Wide Open Road by The Triffids（1986）楽曲解説

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. 果てしない道、それでも歩くしかないという歌
- 関連記事:

1. 歌詞の概要

「Wide Open Road」は、オーストラリア出身のバンド、ザ・トリフィッズ（The Triffids）が1986年に発表したアルバム『Born Sandy Devotional』に収録された、彼らの代表曲にして永遠の名曲である。そのタイトルが象徴するように、この楽曲は“果てしない道”をモチーフに、別れと旅立ち、自由と喪失を詩的に描き出している。

歌詞は、語り手が誰か――おそらく恋人や家族といった親しい存在――のもとを離れ、ひとりで「広大な道」へと旅立っていく場面から始まる。その「道」は単なる地理的な移動ではなく、精神的な距離、感情の断絶、人生の転機を象徴している。道は開けている。しかし、そこにあるのは解放だけではなく、孤独や不安、そして痛切な後悔である。

この楽曲の持つ詩的なイメージと空間性は、オーストラリアという大地そのものの感触を伝えてくる。乾いた風、沈む夕日、孤独な夜――それらがすべて、シンプルなメロディとドラマチックな構成の中に凝縮されている。

2. 歌詞のバックグラウンド

ザ・トリフィッズは、1980年代に活動したオーストラリアのインディー・ロック・バンドであり、そのリーダーであるデイヴィッド・マッカンビ（David McComb）は、詩人のような歌詞と広大な風景を感じさせるサウンドで知られていた。彼の歌詞には、オーストラリアの乾いた風景と孤独な魂が常に漂っており、「Wide Open Road」はその集大成とも言える作品である。

この曲が書かれたのは、マッカンビが実際に恋人との別れを経験した後であり、その感情が生々しく刻まれているとされる。彼はしばしば、「オーストラリアの広大さは、孤独と無限の自己探求を呼び起こす」と語っており、この曲でもその視点が色濃く反映されている。

また、レコーディングはイギリスで行われ、ヨーロッパのリスナーに向けて“オーストラリアの感覚”を届けようとしたとも言われている。そのため、音の構成やリバーブの使い方にも、どこか距離感を感じさせる工夫がなされており、実際に「道の向こうに消えていく」ような感覚を与える仕上がりになっている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下は「Wide Open Road」の印象的な一節である。引用元：Genius

Well the drums rolled off in my forehead
And the guns went off in my chest
太鼓のような音が僕の頭の中で響き
銃声のような痛みが胸の奥で炸裂した

Remember carrying the baby just for you
Crying in the wilderness
君のためにあの赤ん坊を抱いていたことを思い出す
荒野の中で泣いていたあの頃を

そしてリフレイン：

There’s a wide open road
There’s a wide open road
広い道がある
果てしない道が

この「wide open road」は、旅立ちと同時に「帰れないこと」を象徴するモチーフでもある。開けた道は自由だが、その先に待つものは誰にもわからない。

4. 歌詞の考察

この曲における「道」は、物理的な空間であると同時に、感情的・心理的な象徴である。語り手は、「逃げるようにして出ていった」自分を正当化するために、その道を神聖化しようとする一方で、「戻れない」「手遅れだ」とも感じている。

デイヴィッド・マッカンビの歌詞には、しばしば“距離”というテーマが登場する。それは愛する人との距離であり、過去との距離であり、自己と自己の間にある乖離でもある。「Wide Open Road」は、そのすべての距離を一つのイメージに集約させたような作品である。

さらに、この楽曲のすごさは「説明しすぎない」ことにある。多くは語られず、むしろ空白が支配している。乾いた空、見渡す限りの大地、言いそびれた言葉――それらを想像する余白が、聴き手に深い感情の共鳴を促す。とくに「君のために子どもを抱えていた」という一節は、ただの恋愛の歌ではなく、人生の責任や選択の重さを匂わせる非常に強いイメージである。