発売日: 2021年9月10日
ジャンル: ダンス・ポップ、ユーロポップ、エレクトロ・ポップ
概要
『What the Future Holds Pt. 2』は、2020年の前作の世界観を拡張する続編であり、
Stepsの“第二の黄金期”を決定づけたアルバムである。
前作『What the Future Holds』は、Siaの提供楽曲を含む力強いカムバック作だったが、
本作ではその流れを受けてさらに感情表現とサウンドの多様性が深化している。
「パート2」と銘打たれてはいるが、単なるB面集ではない。
全15曲にわたって「未来」に立ち向かう姿勢をアップデートし、
ポップ・ミュージックにおける継続と革新を同時に示す一枚となっている。
また、2000年代以降のダンス・ポップ文脈に加えて、
80年代回帰的なサウンド、バラードの情感など、
“今だからこそ成立するSteps像”が提示されている点にも注目である。
全曲レビュー
Take Me for a Ride
陰影のあるエレクトロ・サウンドに乗せて、“操られる恋愛”を冷静かつ挑戦的に描いた楽曲。
従来のStepsにはなかったシリアスなムードが新鮮で、冒頭から緊張感を与える。
Heartbreak in This City (feat. Michelle Visage)
前作の楽曲にRuPaul’s Drag Raceで人気のMichelle Visageが参加。
LGBTQ+カルチャーへの敬意も込められた、彩り豊かなシティ・ポップ。
クラブ映えする構成と感情の高まりが同居している。
Wasted Tears
アップビートなダンス・トラックながら、“無駄に流した涙”という後悔の感情が込められた歌詞が印象的。
感情の裏打ちがあるからこそ、踊る身体にも深みが生まれる。
A Hundred Years of Winter
シンセとストリングスを基調にした、厳しさと美しさが共存するバラード。
「冬の100年」という比喩が、別れや孤独を詩的に昇華している。
Living in a Lie
疾走感あるトラックと裏腹に、関係の欺瞞を暴くような鋭利な歌詞が冴える。
コーラスの掛け合いが強く、ライブでの映えを意識した構成。
A Million Years
80年代風のリフと切ないメロディが融合したミドルテンポのナンバー。
「100万年経っても愛は続く」と歌うロマンチシズムが、Stepsらしさを象徴している。
Trouble & Love
アップテンポで跳ねるリズムに乗せて、“愛とトラブル”という対極の感情を軽やかに描く。
ポップ・デュオのような男女の掛け合いが心地よい。
Victorious
アルバム後半のハイライト。
勝利をテーマにしたこの曲は、困難を乗り越えてきたSteps自身の物語とも重なる。
力強いビートと昂揚感あるサビが胸を打つ。
Kiss of Life
柔らかいシンセとささやくような歌い出しが特徴の一曲。
「命を与えるようなキス」という幻想的テーマが全体を包み込む、夢のようなミディアム・ナンバー。
High
タイトル通り、高揚感に満ちたエレクトロ・ポップ。
“落ち込んでいた私を高く引き上げたあなた”という感謝と幸福の表現が、清々しく響く。
The Slightest Touch
Five Starの1986年ヒット曲を大胆にカバー。
オリジナルの80sファンクをリッチなダンス・ポップへとアップデートしており、懐かしさと新鮮さが絶妙に同居している。
What the Future Holds (Acoustic)
アコースティック・バージョンにより、Sia提供曲の内面性が浮き彫りに。
エレクトロ・ポップでは見えなかった繊細な感情が表れている。
総評
『What the Future Holds Pt. 2』は、単なる“続編”ではなく、
Stepsがいかに進化と変化を恐れずに「今」を生きているかを示す、自己証明的な作品である。
アルバム全体を通じて感じられるのは、エンタメ性と自己探求の両立である。
かつてのような“踊れる楽しさ”を保ちながらも、
より繊細な感情や、変化し続ける関係性を真摯に見つめているのだ。
特に、「愛」や「失望」といった感情を、一面的でなく多層的に表現する手法は、
長年のキャリアを経て磨かれたバランス感覚の賜物であるといえる。
“懐かしさ”だけでなく、“いま、ここ”の実感を鳴らすStepsの音楽は、ポップスの持つ本質的な強さを再確認させてくれる。
おすすめアルバム(5枚)
- Five Star『Silk & Steel』
本作のカバー元であり、80年代UKポップの原点的存在。 - Carly Rae Jepsen『Dedicated』
感情と洗練されたビートを融合させるセンスが共通。 - Pet Shop Boys『Hotspot』
熟練ポップアーティストによる現代的エレクトロ表現。 - Jessie Ware『What’s Your Pleasure?』
ディスコとエモーションの融合という文脈で並列的。 - Goldfrapp『Head First』
グラマラスなエレクトロ・ポップが持つ抒情性において共鳴。
8. ファンや評論家の反応
リリース当時、本作は英国ポップファンから高い評価を受け、チャートでも上位にランクイン。
特に“Take Me for a Ride”や“The Slightest Touch”は、
BBC Radio 2などの主要局でもヘビーローテーションされ、ファン層の広がりを示した。
SNSでは「進化したSteps」「今でも全然第一線」という称賛が多数寄せられ、
ファン層も10〜50代に渡って多様化した。
また、LGBTQ+コミュニティからの熱い支持も継続中であり、
Stepsが時代とともに変わりゆく社会と対話していることが示された。
『Pt. 2』は、懐古主義に頼らない「新しいレガシー」の提示として、
2020年代のポップにおける理想的な“成熟”の形を体現しているのである。
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