アルバムレビュー：Watch by Manfred Mann’s Earth Band

アルバムレビュー

2025.04.21

発売日: 1978年2月
ジャンル: プログレッシブ・ロック、アートロック、クラシック・ロック

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『Watch』は、Manfred Mann’s Earth Bandが1978年に発表した8作目のスタジオ・アルバムであり、前作『The Roaring Silence』で得た商業的成功を受け、さらに円熟した音楽性と表現力を打ち出した作品である。
本作では、幻想性と社会的メッセージ、知的アレンジと感情の起伏というManfred Mann’s Earth Bandの持ち味がバランスよく結実し、70年代後期プログレ／アートロックの佳作として評価されている。

バンドは引き続き、外部ソングライターの楽曲（ディランやディラン的な作家陣）を大胆に再構築する手法を継続しながら、オリジナル楽曲でもその叙情性と構築美を発揮。
また、コンサートでも定番となる楽曲が複数生まれたことから、彼らのライヴ・バンドとしての実力も裏付ける重要作といえる。

全曲レビュー

1. Circles

しっとりと始まるバラード風のオープニング。
人生や時間の循環をテーマにしたリリックが、穏やかで深みのあるメロディに乗って展開される。
内省的でありながら、聴き手を優しく包み込むような空気を持つ。

2. Drowning on Dry Land / Fish Soup

前半はブルージーでファンキーなボーカルナンバー、後半はインストゥルメンタル・ジャムに展開する二部構成。
“乾いた大地で溺れる”という逆説的なタイトルに象徴されるように、現代社会の不条理を体感的に描く。
Fish Soupパートでは、シンセとギターの流動的なセッションが印象的。

3. Chicago Institute

アルバムの中でもひときわシアトリカルな楽曲。
精神病院を舞台にしたダークで風刺的な物語が展開され、ヴォーカルとシンセサイザーの緊張感あるやり取りが際立つ。
社会制度への問いかけと、個の自由をめぐるテーマが内包されている。

4. California

西海岸文化への憧れと批判が交錯する一曲。
開放的なギターと明快なメロディは、アメリカーナ的な要素を強く感じさせるが、歌詞にはどこか空虚な“理想郷”への皮肉もにじむ。
リゾート的な明るさと、都会の孤独が共存する。

5. Davy’s on the Road Again

本作のシングル・ヒット曲にして、ライブでも定番となったアップテンポなロック・ナンバー。
放浪者“デイヴィ”を通して、旅と自由、そして根なし草的な生き方を描く。
軽快なビートとサビのキャッチーさで、バンドの中でも屈指の親しみやすさを誇る。

6. Martha’s Madman

ランディ・ニューマン的視点を持った楽曲で、社会から取り残された人物像を幻想的に描写。
ミドルテンポの展開と、シリアスなヴォーカル、濃密なアレンジが心に残る。
“狂気”と“正気”の境界を問いかけるような内容。

7. The Mighty Quinn

ボブ・ディランの楽曲をEarth Band流に再構築したラスト・トラック。
エネルギッシュなリズムとシンセの旋律でアップリフティングな雰囲気を醸し出し、アルバムを明快に締めくくる。
原曲よりも洗練されたポップ感覚と力強いロック性が共存。

総評

『Watch』は、Manfred Mann’s Earth Bandがプログレッシブ・ロックの精神とアートロックの構成力、そしてポピュラー音楽としての伝播力を見事に融合させた作品である。
その音楽は常に“観察者”としての視点——つまり「Watchする者」としての立場から、世界の不条理や希望を見つめ、時に風刺し、時に包み込む。

また、本作ではバンドの演奏力とプロダクション技術の円熟が感じられ、過剰な実験性に走ることなく、あくまで“聴かせる”ことに徹した姿勢が功を奏している。
テーマ性とメロディの調和、構造と感情のバランスは、1970年代後期のプログレの到達点の一つといえるだろう。