アルバムレビュー：Wind of Change by Peter Frampton

発売日: 1972年5月
ジャンル: ロック、ハードロック、ブルースロック

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム（5枚）
- 関連記事:

概要

『Wind of Change』は、英国出身のギタリスト／シンガーソングライター、ピーター・フランプトンが1972年に発表した記念すべきソロ・デビュー・アルバムである。
元々はThe Herd、そしてハンブル・パイのメンバーとして活動していたフランプトンだが、本作ではロックのダイナミズムに加え、繊細でリリカルなメロディセンスを前面に押し出し、“ギター・ヒーロー”にとどまらない表現者としての資質を提示している。

本作には、リンゴ・スター（ドラム）、ビリー・プレストン（キーボード）、クラウス・フォアマン（ベース）ら、当時の一流ミュージシャンが参加しており、ソロ・デビューにしてすでに豊かな人脈と信頼を得ていたことがうかがえる。
全体としては、ハードロックの重厚さよりも、メロディアスなバラードやフォーク・ロック的な柔らかさが支配的であり、のちのフランプトンの代表作『Frampton Comes Alive!』へとつながる“親しみやすくも緻密な音世界”が芽吹いている。

全曲レビュー

1. Fig Tree Bay

アコースティック・ギターを軸にした爽やかなオープニング。
キプロスの湾を舞台にしたこの曲は、フランプトンの旅情的な作曲センスと、柔らかなヴォーカルが心地よい。
穏やかな海風を感じるようなサウンドで、リスナーをアルバムの世界へと導く。

2. Wind of Change

タイトル曲にして、本作の精神的な中核。
“変化の風”というテーマが、抑えたピアノと情熱的なギターソロによって表現される。
過去から未来への推進力を感じさせる、壮大で詩的な楽曲。

3. Lady Lieright

ややグラマラスなロックンロール調で、初期のグラムロック的要素もほのかに感じられるナンバー。
女性への魅惑と苦悩が交錯するリリックが印象的で、リズミカルなギターが曲全体を引っ張る。

4. Jumpin’ Jack Flash

ローリング・ストーンズの名曲を、よりファンキーでブルージーなアプローチで再解釈。
ギターの切れ味とヴォーカルのソウルフルな質感が、オリジナルとは異なるエネルギーを放つ。
ライブでの盛り上がりを想起させるような活気に満ちたカバー。

5. It’s a Plain Shame

ファズギターがうなるヘヴィなロック・チューン。
“それは単なる恥だ”というシンプルなフレーズを繰り返すことで、痛烈な皮肉と怒りを表現。
フランプトンのギタリストとしての鋭さが際立つ1曲。

6. Oh for Another Day

バラード調の美しいフォーク・ロック。
“もう一日だけでも…”という祈りのような歌詞に、繊細なギターとストリングスが寄り添う。
アルバム中、最も感傷的でエモーショナルな楽曲のひとつ。

7. All I Wanna Be (Is By Your Side)

フランプトンの代表的なラヴソングで、のちにライヴ・アルバムでも再演される重要曲。
“ただ君のそばにいたい”という誠実な気持ちが、シンプルな構成と温かなメロディに込められている。
アコースティックとエレクトリックのバランスも絶妙。

8. The Lodger

ややサイケデリックなムードを持つミステリアスなトラック。
下宿人（lodger）という存在をモチーフに、人間関係の微妙な距離感を描く。
トーキング・ボックスの使用が、後のサウンド志向の萌芽を感じさせる。

9. Hard

重厚なドラムとうねるベースラインによって始まる、ブルース寄りのナンバー。
“生きることの困難さ”をテーマにした直球なロックで、ヴォーカルにも熱量が宿っている。

10. Alright

軽快で前向きなロックンロール。
“すべて大丈夫だ”という繰り返しが、アルバムのラストにふさわしい希望をもたらす。
ギターの明るいトーンと、伸びやかなコーラスが印象的なクロージング・トラック。

総評

『Wind of Change』は、ピーター・フランプトンがギタリストとしてだけでなく、ソングライター、アレンジャー、そして“アルバム・アーティスト”としての資質を証明した作品である。
ハンブル・パイ時代の重厚なロックから一歩離れ、よりパーソナルで繊細な視点から綴られた本作は、ソロアーティストとしての可能性を豊かに示している。

ロックンロール、バラード、フォーク、ブルース、サイケといった様々な要素を取り込みながらも、全体は温かく、誠実で、感情豊かに統一されている。
フランプトンの“変化の風”は、このアルバムから確かに吹き始めていた――そう感じさせる、静かなる名盤である。