アルバムレビュー：My Time by Boz Scaggs

アルバムレビュー

2025.05.03

発売日: 1972年9月
ジャンル: ブルースロック、ソウル、フォークロック

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
ファンや評論家の反応
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概要

『My Time』は、ボズ・スキャッグスが1972年にリリースした4作目のスタジオアルバムであり、
彼の音楽性がより洗練され、次なる飛躍へ向かう過渡期を鮮やかに捉えた作品である。

本作では、マッスル・ショールズとサンフランシスコ、ふたつの土地で録音が行われた。
マッスル・ショールズでは、南部特有の土臭くソウルフルなサウンドを、
サンフランシスコでは、より都会的で洗練された感触を、それぞれ引き出している。

ボズ・スキャッグスはここで、ブルース、ソウル、カントリー、フォーク、ロックを自然体で横断しながら、
個々のジャンルに閉じ込められない、オーガニックな音楽世界を作り上げてみせた。

このアルバムは、翌1976年の大成功作『Silk Degrees』へと続く「新しいボズ・スキャッグス像」を感じさせる、重要な橋渡しの1枚なのである。

全曲レビュー

1. Dinah Flo

ファンキーなホーンと跳ねるビートが特徴のオープニングトラック。
愛する女性への賛歌が、陽気なエネルギーと共に弾ける。

2. Slowly in the West

カントリー色が濃い、フォーキーなミディアムナンバー。
西部への憧憬とノスタルジアが柔らかく滲む。

3. Full-Lock Power Slide

インストゥルメンタルに近いグルーヴィーなロックトラック。
軽妙なリズムチェンジと、ジャムセッションのような生き生きした空気が魅力である。

4. Old Time Lovin’

ソウルフルなラブソング。
スタックス系の影響を色濃く感じさせるリズムとホーンアレンジが心地よい。

5. Might Have to Cry

切なさを帯びたバラード。
恋の痛みと再生を静かに描いたリリックが、じんわりと胸に染みる。

6. Hello My Lover

ニューオーリンズ風味のファンキーな一曲。
ドクター・ジョンを彷彿とさせる湿ったグルーヴがたまらない。

7. Freedom for the Stallion

アラン・トゥーサン作のカバー。
人権と自由を求めるテーマを、スロウなリズムとともに丁寧に歌い上げる。
社会的メッセージを内包した、アルバム随一の深みを持つ楽曲。

8. He’s a Fool for You

爽やかなアメリカンポップス調のラブソング。
軽やかでありながら、メロディにはどこか陰影が漂う。

9. We’re Gonna Roll

アップテンポのゴスペルロック。
「共に進もう」という励ましのメッセージが、躍動感あふれる演奏に乗って届けられる。

10. My Time

タイトル曲は、人生の節目を穏やかに見つめ直すようなミディアムテンポのバラード。
「今こそ自分の時間を生きる」という意志が、静かだが確かな響きを持つ。

総評

『My Time』は、ボズ・スキャッグスが初期ブルース／ソウル志向から、よりパーソナルで洗練されたポップ感覚へと舵を切る、その過程を繊細に記録したアルバムである。

アルバム全体に共通しているのは、押しつけがましさのない、自然体の温かみだ。
それぞれの楽曲がジャンルをまたぎながらも、ボズの優しい声と誠実な歌心によって一貫したトーンを保っている。

特に「Freedom for the Stallion」や「My Time」には、当時の社会情勢――公民権運動の残響や、戦争と反戦の時代感覚――がさりげなく滲み出ており、単なるラブソング集には終わらない深みを感じさせる。

『My Time』は、派手なヒット曲を持たない地味な作品かもしれない。
だが、それだけに、一曲一曲を大切に味わううちに、じわじわと心に染み入ってくる。
ボズ・スキャッグスの「真の成長」を感じたいなら、決して見逃してはならない1枚である。

ファンや評論家の反応

『My Time』は、商業的には大きな成功を収めなかったものの、コアな音楽ファンや一部の評論家からは高く評価された。

特に、マッスル・ショールズのレコーディングセッションにおける生々しい演奏と、
ボズ自身の成熟したボーカル・パフォーマンスは、後の名作『Silk Degrees』に至る重要なステップとして再評価されている。

現代においても、ルーツ志向のリスナーたちから「知る人ぞ知る傑作」として静かな支持を集め続けているのだ。