
発売日: 1994年5月31日
ジャンル: フォーク、バロック・ポップ、アコースティック
青へと続く道——Nick Drake、その静けさと詩情をたどる“決定的な導入盤”
『Way to Blue: An Introduction to Nick Drake』は、1994年にIsland Recordsからリリースされたコンピレーション・アルバムであり、Nick Drakeという伝説的シンガーソングライターの“静かなる神話”へとリスナーを誘う、決定版的入門作品である。
全14曲の選曲は、3枚のスタジオ・アルバム『Five Leaves Left』『Bryter Layter』『Pink Moon』からの名曲をバランスよく網羅しつつ、未発表音源「Time of No Reply」からも2曲が加えられており、Nick Drakeの音楽世界の核心部分を1枚で体験できる“青い地図”のような構成となっている。
“Way to Blue(青への道)”というタイトルは、1969年のデビュー作に収録された楽曲名でもあり、孤独、喪失、美しさ、そして言葉にできない感情——それらを青という色で象徴したNick Drakeの詩的感性そのものを指し示している。
収録楽曲レビュー(抜粋)
1. Cello Song(『Five Leaves Left』)
チェロのうねりがNickのギターと交差する、夢と覚醒のあいだを描く神秘的な小曲。
2. Hazey Jane I(『Bryter Layter』)
都会的で流麗なアレンジが特徴的な軽やかなナンバー。Nickの“フォーク・ポップ”的側面を示す一曲。
3. Way to Blue(『Five Leaves Left』)
タイトル曲。ピアノと弦楽のみで構成された異色作であり、Nick Drakeの最も孤高な一面が滲む“青のバラッド”。
4. Things Behind the Sun(『Pink Moon』)
不穏さと透明感を共に抱えるフォークの傑作。Nickの哲学的まなざしが光る。
5. Time of No Reply(未発表音源)
沈黙のなかに響く問いかけのような曲。Nickの晩年の心象を静かに映し出す。
6. River Man(『Five Leaves Left』)
5拍子による異質な流れと、管弦のアレンジが溶け合う、Nick Drake最大の代表曲のひとつ。
7. From the Morning(『Pink Moon』)
アルバム『Pink Moon』の最後を飾る一曲。夜明けの穏やかな光を感じさせるポジティヴなラスト。
総評
『Way to Blue』は、Nick Drakeという“語らぬ詩人”の音楽と言葉を、初めて手に取る人のための最良の一枚である。
ここに収められた曲たちは、声高に語ることなく、それでも深く心に染みわたる“沈黙の歌”で満ちている。
“青”とは、Nick Drakeにとって喪失と美、静けさと孤独、そして希望の色だったのだろう。
このコンピレーションを聴くという行為は、その“青へと続く道”を辿るような体験であり、その先にあるのは誰にとっても異なる、個人的なNick Drakeとの出会いなのである。
おすすめアルバム
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Five Leaves Left / Nick Drake
Nickの詩的世界の幕開け。瑞々しい感性と孤独の種がここにある。 -
Pink Moon / Nick Drake
削ぎ落とされた音と心の深淵。夜明け前のひとりの声を聴くような傑作。 -
Time of No Reply / Nick Drake
未発表曲・デモによるもうひとつの肖像。Nickの“沈黙”に寄り添う一枚。 -
Treasure / Cocteau Twins
言葉にならない感情を音にした、“夢のような青”を現代に継承する作品。 -
Carrie & Lowell / Sufjan Stevens
死と記憶と愛を、囁くような声とギターで綴る、Nick Drake的継承の現代形。
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