
発売日:2017年3月3日
ジャンル:サイケデリック・ロック/ネオ・サイケデリア/ドリーム・ポップ/インディー・ロック
概要
Templesのセカンド・アルバム『Volcano』は、2014年のデビュー作『Sun Structures』で確立した1960年代サイケデリア志向を、より人工的で色彩豊かなスタジオ・ポップへと発展させた作品である。前作ではThe Beatles後期、The Byrds、T. Rex、初期Pink Floydなどを思わせるレトロな音響が前面に出ていたが、本作ではそのヴィンテージ感を維持しながら、シンセサイザー、エフェクト、層の厚いヴォーカル、より現代的なミックスを積極的に導入している。
Templesはイングランド中部のケタリングを拠点に結成されたバンドで、James BagshawとThomas Warmsleyを中心として活動を開始した。初期から、サイケデリック・ロックの古典的な語彙を単純に再現するのではなく、宅録的な感覚と現代的なインディー・プロダクションを組み合わせる点に特徴があった。
『Sun Structures』では、その方法が比較的分かりやすかった。
12弦ギター風のジャングル感、ファズ、メロトロンを思わせる音色、テープ的な質感、甘いコーラス。
一方『Volcano』では、そうした「1960年代らしさ」をいったん分解し、もっと抽象化した形で再構成している。
そのため本作は、前作よりも未来的であり、同時に夢幻的でもある。
タイトルの「Volcano=火山」は、内側に蓄積したエネルギーが突然噴き出すイメージを持つ。
この言葉は、アルバム全体のサウンドにもよく合っている。
曲はしばしば穏やかなメロディから始まり、サビや間奏でシンセ、ギター、コーラスが一気に膨張する。音楽の表面は美しいが、その内部では常に何かが渦巻いている。
歌詞では、夢、記憶、時間、自己認識、関係性、現実と幻想の境界といったテーマが扱われる。
Templesは物語を具体的に説明するタイプのバンドではない。
むしろ、断片的な言葉と映像的なイメージを組み合わせ、意味を完全に確定させない。
その点では、1960年代サイケデリアの伝統を強く引き継いでいる。
ただし、2010年代のネオ・サイケデリアという文脈では、Tame Impalaとの比較も避けられない。
『Currents』以降のTame Impalaがサイケデリック・ロックをシンセポップやR&Bへ拡張したのに対し、Templesはもっと英国的で、旋律とギター、スタジオ処理の華やかさを重視する。
