発売日: 1993年10月19日
ジャンル: グランジ、オルタナティブロック
Pearl Jamのセカンドアルバム「Vs.」は、デビュー作「Ten」の大成功に続く作品であり、バンドの怒り、反抗、そして彼らの音楽的進化を鮮明に描き出した。前作よりも粗削りでエネルギッシュなサウンドが特徴で、Eddie Vedderの情熱的なボーカルとMike McCready、Stone Gossardのギターワークがさらに強烈になっている。「Vs.」は、メインストリームの成功とそれに伴う商業主義に対する反発心が込められた作品であり、バンドが自由に音楽を表現しようとした姿勢が感じられる。アルバムはグランジムーブメントの中心に位置しながらも、その枠を超えた幅広い音楽性を披露している。
各曲ごとの解説:
- Go
「Go」は、激しいギターリフと疾走感のあるドラムが特徴のオープニングトラック。Dave Abbruzzeseのドラムが強烈なリズムを刻み、Eddie Vedderのボーカルは切迫感に満ちている。激しいエネルギーと内面的な葛藤を描いた歌詞が、バンドの攻撃的なサウンドを引き立てている。 - Animal
「Animal」は、5拍子のリズムで始まる力強いロックナンバー。Vedderの怒りに満ちたボーカルが社会的な抑圧に対する反抗をテーマにしており、ギターリフがダイナミックに響く。バンド全体のパワフルな演奏が、自由への渇望を強く表現している。 - Daughter
「Daughter」は、アルバムの中でも印象的なアコースティックギターベースのバラードで、家庭内での葛藤や自己表現の苦しみを描いている。Vedderの静かながらも強い感情が込められたボーカルが、ストーリーテリング的な歌詞と調和し、感動的なトラックとなっている。アルバムの中でもメロディアスで優しい側面を示す楽曲だ。 - Glorified G
「Glorified G」は、軽快なリズムと皮肉な歌詞が特徴のトラック。銃所持をテーマにした歌詞が、皮肉を込めて描かれており、バンドの社会的メッセージ性が強く現れている。明るいアレンジが、テーマのシリアスさを強調する逆説的な効果を生んでいる。 - Dissident
「Dissident」は、ギターのリフが中心に展開するエモーショナルな楽曲。テーマは裏切りや自己犠牲で、Vedderのボーカルが痛みと葛藤をリアルに表現している。曲全体に漂うメロディアスなトーンが、ドラマチックな雰囲気を際立たせている。 - W.M.A.
「W.M.A.」は、社会問題を取り上げたトラックで、特に警察の暴力や人種差別をテーマにしている。リズミカルなベースラインと、静かながらも激しいエネルギーが感じられる曲構成が印象的で、メッセージ性の強い歌詞が力強いリズムに乗って展開される。 - Blood
「Blood」は、アルバムの中でも特に激しく、攻撃的なトラック。Vedderの叫びにも似たボーカルが、メディアの過剰な露出や名声への不満を表現している。ギターとドラムが狂気のように激しく展開し、バンドの反逆精神が前面に押し出されている。 - Rearviewmirror
「Rearviewmirror」は、疾走感のあるギターリフが特徴のトラックで、前進すること、過去を振り返らないことがテーマ。エネルギッシュなサウンドが、自分を取り巻く状況からの脱却を描写し、聴く者を前向きな気持ちにさせる。 - Rats
「Rats」は、重いベースラインと暗いトーンが印象的な楽曲で、Vedderの社会批判が強調されている。曲中で動物と人間を比較し、偽善や腐敗した社会を風刺している。リズムとメロディが絡み合い、ミステリアスな雰囲気を作り出している。 - Elderly Woman Behind the Counter in a Small Town
このトラックは、穏やかなアコースティックギターのバラードで、田舎町に住む老婦人の視点から描かれた物語的な歌詞が特徴。時間の経過や取り残された感情を静かに、そして感動的に歌い上げており、Vedderの柔らかいボーカルが心に響く。 - Leash
「Leash」は、反抗心と自由への叫びをテーマにしたパンク調の楽曲。力強いギターリフと激しいドラムが曲全体を支配し、Vedderの「Get out of my fucking face」という叫びが、若者の怒りと解放への渇望を象徴している。 - Indifference
アルバムの最後を飾る「Indifference」は、静かながらも深い感情を秘めた楽曲。Vedderのボーカルは抑え気味だが、その歌詞には人生の困難に対する無関心と、それに抗おうとする意志が描かれている。ミニマルなアレンジが、曲に瞑想的な雰囲気を与えている。
アルバム総評:
「Vs.」は、Pearl Jamがそのサウンドとメッセージ性をより強化し、前作「Ten」で築いた成功を超えた作品である。バンドはよりパワフルで攻撃的なアプローチを取りながらも、内省的で感情豊かな曲も多数収録しており、音楽的な幅を広げている。社会問題に対する反抗心や、個人的な苦悩、そして自由への渇望がテーマとなっており、Vedderのパフォーマンスは情熱的かつ真に迫っている。多様な音楽スタイルを取り入れたこのアルバムは、90年代のオルタナティブロックシーンを代表する一枚であり、Pearl Jamの進化と音楽的成熟を感じさせる。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚:
- Vitalogy by Pearl Jam
「Vs.」に続くPearl Jamの3作目で、さらに実験的で多様なサウンドが特徴。彼らの成熟した音楽性を楽しめる。 - Superunknown by Soundgarden
グランジサウンドとメタル、オルタナティブロックが融合した名作。Pearl Jamと同じく90年代を象徴する作品。 - In Utero by Nirvana
社会的な怒りや個人的な苦悩を反映したアルバムで、「Vs.」と同様に感情的な強さがある。 - Badmotorfinger by Soundgarden
パワフルなギターリフと暗いトーンが特徴。エネルギッシュなサウンドが「Vs.」と共鳴する。 - Dirt by Alice in Chains
ダークでヘヴィなサウンドと感情的な歌詞が、Pearl Jamのファンに響く。グランジの名作。
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