1. 歌詞の概要
「Who’ll Stop the Rain」は、雨をモチーフにした非常に象徴的な楽曲である。
この「雨」は、単なる自然現象としての雨ではなく、時代の混乱や精神的な苦悩を表すメタファーとして用いられている。語り手は過去から現在へと視線を移し、歴史のなかで繰り返されてきた「雨=重圧や混乱」がいまだに止むことなく降り続いていると語る。
歌詞は三部構成のような形を取っており、第一節では過去の知識人たちの探求、第二節では現代の民衆の行動、そして第三節では主人公自身の体験へと移っていく。それぞれの場面で、雨が象徴するものが少しずつ異なりながらも、根底には「終わらない何か」に対する問いかけが一貫している。
「誰がこの雨を止めてくれるのか?」というリフレインは、問いであると同時に、祈りにも近い響きを帯びており、個人の小さな声から大きな時代の悲鳴までをも内包するスケールの大きな作品となっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
この曲は1970年、CCRのアルバム『Cosmo’s Factory』に収録され、シングル「Travelin’ Band」との両A面としてリリースされた。
ジョン・フォガティはこの曲について、公的には明確な政治的意図を語っていないが、多くのリスナーや評論家はこれをベトナム戦争やウッドストック以後の理想の崩壊と結びつけて解釈している。特に1969年のウッドストック・フェスティバルでは、実際に雨が降りしきるなかで演奏が続行されるという象徴的な出来事があり、その体験がこの曲に影響を与えたとも言われている。
フォガティはまた、当時のアメリカ社会における「政府の嘘」や「メディア操作」、そして「平和の名のもとに行われる暴力」に対して強い疑念を抱いており、そうした思いが抽象的ながらも明確に込められているのがこの「Who’ll Stop the Rain」なのである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下にこの楽曲の印象的な歌詞の一部と和訳を掲載する。
引用元:Lyrics © BMG Rights Management
Long as I remember, the rain’s been comin’ down
― 思い返せばいつだって、雨は降り続いていた
Clouds of mystery pourin’ confusion on the ground
― 謎めいた雲が、大地に混乱を注いでいる
Good men through the ages tryin’ to find the sun
― 昔からの善き人々が、太陽を探し続けてきた
And I wonder, still I wonder, who’ll stop the rain
― そして今も思う、ずっと考えている、この雨を誰が止めてくれるのか
Heard the singers playin’, how we cheered for more
― 歌い手たちの演奏を聴き、僕らはもっとと歓声を上げた
The crowd had rushed together, tryin’ to keep warm
― 群衆は身を寄せ合い、寒さをしのごうとしていた
Still the rain kept pourin’, fallin’ on my ears
― それでも雨は降り続き、僕の耳を濡らしていた
And I wonder, still I wonder, who’ll stop the rain
― そして僕はまた思う、この雨を止められるのは誰なのか
4. 歌詞の考察
「Who’ll Stop the Rain」は、CCRの中でも最も深く、かつ普遍的なメッセージを持つ楽曲の一つである。
まず注目すべきは、その構造のシンプルさである。3つの詩、それぞれに異なる視点を提示しながらも、すべてが「雨」に収束していく。雨とは自然の摂理のようでもあり、政治的・社会的な混乱の象徴でもある。そこに、聴く人それぞれの“雨”を投影する余白があるのだ。
第一節では哲学的な視点から人類の歴史を捉えており、「善き人々が太陽を探してきた」という表現に、無数の努力と希望が重ねられている。しかし雨は止まない。第二節では、群衆が音楽に熱狂する姿が描かれるが、それも束の間、冷たい雨が現実に引き戻す。第三節で語り手自身の視点に戻ることで、抽象と現実が交錯し、「誰も止められない」という無力感とともに、「それでも問い続ける」という希望の気配もにじんでくる。
「誰が止めるのか?」という問いは、神への問いでもあり、国家への問いでもあり、自分自身への問いでもある。そしてそれは今を生きる我々にもなお、通じるものなのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Blowin’ in the Wind by Bob Dylan
CCRが提示する問いの原点ともいえるフォークソング。時代を超えて問い続ける精神性が共通している。 - A Hard Rain’s A-Gonna Fall by Bob Dylan
“雨”をモチーフにした象徴的な楽曲で、社会の不条理と人間の良心が交差する。 - Fortunate Son by Creedence Clearwater Revival
同じくCCRによる政治的メッセージソング。特権と不公平を鋭く突いた作品で、「Who’ll Stop the Rain」と対を成す。 - Ohio by Crosby, Stills, Nash & Young
学生射殺事件を題材にした衝撃的な反戦歌。雨のように降る銃声の中で、時代の狂気を訴える。
6. 雨の中で鳴り響く、静かな抗議の歌
「Who’ll Stop the Rain」は、CCRの中でも特に静かな曲調を持ちながら、そのメッセージ性は驚くほど力強い。激しいシャウトも、ヘヴィなギターリフもない。だが、そこには「言葉」と「旋律」だけで届く深さがある。
1970年代初頭、アメリカは激動の時代を迎えていた。戦争、抗議運動、信頼の崩壊。そんな中でこの曲は、声高に叫ぶのではなく、むしろ“耳元でささやく”ように、私たちに問いかける。
その静けさこそが、最大の怒りであり、祈りでもあるのだ。
CCRが提示したこの問いに、私たちは今もなお、明確な答えを持ち得ない。だからこそ「Who’ll Stop the Rain」は、時代を超えて聴き継がれる“問いの歌”として、心に残り続けるのである。
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