You Will Never Work in Television Again by The Smile(2022)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「You Will Never Work in Television Again」は、The Smile(ザ・スマイル)が2022年に発表したデビュー・アルバム『A Light for Attracting Attention』に収録された楽曲であり、同年1月に先行シングルとしてリリースされた。The Smileは、Radioheadのトム・ヨークとジョニー・グリーンウッド、そしてジャズドラマーのトム・スキナーによるプロジェクトで、本曲はその始動を高らかに告げる鋭利なロックナンバーとなっている。

タイトルが示す「You Will Never Work in Television Again(君はもうテレビ業界で働けないだろう)」というフレーズは、単なる私怨ではなく、権力の濫用、偽善、そしてメディアの腐敗を断罪するような鋭い皮肉として響く。全体的に暴力的で怒りを含んだ語気で綴られており、明示的な主語や状況を欠きながらも、支配者と被支配者、搾取と抵抗という普遍的な構造を炙り出している。

リリックは断片的かつ象徴的であり、詩のような余白を持ちながら、どこか冷笑的なトーンで展開される。楽曲自体は2分半という短さながら、パンクロックのような衝動とアートロック的な構造美を兼ね備えた、非常に強度のある1曲である。

2. 歌詞のバックグラウンド

この楽曲が生まれた背景には、#MeToo運動以降のメディア界の不祥事、権力者による性的加害、そしてそれを黙認・助長してきた業界構造への怒りが込められていると考えられている。特にハリウッドやテレビ業界において、影響力のあるプロデューサーが長年にわたり俳優やスタッフを搾取してきた実態が暴かれたことは、世界中に衝撃を与えた。

トム・ヨーク自身がこの楽曲について詳細な解説を行っているわけではないが、歌詞の内容とタイミングを踏まえると、有害な権力構造と“加害者に対する社会的死刑宣告”としての言葉を音楽に込めたプロテスト・ソングと解釈されている。

また、The Smileのサウンドは、Radioheadよりもプリミティヴで直線的な衝動性を持っており、本曲においてはジョニー・グリーンウッドのギターが怒りのノイズを吐き出すようにうねり、トム・スキナーのドラムが焦燥と戦慄を刻み続ける。その音像とともに、詞がより鋭く、現実世界の構造に迫っている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

Beauty is only skin deep
美しさは皮一枚のものだ

この言葉は、外見で判断される業界の浅はかさや、“見た目”が価値を左右する搾取構造への批判を含んでいる。また、誰かを利用し、捨てていくような冷酷な視点も浮かび上がる。

You’ll be despised by your children
おまえは自分の子供たちにすら軽蔑されるだろう

これは非常に強烈な断罪であり、行為の結果が個人的な関係性をも破壊するという呪いのような予言である。社会的にも道徳的にも、その存在が拒絶される未来を暗示している。

You will never work in television again
おまえは二度とテレビ業界では働けないだろう

この一節が曲の核となるリフレインであり、**メディアや権威の立場にあった者に対する“追放宣言”**として響く。これまで権力の座にあった者を、最も象徴的な形で地に落とす言葉として機能している。

※引用元:Genius – You Will Never Work in Television Again

4. 歌詞の考察

「You Will Never Work in Television Again」は、明確な物語や人物像を示すことなく、抽象的な断罪の言葉を連ねていくことで、あらゆる“権力の腐敗者”を象徴的に描いている。語り手が誰なのか、対象が誰なのかを明かさないことで、聴き手はそれを自分の知る“加害の構造”に投影することができる。

「美しさ」「子どもたち」「テレビ業界」といったワードは、そのままイメージの階層性、搾取構造、そして社会的信頼の崩壊を表しており、それぞれが簡潔であるがゆえに強烈なパンチラインとして機能する。
とくに「You’ll be despised by your children(おまえは子供たちにすら軽蔑される)」というフレーズは、個人の罪が家族にまで及ぶという残酷な未来像であり、倫理と人間性の崩壊を象徴する。

また、「テレビ業界」という言葉が象徴するのは、単なる放送メディアではなく、虚飾、演出、権力、スターシステムといった“嘘を生産する装置”そのものであり、それを舞台とした“真実の剥奪”への抗議とも読める。

サウンドと詩が互いに剥き出しのままぶつかり合うことで、この曲は短時間ながら鮮烈な“怒りの爆発”として成立している。これは内省や比喩の美ではなく、痛烈な暴露と宣告の歌であり、パンクに通じる一撃性を持っている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Paperbag Writer by Radiohead
    メディアと自己の解体を、断片的で混沌としたサウンドで描いた反骨の楽曲。

  • The National Anthem by Radiohead
    体制批判と不安定な現代社会を轟音で描写したオルタナティブロックの異形。

  • Reptilia by The Strokes
    抑圧的な関係性をギターリフとボーカルで破壊的に解放する衝動のロック。

  • The New Pollution by Beck
    消費社会とメディアへの風刺を、ポップに仕立てた90s反逆のポップソング。

  • Do You Realize?? by The Flaming Lips
    世界の崩壊に気づきながら、なお美しさを肯定しようとするカウンター・ソング。

6. “告発の美学”――音楽が突きつける社会的死刑宣告

「You Will Never Work in Television Again」は、芸術的でありながら、異常なまでに政治的かつ倫理的な緊張感を湛えた楽曲である。そのメッセージは一貫しており、“おまえは二度と戻れない”という断罪と、記憶に刻まれる恥のレッテルを刻印する

The Smileは、この曲によって単なるバンドではなく、告発の手段としての音楽のあり方を現代に提示した。それは美辞麗句でも、慰めでもなく、告発と追放、怒りと暴露という強烈なエネルギーの塊である。

この歌を聴いて誰を思い浮かべるかは、聴き手自身の社会経験にゆだねられている。
そしてその想起こそが、この曲の“本当の主語”なのだ。

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