的メッセージをストレートに打ち出した流れを汲みつつ、本作ではより個人的かつ詩的な語りが増し、内なる平和と外なる混乱の狭間で揺れる“表現者ヤング”の現在地が刻まれている。
全曲レビュー
1. Peace Trail
タイトル曲。静かなギターと囁くような声が、“平和”という言葉の重さと儚さを描き出す。 抑制された演奏がむしろ不安を掻き立てる。
2. Can’t Stop Workin’
労働と老いをテーマにしたナンバー。「働き続けなければならない」というリアルな視点が、乾いたロックンロールに落とし込まれている。
3. Indian Givers
ダコタ・アクセス・パイプライン問題を背景に、先住民の権利と環境問題を絡めた強いメッセージ・ソング。 “Indian giver”という表現に痛烈な皮肉がこもる。
4. Show Me
「誰が本当のことを見せてくれる？」という問いかけを繰り返す、情報過多な現代への疑念と願望が滲むフォーク・ロック。
5. Texas Rangers
法の名のもとに行使される暴力への批判。パーカッシブなリズムと脱力気味の語りが、逆説的に緊張を生む。
6. Terrorist Suicide Hang Gliders
突飛なタイトルに反して、メディアと恐怖政治を皮肉る風刺的トラック。 不条理と諷刺がヤングらしいユーモアで語られる。
7. John Oaks
デモ参加者の死をテーマにした寓話的トラック。物語調の語りとギターが、1本の映画のような空気を醸す。
8. My Pledge
誓いの歌。「私は誰にも従わない」という言葉が、不穏な未来への静かな抵抗として響く。
9. Glass Accident
ガラスのような壊れやすい社会を描く比喩的楽曲。淡々とした語りのなかに、文明批評が込められる。
10. My New Robot
ラストを飾るのは、人間と機械の関係を風刺した実験的ナンバー。 音声合成を用いたシュールなコラージュが印象的。
総評
『Peace Trail』は、Neil Youngが“騒がしい時代”に対して静かに、しかし確かに問いを投げかけたアルバムである。
ギターの歪みも、声の揺れも、言葉の曖昧ささえもが、現代の不安と同調するようにアルバム全体に漂っている。
ここにあるのは“答え”ではなく“問いの集合”。
それでもヤングは、音楽という手段を使って歩き続ける。平和の道——Peace Trail——を、自ら踏みしめるように。
演奏はあえて磨き抜かれていない。録音もざらつき、まるで“速報性”を重視するニュースキャスターのように、感情と即興を優先した“生の記録”である。
おすすめアルバム
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Living with War / Neil Young
同様に社会的テーマをストレートに扱ったロック・アルバム。 -
Greendale / Neil Young & Crazy Horse
物語性と社会批評を融合させた叙事詩的作品。 -
Time Out of Mind / Bob Dylan
不穏な時代の空気と個人の孤独が交差する深遠な名盤。 -
Carrie & Lowell / Sufjan Stevens
個人の喪失と祈りを静謐に描く、ローファイな現代フォーク。 -
Songs of Experience / U2
政治と個人を繋ぐ21世紀のメッセージ・アルバム。
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