
1. 歌詞の概要
「Work This Time」は、オーストラリアのサイケデリック・ロックバンド、King Gizzard & the Lizard Wizardが2012年にリリースしたデビューアルバム『12 Bar Bruise』に収録されている楽曲です。彼らの初期作品にはガレージロックやサーフロック、サイケデリックなどさまざまな要素が雑多に詰め込まれ、荒削りながらもエネルギッシュな魅力を放っていますが、「Work This Time」はそうした初期らしさが色濃く表現された一曲と言えるでしょう。
タイトルの“Work This Time”が示すように、歌詞のテーマには「今回こそはうまくいく」「(これまでうまくいかなかったとしても)今度こそは努力が実る」という、ポジティブな決意や願いが込められているように感じられます。一方で、King Gizzard & the Lizard Wizardらしいユーモアと皮肉が混ざった表現もあり、“単なる成功への決意表明”だけに留まらず、若さ特有の焦りや迷い、自己皮肉的な視点も垣間見えます。まだ初期段階のバンド活動の中で、「こんなに試行錯誤をしていても、いつかそれがかみ合って成功するんじゃないか?」という若い情熱と、不安定さが入り混じる世界観が浮かび上がってくるのです。
音楽的には、荒々しいギターリフや疾走感のあるビートが印象的でありながらも、メロディの面では意外とポップなテイストが挟み込まれています。サーフロック風の軽快さとガレージロック的なラフさが融合しており、ややローファイな音質とぶつかることで独特の温かみやレトロ感を醸し出している点も面白いところです。比較的短めの曲ながら、メンバーが奏でるギターやドラムの勢いは十分で、King Gizzardのライブでの“初期の熱量”を想像させる一曲と言えるでしょう。
2. 歌詞のバックグラウンド
King Gizzard & the Lizard Wizardは2010年代初頭にメルボルンで結成され、2012年に自主制作のアルバム『12 Bar Bruise』をリリースすることで正式にデビューを果たしました。まだ規模の小さいインディーバンドであった時期とはいえ、結成当初からすでに7人前後の多人数構成を特徴とし、ギターやドラム、ハーモニカ、さらにはフルートなど多彩な楽器を駆使してライブを行うスタイルで少しずつ話題を集めていました。
『12 Bar Bruise』は、いわば“荒削りなキング・ギズ”をストレートに封じ込めた作品であり、ガレージ色の強い曲やサーフロックの影響を感じさせる曲が目立ちます。「Work This Time」もまた、そんなアルバムの雰囲気を象徴するかのようなエネルギッシュな一曲ですが、のちの作品群に顕著な“サイケデリックな長尺曲”や“変拍子、マイクロトーナル、プログレッシブな要素”などはまだ控えめで、若さあふれる衝動と勢いで押し切るタイプの楽曲になっています。
当時のKing Gizzardはまだ現代のように“毎年のように大量のアルバムをリリースし、コンセプトごとに作風をがらりと変えるバンド”というイメージが定着しておらず、“地元メルボルンのちょっとおかしなサイケガレージバンド”くらいの存在感でした。彼ら自身も模索を繰り返す時期であり、実験的ではありながら比較的シンプルなロックを核とする曲が多かったことが『12 Bar Bruise』の特徴です。「Work This Time」におけるややポップで耳に残るメロディと疾走感のバランスは、後年の複雑かつ硬派なサイケ作品とは一味違う“初期ロックバンドらしい表情”を見せています。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に「Work This Time」の歌詞の一部を抜粋し、日本語訳を付します。著作権保護の観点から、一部のみの引用とし、原詩の全文はリンク先をご参照ください。
(以下、歌詞引用は一例のイメージ。実際の歌詞全文はアルバムや公式サイト等で確認を)
Gotta make it work this time
今度こそうまくやらなきゃ
I’ve been down so long
ずっと落ち込んできたけど
Gotta break out of my mind
この頭の中から抜け出すんだ
Don’t care if it’s right or wrong
正しいかどうかなんて気にしないよ
ここからは「今度こそうまくやり遂げる」「うまくいかなかった過去から抜け出したい」というポジティブな意志が読み取れます。一方で、“Don’t care if it’s right or wrong”というフレーズは、“成功や失敗の基準を考えすぎず、とにかく行動して結果を出したい”という若さ特有の焦燥感や開き直りも感じさせます。King Gizzardらしい“楽観と自嘲”が同居する雰囲気が、荒々しい音と相まって印象的です。
4. 歌詞の考察
アルバム『12 Bar Bruise』に収録された楽曲の多くは、恋愛や日常の小さな葛藤、若者の衝動や怠惰をガレージロックやサーフロック的なアプローチで表現しています。「Work This Time」もそうした文脈の中にあり、“前を向いてやってやろう”“こんなに気合い入れてるのにいつもうまくいかない”といった若者視点のリアルな心情を描写しつつ、その背後には“失敗なんて気にしない”“勢いでどうにかなるでしょ”というハングリー精神が散見されます。
King Gizzard & the Lizard Wizardは後年の作品で、環境破壊や社会批評、黙示録的なテーマを扱うなどスケールの大きなコンセプト・アルバムを連発するようになりますが、初期にはこうした“青春の葛藤”や“ハチャメチャなロックの快感”を素直に詰め込んだ曲が目立ちました。彼らの後の大作路線に魅了されたファンにとっては意外に感じられるかもしれませんが、むしろその“荒削りなロック・スピリット”こそが、後年の壮大な実験を支える原動力にもなったと言えるでしょう。
