アルバムレビュー：Yeah by The Wannadies

発売日: 1999年10月4日（UK）、1999年11月（スウェーデン）
ジャンル: パワーポップ、インディーロック、ブリットポップ、オルタナティヴ・ロック

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
ファンや評論家の反応

概要

『Yeah』は、The Wannadiesが1999年に発表した5作目のスタジオ・アルバムであり、
バンドがスウェーデン発のギターポップから“ヨーロッパ型ロックスター”へと本格的にシフトした最終段階のアルバムでもある。

前作『Bagsy Me』（1997年）での感情全開のパワーポップ路線を受け継ぎつつ、
本作ではさらにスケール感のあるサウンドアプローチを取り入れ、よりワイドレンジなプロダクションと多様なアレンジを採用。
タイトルの “Yeah” はあまりにシンプルだが、それは逆説的に、愛、衝動、破壊、再生、そして肯定といったあらゆる感情をこの言葉に詰め込んだ、
バンド史上もっとも大胆で、もっともオープンなアルバムであることを示している。

全曲レビュー

1. Yeah

アルバムの幕開けを告げる、タイトル曲にして宣言的なパワーポップ・アンセム。
「Yeah」という叫びは、過去の痛みや不安を吹き飛ばすような感情の爆発であり、
音像はこれまで以上に広がりがあり、オープニングとして完璧な構成。

2. Big Fan

軽快なギターリフと跳ねるドラムが特徴の一曲。
「君の大ファンなんだ」と繰り返すリフレインには、盲目的な愛と憧れが交錯する。
恋愛というよりアイドル崇拝的な熱狂を皮肉も交えて描く。

3. String Song

ストリングスとギターが重層的に絡む、ドリーミーな音像のポップバラード。
タイトル通り、楽器的にも感情的にも“張り詰めた糸”のような緊張が全編を貫く。

4. Can’t See Me Now

スローテンポで始まり、徐々にダイナミックな展開へ。
「今の僕を君にはもう見えない」というセンテンスが繰り返されることで、失われた関係と再起の意思が交錯する。
エモーショナルなピークの一つ。

5. Don’t Make Me Wait

陽気なリズムと口笛風のメロディが印象的な、オルタナティヴ・サーフポップ的ナンバー。
急かすようなタイトルとは裏腹に、どこかリラックスした雰囲気もあり、アルバムの中間地点のブリーザー。

6. Skin

歪んだギターと囁くようなボーカルが印象的な、セクシャルかつ内省的な一曲。
「君の肌が恋しい」という直截的なフレーズが、生々しさと儚さを同時に提示する。

7. Low Enough

タイトルどおり、感情的に底を這うようなトーンのナンバー。
しかし演奏はあくまでクリアで整っており、沈みながらも前を見据える強さが印象に残る。

8. No Holiday

明るい曲調に反して、歌詞は精神的疲労と逃避願望を描いたビターソング。
「休暇なんてないよ」というフレーズが、90年代終盤のポップロック的厭世観を象徴する。

9. Idiot Boy

ひねくれたポップ感とスカスカのリズムアレンジが際立つ、風刺的なナンバー。
バンド内外の“愚かさ”を自嘲的に笑い飛ばすユーモアが込められている。

10. Ball

スポーツか愛か、あるいはそのどちらでもない“遊戯”を象徴するような、リズミカルで転がるようなロック。
リフレインが耳に残る、アルバム終盤のキラートラック。

11. Run

「逃げろ」という命令形が繰り返される、緊張感と疾走感のあるラスト前の加速曲。
恋愛から、現実から、または自分自身から逃げる衝動が、リフとボーカルに圧縮されている。

12. What’s on Your Mind

ラストトラックにふさわしい、穏やかでややビターなポップバラード。
タイトルの問いかけには明確な答えはない。余白を残して終わる静かなカーテンコール。

総評

『Yeah』は、The Wannadiesがポップバンドとしての成熟と限界を同時に見つめたラストスパート的アルバムである。
“ポップは感情の爆発である”という信条を、これまでになく洗練されたアレンジとバリエーション豊かな作曲で表現し、
その結果、「楽しいけれど、何か寂しい」「明るいけど心が痛い」——そんな感覚を音楽で体感できる作品となっている。

かつての“キラキラしたギターポップ”から、「音で何を語れるか」「ロックでどこまで感情を拡張できるか」へと進化した本作は、
The Wannadiesの到達点であり、限りなくリアルな終着点とも言える。