アルバムレビュー：Why You So Crazy by The Dandy Warhols

発売日: 2019年1月25日
ジャンル: サイケデリック・ポップ、アート・ロック、シンセ・ポップ、エクスペリメンタル・ロック

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
ビジュアルとアートワーク
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概要

『Why You So Crazy』は、The Dandy Warholsがバンド結成25周年を迎えた2019年にリリースした10作目のスタジオ・アルバムであり、その節目を祝福するかのような“自由奔放で奇妙な音のコラージュ”である。

前作『Distortland』で見せた静謐なローファイ志向とは一線を画し、本作ではシンセ・ポップ、カントリー、ミュージックホール、サイケデリア、ゴシック調ピアノ曲など、あらゆるスタイルが錯綜する。
その奔放さは時に支離滅裂にも思えるが、裏にはバンドが長年培ってきた諧謔と退廃、そして“何者でもあろうとしない美学”が貫かれている。

また、アナログとデジタル、過去と未来、抑圧とユーモアといった対極的要素が無秩序に混ざり合う本作は、混迷する現代における“音楽的なシュルレアリスム”とも言えるかもしれない。

批評家からは賛否が分かれたが、それ自体がThe Dandy Warholsというバンドの本質であり、“狂気に向き合うことで正気を確かめる”ような実験的作品として注目されるべきアルバムである。

全曲レビュー

1. Fred n Ginger

ウィーン風ワルツにのせて、“フレッドとジンジャー”という古きダンス・デュオにオマージュを捧げた不思議なオープニング。
ピアノとストリングスがロマンティックに響きつつも、どこか不気味な空気が漂う。

2. Terraform

ザラついたギターとループビートが絡む、宇宙的サイケ・ロック。
“惑星改造＝自分自身の再形成”というテーマが、内的旅として描かれる。

3. Highlife

シンセと歪んだボーカルが交差するエレクトロ・ナンバー。
高揚と幻覚、享楽と無感動が同時に漂う、モダン・サイケのカオス。

4. Be Alright

ポップなメロディに対して、不安定なコード進行と淡々とした歌唱。
“うまくいくよ”という言葉の裏にあるアイロニーが切ない。

5. Thee Elegant Bum

フォークロックと語り口調が融合した、アメリカーナ的トラック。
“上品な浮浪者”という皮肉な自己像が描かれている。

6. Sins Are Forgiven

重厚なピアノとミニマルな展開。
“罪は赦された”という宗教的フレーズに、諦念と審美性をまとわせた異色バラード。

7. Next Thing I Know

60年代のサイケ・ポップに接近したような陽気な曲。
だが歌詞は記憶喪失や自己喪失をテーマにしており、どこか不穏。

8. Small Town Girls

カントリー風ギターとユーモラスなボーカル。
“田舎の娘たち”を揶揄するようでいて、温かみも感じさせる。

9. To The Church

ザラついたリズムと内省的なメロディが絡む、神秘的なトラック。
“教会へ行く”という行為を、儀礼と逃避の中間に置くような解釈が光る。

10. Motor City Steel

デトロイトの自動車産業にオマージュを捧げたようなタイトル。
メカニカルなリズムと、ブルージーなギターが対照的に響く。

11. Forever

幻想的なエレクトロ・サウンドと、ゆらめくボーカル。
“永遠”という主題に対して、時間感覚の溶解を描くような仕上がり。

12. Ondine

ドビュッシーを思わせるようなピアノ曲。
歌詞のない純音楽的アプローチで、アルバムの余韻を幻想的に締めくくる。

総評

『Why You So Crazy』は、The Dandy Warholsが結成25周年という節目にあたって世に放った、“狂気と創造のアーカイブ”とも言うべき万華鏡的作品である。

ジャンル、構成、テーマ、テンション――あらゆる要素が断続的に、そして不規則に出現し、明確な物語を拒絶することで、むしろ世界の断片を写し出す。

その意味で本作は、“完成されたアルバム”というよりも、崩れかけた彫刻のように立ち尽くす“音のインスタレーション”であるとも言える。

アルバムとしての整合性を求めるリスナーには戸惑いを与えるだろうが、“音楽とは何か”という問いに対して“問いのままで存在していい”と答える作品として、深い価値を持っている。

ビジュアルとアートワーク

ジャケットは、デカダンスとグラマラスな70s美学が融合した奇抜な肖像写真で構成されており、まさに“Why You So Crazy”という問いにビジュアルで答えるかのような挑発性を持っている。

このアートワークは、美と狂気、自己像と仮面、祝祭と空虚が同居する“21世紀のカバーモダン”としても高く評価されており、音楽的内容と完全に呼応した視覚世界を提示している。