1. 歌詞の概要
Iron Maidenの「Wrathchild（ラースチャイルド）」は、1981年にリリースされたセカンドアルバム『Killers』に収録された楽曲であり、シングルとしても発表された。歌詞は「怒りに満ちた子供」というタイトルが示す通り、家庭に捨てられ、愛を知らずに育った主人公が、自分のアイデンティティや両親を探し求めながら怒りを燃やす姿を描いている。
「Wrathchild」は、単なる反抗や怒りの表現にとどまらず、社会や家族から見捨てられた人間の孤独や復讐心をテーマにしている。疾走感あるリフと攻撃的なボーカルは、この主人公の苛立ちや欲望をそのまま音楽に変換しており、初期アイアン・メイデンのダークでリアルな世界観を象徴している。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Wrathchild」はスティーヴ・ハリス（ベース）の作曲によるもので、バンド初期のライブからすでに演奏されていた楽曲である。デビューアルバム『Iron Maiden』（1980）には収録されなかったが、長らくファン人気が高く、セカンドアルバム『Killers』で公式にスタジオ録音版が発表された。
1981年当時、アイアン・メイデンは新しいボーカリスト、ポール・ディアノを擁して急速に知名度を上げていた。「Wrathchild」はそのハードエッジな声質とバンドの攻撃的なサウンドが見事に融合した曲であり、NWOBHM（ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル）ムーブメントを代表するアンセムとなった。
ライブにおいては、ポール・ディアノ時代のみならず、ブルース・ディッキンソンやブレイズ・ベイリーの時代にも演奏され続けており、バンドのセットリストに欠かせない定番曲として位置づけられている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
（歌詞引用元：Iron Maiden – Wrathchild Lyrics | Genius）
I was born into a scene of anguish and uncertainty
俺は苦悩と不安の只中に生まれた
For my mother’s love I’ll never know
母の愛を俺は決して知ることはない
I was left to wander, searching endlessly
俺は彷徨い、果てしなく探し続ける
For my wrathchild, the one I’ll never know
俺が決して知ることのない、自分の正体を探し求めて
歌詞は、生まれながらにして居場所を失い、親の存在を知らずに育った主人公の孤独を描く。その「怒りの子」は復讐と自己確認のために世界を彷徨う存在であり、反逆の象徴でもある。
4. 歌詞の考察
「Wrathchild」は、Iron Maidenが初期から持っていた社会的リアリズムと暗い叙事性を示す楽曲である。家族に捨てられた主人公の孤独や怒りは、単なるフィクションというよりも、当時のイギリス社会が抱えていた階級格差や若者の疎外感を反映していると考えられる。70年代末から80年代初頭の不況下において、若者が家庭や社会から切り離される感覚はリアルな問題であり、それが「怒りの子＝Wrathchild」というキャラクターに凝縮されているのだ。
また、この曲の主人公は「自分が誰であるか」を必死に探し求める存在でもある。怒りに突き動かされながらも、その根底にはアイデンティティへの渇望がある。これはIron Maidenが後の楽曲でも繰り返し扱う「人間存在の探求」というテーマの萌芽でもある。
音楽的には、スティーヴ・ハリスのベースリフが中心に据えられ、そこにギターリフとディアノのヴォーカルが絡む構造が特徴的である。荒々しさとキャッチーさを併せ持ち、ライブでの爆発力を最大限に引き出す曲に仕上がっている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Prowler by Iron Maiden
デビュー作収録の攻撃的なナンバーで、街のアウトサイダーを描く。 - Sanctuary by Iron Maiden
同じく初期の代表曲で、反逆と自由をテーマにしている。 - Killers by Iron Maiden
アルバムのタイトル曲で、犯罪者の狂気を描いた攻撃的ナンバー。 - Breaking the Law by Judas Priest
同時代に「アウトサイダーの怒り」を歌った代表的メタルソング。 - Overkill by Motörhead
NWOBHMと地続きのエネルギーを持つ疾走感のある名曲。
6. 怒れるアウトサイダーのアンセム
「Wrathchild」は、Iron Maidenが提示した「怒れる若者」の物語であり、初期の荒々しいサウンドと社会的メッセージが結びついた代表曲である。愛を知らず、居場所を持たずに彷徨う存在が叫ぶ怒りは、1980年代初頭の若者の現実を映し出しており、その切実さが楽曲の力強さを生んでいる。
この曲は今日に至るまでライブで演奏され続け、バンドの歴史を貫く定番曲であり続けている。Iron Maidenの原点的エネルギーを知るためには欠かせない一曲であり、彼らがいかに早い段階から“音楽を通じて怒れる声を代弁する存在”であったかを示す作品なのだ。
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