Walking on the Moon by The Police(1979)楽曲解説

Spotifyジャケット画像

1. 歌詞の概要

「Walking on the Moon」は、The Policeが1979年にリリースしたセカンドアルバム『Reggatta de Blanc』に収録された名曲であり、恋愛の高揚感を宇宙的な比喩によって表現した、ミニマルかつ詩的なラブソングである。タイトルが示す通り「月面を歩いているような気分」は、恋に落ちたときの浮遊感――この世のものではない幸福感――を示しており、語り手の気持ちが重力から解放されるかのように軽く、自由であることが伝わってくる。

歌詞全体はシンプルでリフレインが多く、過度な感情表現は避けられているが、その抑制がかえって「恋愛の恍惚とした瞬間」を真に迫る形で描き出している。感情を爆発させるのではなく、ただ静かに“浮いている”ような感覚が支配しており、音楽と歌詞の親和性が非常に高い一曲である。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Walking on the Moon」は、スティングがホテルで酔っ払って「ジャンピング・アラウンド・ザ・ルーム(部屋の中を飛び跳ねてる)」と口にしたところからインスピレーションを得て、最終的に“月面を歩いている”という表現へと昇華された。曲のベースは当初「Walking Round the Room」だったが、より詩的で想像力をかき立てる「Moon」が選ばれたことで、楽曲の印象は飛躍的に拡張された。

音楽的にはレゲエの影響が色濃く、Andy Summersのギターは空間的で、スティングのベースラインは跳ねるようにリズムを刻む。Stewart Copelandのドラムもまた独特のタイム感覚を持ち、ゆったりとした空気感が曲全体に漂っている。この“スロー・グルーヴ”が、恋の浮遊感というテーマにぴったりとマッチしている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

Giant steps are what you take
君が踏み出すのは大きな一歩

Walking on the moon
まるで月面を歩くように

I hope my legs don’t break
この足が折れてしまわないように祈ってる

Walking on the moon
月の上を歩いてるからね

ここでは、恋愛の高揚感と同時に、その不安定さも暗示されている。喜びに満ちているものの、「足が折れるかもしれない」という言葉には、幸福の儚さや“恋に落ちる”ことの危うさも含まれている。

※引用元:Genius – Walking on the Moon

4. 歌詞の考察

この曲の歌詞は、過度に詩的でも説明的でもないが、それゆえにリスナーにとっては解釈の余地が大きく、さまざまな感情を投影できる。恋に落ちたときの“浮遊感”、心ここにあらずの状態、時間の流れの歪み――それらを“月面を歩く”という非常に抽象的なイメージで語ることで、直接的なラブソングとは一線を画した詩的な世界観が築かれている。

加えて、この曲には“距離”というテーマも存在する。月という存在は美しく、しかし遠く、決して簡単には手が届かない。その象徴性は、恋のはかなさや夢見がちな心境と重なるものであり、「Walking on the Moon」という行為そのものが、地に足のつかない関係性を描写していると読み取ることもできる。


Dream All Day by The Posies(1993)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「Dream All Day」は、アメリカのパワーポップバンド、The Posiesが1993年に発表したアルバム『Frosting on the Beater』からの代表曲であり、彼らにとって最も成功したシングルの一つである。この楽曲は、夢想と現実の間を彷徨う若者の“無気力と理想主義の狭間”を描いた作品であり、エネルギッシュなギターとタイトなリズムに乗せて、鬱屈した内面を軽快に吐き出している。

タイトルの通り「一日中夢を見ている」という状態は、現実逃避や希望の象徴であると同時に、自分の行動を停止させてしまう停滞感のメタファーでもある。つまりこれは、「夢を見ているけれど、何も実行できない」という葛藤の歌なのだ。

2. 歌詞のバックグラウンド

The Posiesは1980年代後半から活動を開始し、Big StarThe Byrdsなどの影響を受けたメロディ重視のギターポップで評価を集めたバンドであるが、本作収録の『Frosting on the Beater』では、よりグランジやオルタナ的なサウンドを導入し、音の厚みと攻撃性を増している。

「Dream All Day」はその中でも特にキャッチーで、“無気力さ”というテーマを扱いながらもロックとしての推進力に満ちた一曲であり、リリース当時MTVなどでも多くの注目を集めた。Ken StringfellowとJon Auerの二人によるハーモニーと、ギターのドライヴ感が絶妙に融合し、1990年代初頭のインディー/オルタナティヴ・ロックのエッセンスを体現している。

3. 歌詞の抜粋と和訳

I could dream all day
僕は一日中、夢を見ていられる

I could dream all day
ただそれだけで、日が暮れてしまう

And I think that’s okay
でも、それでもいいんじゃないかって思うんだ

ここでは、現実から逃避し続けることへの開き直りと、どこか諦めに近い感情が語られる。同時に、「でもそれでいい」と自己肯定しようとする態度が、リスナーの心にリアルに響く。

Something broke inside my head
頭の中で、何かが壊れてしまったみたいなんだ

I don’t like it, but I like it
嫌だけど、でもそれが好きなんだ

このパラドックスに満ちたフレーズは、精神的な不安定さとその居心地のよさを同時に表現しており、若者特有の“心のグレーゾーン”がリアルに描かれている。

※引用元:Genius – Dream All Day

4. 歌詞の考察

「Dream All Day」は、単なる“怠け者の賛歌”ではない。それは、現実に対する不信と、行動を起こすことへの恐れ、そして「このままでいいのか?」という自己問答が絶え間なく繰り返される、内面のドラマを抱えた楽曲である。夢を見ている状態は本来ポジティブなものだが、それが日常のすべてを支配することで“前に進めない”というジレンマが生まれている。

この曲が今なお支持されるのは、1990年代の若者だけでなく、あらゆる時代の“動き出せない”人々の感情に共鳴するからだろう。キャッチーで開放的なメロディと、その裏に潜む深い孤独と停滞感。そのギャップが、この曲に独特の魅力を与えている。


どちらの楽曲も、一見すると軽やかで心地よいが、その下には「孤独」や「不安」「自己矛盾」といった感情が複雑に流れている。**The Policeの「Walking on the Moon」は恋愛による浮遊感の表現であり、The Posiesの「Dream All Day」は、現実に降り立てない者たちの静かな嘆きである。**対照的でありながら、どちらも“地に足がつかない感情”を音にした、時代を超えて響く名曲である。

コメント

タイトルとURLをコピーしました