アルバムレビュー：You’re Dead! by Flying Lotus

発売日: 2014年10月6日
ジャンル: エクスペリメンタル・ヒップホップ、フュージョン、ジャズ・ファンク

『You’re Dead!』は、Flying Lotusが「死」と「来世」をテーマに大胆な音楽的冒険を繰り広げたアルバムであり、彼のキャリアにおいて最も野心的かつ革新的な作品である。ジャズ、ヒップホップ、エレクトロニカ、ファンクが複雑に絡み合い、特に祖父John Coltraneや伯母Alice Coltraneからのジャズの影響が色濃く反映されている。アルバムには、Kendrick Lamar、Thundercat、Snoop Doggといった多彩なゲストが参加し、リリックや即興演奏を通じて、死後の世界や精神的な旅路を描き出している。Flying Lotusの卓越したプロダクション技術が、リズムとメロディの境界を解体し、深く瞑想的でありながらもエネルギッシュなサウンドを提供する。

各曲ごとの解説:

1. Theme
   　短いインストゥルメンタルで幕を開ける「Theme」は、アルバム全体を象徴するスピリチュアルなテーマを示唆する。ジャズの即興性と流動的なビートが織り成す壮大なイントロで、リスナーを音楽の旅へと誘う。
2. Tesla
   　歪んだギターリフとグリッチ的なビートが主役の「Tesla」。エレクトリックなサウンドが、曲名にふさわしくエネルギッシュで衝撃的な展開を持ち、聴く者を圧倒する。
3. Cold Dead
   　「Cold Dead」は、フリージャズ的な要素が強く、カオスと秩序が交差するトラック。高速のドラムとブロークンビートが絡み合い、死後の混沌とした世界観を音で表現している。
4. Fkn Dead
   　さらに短い「Fkn Dead」は、攻撃的で荒々しいサウンドが特徴。リズムの不安定さが、死後の不確実性や突然の変化を象徴しているかのようだ。
5. Never Catch Me (feat. Kendrick Lamar)
   　アルバムのハイライトとなる「Never Catch Me」は、Kendrick Lamarがゲスト参加したトラックで、死と超越のテーマをリリックで描く。ジャズ・ファンクのビートとKendrickの鋭いフロウが見事に融合し、生と死の間を駆け抜けるような疾走感がある。
6. Dead Man’s Tetris (feat. Snoop Dogg & Captain Murphy)
   　「Dead Man’s Tetris」は、Snoop DoggとFlying Lotusの別名義であるCaptain Murphyが参加した曲で、グリッチホップの要素が強い。ゲームのテトリスのようにビートが次々と組み合わさり、死後の混沌とした世界が描かれている。
7. Turkey Dog Coma
   　複雑なジャズのリズムとフュージョン的な展開が特徴の「Turkey Dog Coma」は、Thundercatのベースプレイが際立つトラック。タイトルからも感じられるように、奇妙でダイナミックな音の変化が楽しめる。
8. Stirring
   　「Stirring」は、静かなインストゥルメンタルで、アルバムの中でもアンビエントな雰囲気が漂う。シンプルなサウンドスケープの中に、死後の静寂や深い瞑想が反映されている。
9. Coronus, the Terminator
   　「Coronus, the Terminator」は、ゴスペル的な要素を取り入れたスピリチュアルなトラックで、死の使者の物語を歌詞で描いている。ダークで不穏なサウンドが、死後の運命に向かう魂の旅を表現している。
10. Siren Song (feat. Angel Deradoorian)
    　Angel Deradoorianの美しいボーカルが響く「Siren Song」は、シンプルなビートとドリーミーなシンセサウンドが特徴。誘惑と危険のテーマが表現され、幻想的な雰囲気を醸し出している。
11. Turtles
    　「Turtles」は、よりミニマルでメディテーティブなトラック。ベースとドラムが中心となり、静かなリズムが死後の世界での時間の流れを表現しているようだ。
12. Ready err Not
    　「Ready err Not」は、キャッチーなメロディとビートが特徴のトラックで、死後の世界に対する準備や不安をテーマにしている。軽快さと不安感が絶妙に混ざり合っている。
13. Eyes Above
    　Kendrick Lamarがフィーチャリングなしで登場する予定だった「Eyes Above」は、激しいビートと不穏なサウンドが特徴。死後の混乱や不安を表現しつつ、リズムが目まぐるしく変化する。
14. Moment of Hesitation
    　Herbie Hancockがピアノで参加した「Moment of Hesitation」は、ジャズの即興性とフュージョン的な要素が融合した一曲。リズムセクションが次々に展開され、スピリチュアルな旅の瞬間を音で表現している。
15. Descent into Madness (feat. Thundercat)
    　Thundercatがボーカルとベースを担当する「Descent into Madness」は、幻想的なサウンドが広がるトラック。死後の狂気と絶望を表現しつつも、美しさと悲しさが共存している。
16. The Boys Who Died in Their Sleep
    　Captain Murphyが再び登場するこのトラックは、シュールなリリックとダークなビートが特徴。タイトル通り、死後の世界で起こる不思議な物語が描かれている。
17. Obligatory Cadence
    　「Obligatory Cadence」は、短くも印象的なインストゥルメンタル。緊張感のあるメロディが続き、静けさの中に深い感情が込められている。
18. Your Potential//The Beyond (feat. Niki Randa)
    　Niki Randaをフィーチャーしたこの曲は、死後の可能性と解放をテーマにしている。アンビエントなサウンドスケープの中に、ゆったりとしたボーカルが溶け込み、穏やかな未来を予感させる。
19. The Protest
    　アルバムの最後を締めくくる「The Protest」は、静かな反抗を表現したトラック。スピリチュアルなコーラスが、死後の世界での解放と新たな旅の始まりを示唆している。

