
1. 歌詞の概要
「Starship Trooper」は、イギリスのプログレッシブ・ロック・バンドYesが1971年に発表したアルバム『The Yes Album』に収録された組曲形式の楽曲であり、バンドの芸術性と幻想性を象徴する重要作である。およそ9分半に及ぶ本曲は、「a. Life Seeker」「b. Disillusion」「c. Würm」という3つのパートに分かれ、それぞれが異なる構成や音楽的展開を見せながら、ひとつの壮大な物語として収束していく。
歌詞の内容は明確な物語というよりも、宇宙や生命、幻想、精神的変容といった抽象的なテーマを、詩的かつサイケデリックな語彙を用いて描写したものとなっている。「Starship Trooper(宇宙船兵士)」というタイトルはロバート・A・ハインラインのSF小説と同じだが、歌詞の内容は直接的な関連を持たず、むしろそれを連想させるイメージを借りて、精神世界や意識の旅を描くための象徴として使用されている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Starship Trooper」は、ジョン・アンダーソン、クリス・スクワイア、スティーヴ・ハウの3人がそれぞれ異なる楽曲の断片を持ち寄り、組み合わせて完成させた複合的な楽曲である。このような創作手法はYesの中でも特徴的であり、メンバーそれぞれの個性が際立ちながらも、最終的には統一された芸術作品として結実している点が評価されている。
スティーヴ・ハウによる「Würm」のパートでは、シンプルなコード進行の反復により徐々に盛り上がるインストゥルメンタル・セクションが展開され、コンサートでは長尺の即興演奏やギター・ソロの見せ場としても知られている。このセクションが聴き手に与える恍惚感とスケール感は、Yesのライブパフォーマンスの中でも圧倒的な高揚の瞬間として語り継がれている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics – Yes “Starship Trooper”
Speak to me of summer / Long winters longer than time can remember
夏について語ってくれ/記憶の及ばぬほど長い冬を越えてきた僕に
The setting up of other roads / To travel on in old accustomed ways
他の道が築かれる/慣れ親しんだ旅路に新しいルートが重なる
この「Life Seeker」のパートでは、時間と季節、過去と未来、習慣と変化といった対比が描かれている。冬という停滞の象徴を経て、新たな旅路が開かれるという構造は、精神的成長や自己変容のメタファーとも読み取れる。
Starship trooper, go sailing on by / Catch my soul, catch the very light
宇宙船兵士よ、航海を続けてくれ/僕の魂を、その光を捕まえて
All is a passing haze / Stand on the hill
すべては通り過ぎる霞のよう/丘に立ちすくんで見つめる
この幻想的な一節では、語り手の魂が宇宙的な存在に向かって託されるようなイメージが描かれている。「光を捕まえる」という表現は、真理の探求や精神的目覚めの象徴であり、宇宙的スケールの中での個の存在と感情の拡張を表現している。
4. 歌詞の考察
「Starship Trooper」の歌詞は、直線的な物語というよりも、イメージの連鎖によって構成された夢のような構造を持っている。これは、Yesの多くの楽曲に共通する詩的技法であり、聴き手に特定の意味を押し付けるのではなく、象徴と断片によって多層的な解釈を可能にしている。
「Speak to me of summer」という開幕のラインは、閉ざされた冬(停滞、忘却、抑圧)からの解放と、新しい季節(啓示、希望、再生)への渇望を暗示している。全体を通じて「旅」というモチーフが繰り返されており、それは物理的な移動というよりも、精神的な変容や宇宙的意識への移行を意味していると考えられる。
「Starship trooper」という言葉自体も、地球から切り離された意識の象徴、あるいは人間の魂が拡張された存在としてのメタファーであり、戦士というよりも観測者、あるいは真理の探求者としての役割を担っている。Yesが得意とするコズミックな視点が、ここではリリカルにも音楽的にも存分に発揮されており、まさに彼らの哲学的側面と芸術性が融合した楽曲である。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “And You and I” by Yes
同じく宇宙的でスピリチュアルな世界観を持つ、Yesの中でも屈指の叙情性を備えた名曲。 - “Awaken” by Yes
宗教的・哲学的テーマを大規模な楽曲構成で描いた、Yesの精神性が凝縮された作品。 - “In the Court of the Crimson King” by King Crimson
幻想的で荘厳なサウンドと象徴的な歌詞世界が、Yesの幻想的アプローチと共鳴する。 - “Supper’s Ready” by Genesis
組曲形式の展開、宗教的なイメージ、幻想的な物語性が、「Starship Trooper」の精神と呼応。
6. 組曲と宇宙と精神──Yes的芸術の完成形としての「Starship Trooper」
「Starship Trooper」は、Yesが音楽的にも詩的にも、複雑さと美しさ、理性と幻想を絶妙なバランスで融合させた代表的な楽曲である。スティーヴ・ハウの流麗なギター、リック・ウェイクマンの空間的キーボード、ジョン・アンダーソンの天上の声、クリス・スクワイアの重厚なベース、そしてビル・ブルーフォード(当時)の精密なドラムが、9分半という楽曲の中で見事に交錯する。
この曲が提示するのは、プログレッシブ・ロックにおける一つの理想形であり、聴き手の意識を“内なる宇宙”へと誘う旅である。その旅には明確な目的地がないかもしれない。しかし、Yesが常に目指していたのは、目的地ではなくそのプロセス──「移動し続けること」そのものだった。
「Starship Trooper」は、聴く者の意識を宇宙へ、そして自己の深層へと導く、“音楽による精神の航海記”である。
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