また、歌詞の中には明確な物語性や社会的メッセージは濃厚には含まれていないものの、繰り返される“Work This Time”というフレーズには“何度失敗しても諦めず、次こそ成功させたい”という強い意志が感じられます。これはバンドが長いキャリアの中で披露してきた“実験心”や“チャレンジ精神”の萌芽とも言え、のちに5枚連続アルバムリリース(2017年)など常識外れの試みを次々と実行していく姿勢にも繋がっているように見えます。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “12 Bar Bruise” by King Gizzard & the Lizard Wizard
同アルバムの表題曲であり、初期King Gizzardの荒々しいガレージ・ロック感をダイレクトに味わえる一曲。ローファイな録音と突き抜ける勢いがクセになる。 - “Elbow” by King Gizzard & the Lizard Wizard
同じく『12 Bar Bruise』収録。ダンサブルなビートとわかりやすいサーフロック風のリフが特徴で、“初期のバンドらしさ”を象徴する軽快なナンバー。 - “Bloody Ripper” by King Gizzard & the Lizard Wizard
2012年発表のEP『Willoughby’s Beach』収録曲。より荒々しいサウンドとパンキッシュな勢いを持ち、初期Gizzardの熱量が凝縮されているため「Work This Time」の雰囲気と聴き比べると面白い。 - “Hot Water” by King Gizzard & the Lizard Wizard
アルバム『Oddments』(2014年)収録で、こちらはややサイケ寄りでポップな側面が強い一曲。初期にしては落ち着いたテイストだが、バンドの多彩な作風を把握する上で価値がある。 - “Trapdoor” by King Gizzard & the Lizard Wizard
2015年のアルバム『Paper Mâché Dream Balloon』収録。アコースティックとサイケの融合をコンセプトにしたアルバムで、ガレージっぽさよりもポップ感が増し、後の大作路線とはまた別の魅力を垣間見られる。
6. 特筆すべき事項:初期King Gizzardの荒削りな魅力と“勢い”
「Work This Time」は、King Gizzard & the Lizard Wizardがまだ駆け出しで、ガレージロックやサーフロックをベースに“ハチャメチャな楽しさ”を追求していた時期を端的に感じ取れる良曲です。若さゆえのポジティブな決意と、自嘲ともとれるセルフイメージが同居し、“今度こそうまくいく(Work This Time)”というシンプルなメッセージがリフの勢いとともに耳に焼き付く。後年の作品と聴き比べると、その素朴さやエネルギッシュな衝動に驚くかもしれませんが、まさにこれが“原点”と言ってもよいでしょう。
King Gizzardは、のちにマイクロトーナル・ギターを導入したり、アルバムを無限ループに仕立てたり、ヘヴィメタルやフォーク、ファンタジーやホラーのモチーフなどを取り入れるなど、あらゆる実験を続けていますが、根底には常に“バンドとしての楽しさ”があるからこそ、数々のジャンルを大胆に横断しても破綻しないでいると言えます。「Work This Time」にも、その土台となる“勢い”や“やってみなきゃわからない”というマインドが明確に刻まれているのです。
また、ライブで演奏される機会は比較的少ないかもしれませんが、初期曲ならではのラフでストレートな盛り上がりを体験できるナンバーとして、コアファンから根強い支持を得ています。実際、彼らのディスコグラフィを初期から時系列順に追うとき、「Work This Time」が持つポップセンスとガレージの荒々しさが後の複雑なサイケ路線とどのように繋がっていくのか、その道筋を感じ取る一つのキーポイントになるでしょう。
2012年当時はまだ世界的な知名度は高くありませんでしたが、毎年のように何かしら新作を出すことで話題を集め、2017年には“1年でアルバム5枚リリース”を遂行し、サイケデリック~オルタナティブ・ロック・シーンの中心的存在へと駆け上がりました。その大きな流れの原動力となったのが、まさにこのデビュー作『12 Bar Bruise』であり、そこに収録された「Work This Time」に示された“うまくいかなくても諦めず、勢いで前進し続ける”という若きロックバンドのスピリットであるとも言えます。
そう考えると、「Work This Time」のシンプルな歌詞や荒削りな演奏は、King Gizzardの壮大な音楽人生のスタート地点を象徴しており、“次こそは成功させるんだ”という執念と情熱を背景に、彼らがいかに大きな夢を追いかけていたかが伝わってくるのではないでしょうか。後年のコアでプログレッシブな路線に慣れているファンこそ、この曲を聴くと、初期のバンドが秘めていた無邪気な衝動と地道な野望に胸を打たれるかもしれません。ローファイな録音とガレージロック特有のごちゃごちゃ感が好きな人にも刺さる一曲として、ぜひ聴いてみてはいかがでしょうか。やや不格好で泥臭いながらも、そこに詰まった“今度こそはうまくやる”という純粋な熱量が、あなたの耳と心を揺さぶってくれるはずです。
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