アルバム総評:

『You’re Dead!』は、Flying Lotusが音楽の中で「死」という壮大なテーマを探求した大胆な作品である。ジャズ、ヒップホップ、エレクトロニカ、ファンクなど多様な要素が織り交ぜられ、ThundercatやKendrick Lamar、Herbie Hancockなど豪華なゲストの参加も、アルバムの深みを一層引き立てている。サウンド的には複雑かつ緻密でありながら、スピリチュアルなメッセージが強く感じられ、リスナーに深い思索を促す作品となっている。特に「Never Catch Me」や「Coronus, the Terminator」といった楽曲は、死後の世界と魂の旅を力強く表現しており、Flying Lotusのクリエイティビティの頂点を示している。

このアルバムが好きな人におすすめの5枚:

1. To Pimp a Butterfly by Kendrick Lamar
   Kendrick Lamarが『You’re Dead!』にも参加していることから、このジャズとヒップホップが融合した名作は必聴。社会的テーマとスピリチュアルな要素が共鳴している。
2. Black Focus by Yussef Kamaal
   ロンドンのジャズ・フュージョンシーンから登場したこのアルバムは、ジャズとビートミュージックを融合させた傑作。『You’re Dead!』のジャズ的アプローチに共通点がある。
3. The Epic by Kamasi Washington
   Kamasi Washingtonによる壮大なジャズアルバムで、スピリチュアルジャズの要素が色濃く反映されている。『You’re Dead!』のサウンドとテーマに深く共鳴する作品。
4. Drunk by Thundercat
   『You’re Dead!』でベースとボーカルを担当したThundercatによるソロアルバム。ファンクとジャズ、エレクトロニカが融合し、独自のスピリチュアルな音楽世界が展開されている。
5. Cosmogramma by Flying Lotus
   『You’re Dead!』の前作で、ジャズ、ヒップホップ、エレクトロニカの要素をさらに探求したアルバム。Flying Lotusのサウンドがさらに進化した背景を知るために必聴の作品。