『Volcano』は、その違いが明確になった作品である。
全曲レビュー
1. Certainty
アルバム冒頭の「Certainty」は、『Volcano』の変化を最も明確に示す楽曲である。
タイトルは「確信」を意味するが、音楽はむしろ不確かで揺らいでいる。
リズムは直線的ではなく、ギターとシンセが複雑に重なり、どこが中心なのか分からないような浮遊感を作る。
James Bagshawのヴォーカルは前作以上に加工され、声そのものが一つの音色として扱われる。
歌詞では、何かを確信したいという願いと、それが簡単には得られない状態が描かれる。
この矛盾が重要である。
「確信」という言葉を掲げながら、音楽は常に揺れている。
その構造によって、本作全体の「現実と幻想の境界」というテーマが最初から提示される。
サウンドにはサイケデリック・ポップだけでなく、1970年代のプログレッシヴ・ポップや、現代のシンセポップに近い質感もある。
Templesが単なるレトロ・バンドではなくなったことを示すオープニングである。
2. All Join In
「All Join In」は、タイトル通り共同体的な感覚を持つ楽曲である。
「みんなで参加する」という言葉は、サイケデリアが持つ集団的な意識や、ライブにおける合唱を想起させる。
音楽は比較的明るく、コーラスの広がりが強い。
ギターよりもヴォーカルの重なりが前面に出ており、曲全体に祝祭的な雰囲気がある。
しかし、単純な幸福感だけではない。
歌詞には、自分と他者の境界が曖昧になるような感覚も含まれる。
サイケデリック・カルチャーでは、個人の自我を越えて他者や自然とつながるという発想が重要だった。
Templesはそれを直接的な思想として語るのではなく、コーラスや反復によって感覚的に表現する。
前曲の「Certainty」が個人の内面を扱ったとすれば、「All Join In」はそこから外部へ視線を広げる一曲である。
3. I Wanna Be Your Mirror
「I Wanna Be Your Mirror」は、アルバムの中でも比較的明快なラヴ・ソングである。
タイトルは「あなたの鏡になりたい」という意味を持つ。
鏡は、相手をそのまま映すものだ。
そのため、この言葉には「相手を理解したい」「相手の一部になりたい」という願望が含まれる。
一方、鏡は自分自身を確認する装置でもある。
誰かとの関係を通じて自分自身を見るという意味も生まれる。
音楽的には、サイケデリックな装飾を持ちながらメロディが非常に明確だ。
サビも覚えやすく、Templesのポップ・バンドとしての強さが表れている。
ギターの音は前作より滑らかで、シンセサイザーが色彩を加える。
The Beatles後期やT. Rexのグラム的な甘さを、2010年代のインディー・ポップへ変換したような一曲である。
4. Oh the Saviour
「Oh the Saviour」は、タイトルに宗教的なイメージを持つ。
「救世主」という言葉は非常に大きな意味を持つが、Templesの歌詞では必ずしも宗教そのものを扱っているわけではない。
むしろ、誰かや何かに救われたいという心理を象徴する言葉として使われる。
音楽は重層的で、シンセ、ギター、コーラスが次々と加わる。
それによって、曲そのものが儀式的な雰囲気を持つ。
歌詞では、外部の救済を求めることと、自分自身の内側で答えを探すことが曖昧に混ざる。
この「救済が外にあるのか内にあるのか分からない」という構造は、サイケデリック・ロックの精神性と相性が良い。
Templesはそれを説教的に語らず、あくまで夢のようなイメージとして提示する。
5. Born into the Sunset
「Born into the Sunset」は、アルバムの中でも特に美しいタイトルを持つ。
「夕焼けの中に生まれる」という言葉には、始まりと終わりが同時に存在する。
夕焼けは一日の終わりだ。
しかし、その中に「生まれる」という行為が置かれることで、終わりの中に新しい始まりがあるという逆説が生まれる。
このテーマは『Volcano』全体に流れる。
崩壊と再生。
現実と夢。
過去と未来。
それらが対立するのではなく、同時に存在する。
音楽的には、広がりのあるコーラスと光沢のあるシンセが印象的である。
ギターも強く歪むのではなく、空間を作る方向で使われる。
Templesのサイケデリアが「暗闇」より「光」に近いことを示す楽曲である。
6. How Would You Like to Go?
「How Would You Like to Go?」は、タイトルからして問いかけの形を取る。
「どうやって行きたい?」という言葉は、物理的な移動だけでなく、人生や意識の方向性を問うものとしても読める。
Templesの歌詞では、移動や変化がしばしば心理的な意味を持つ。
どこかへ行くことは、今いる場所から離れることでもある。
そのため、この曲には選択と不安が同時に存在する。
サウンドは比較的軽やかで、アルバム前半の密度の高い曲から少し空気を変える。
しかし、音の細部には依然として多くのエフェクトが施されている。
一見シンプルなポップ・ソングに聞こえても、その下では複数の音が動いている。
この二重構造がTemplesらしい。
7. Open Air
「Open Air」は、タイトル通り開放感のある楽曲である。
これまでの曲では夢や内面のイメージが多かったが、ここでは外の空気へ出るような感覚がある。
ギターの響きも比較的明るく、リズムは自然に前へ進む。
歌詞では、閉じられた状態から外へ出ること、視野を広げることが示唆される。
これは精神的な解放の比喩としても読むことができる。
Templesはサイケデリアを薬物的な幻想だけとして扱っていない。
世界を別の角度から見ること。
既存の認識から離れること。
それが彼らにとってのサイケデリックな感覚である。
「Open Air」はその姿勢を比較的明るい形で示す一曲だ。
8. In My Pocket
「In My Pocket」は、よりコンパクトなポップ感を持つ楽曲である。
タイトルの「ポケットの中」というイメージは、何かを自分の近くに保持すること、秘密にしておくこと、所有することを連想させる。
歌詞では、感情や記憶を内側にしまい込むような感覚がある。
外からは見えないが、自分にとっては重要なもの。
それを「ポケット」という小さな空間に例える。
音楽的にはリズムが軽快で、サイケデリックな装飾よりもメロディが前へ出る。
この曲のような簡潔なポップ・ソングが挟まることで、本作の密度の高いサウンドに呼吸が生まれる。
9. Celebration
「Celebration」は、タイトル通り祝祭をテーマにする。
ただしTemplesの祝祭は、単純なパーティー・ソングではない。
音楽は華やかだが、そこには少し現実感の薄い感覚がある。
夢の中で祝っているような、時間が止まったような雰囲気だ。
コーラスは大きく広がり、シンセやギターが多層的に重なる。
この曲では『Volcano』のプロダクションの強みがよく表れている。
音数は多い。
しかし、完全に混濁せず、それぞれの音が色彩として機能する。
歌詞の意味も具体的な出来事より「祝う」という感情そのものが中心である。
Templesは出来事を説明するより、状態を音楽化する。
「Celebration」はその典型的な一曲である。
10. Mystery of Pop
「Mystery of Pop」は、本作の中でも特に自己言及的なタイトルを持つ。
「ポップの謎」。
これはTemples自身が何を目指しているのかを示す言葉のようにも聞こえる。
ポップ・ソングはなぜ耳に残るのか。
なぜ単純なメロディが、複雑な感情を呼び起こすのか。
なぜ古い曲が何十年後にも新しく聞こえるのか。
こうした問いが、このタイトルには込められているように感じられる。
音楽的にも、サイケデリックな音響とキャッチーな旋律が非常に強く結びついている。
Templesは実験的な音を使うが、完全に抽象音楽へ進むことはない。
必ずポップの骨格を残す。
「Mystery of Pop」は、その姿勢をタイトルそのものにしたような一曲である。
11. Roman God-Like Man
「Roman God-Like Man」は、アルバムの中でも特にグラム・ロック的な雰囲気を持つ。
タイトルには古代ローマの神像や英雄を思わせる誇張された男性像がある。
それは現実の人物というより、自己神話化されたキャラクターに近い。
T. RexやDavid Bowieのグラム・ロックでは、現実の自己を超えた架空の人物像を作ることが重要だった。
Templesもここで、その伝統へ接近している。
音楽はリズミカルで、ギターにも少し艶やかな質感がある。
歌詞では、誇張された自己像や権力、崇拝のイメージが現れる。
その人物を純粋に称えるのではなく、どこか皮肉な距離がある点も重要だ。
本作の中で、サイケデリアとグラムが最も直接的に接続する楽曲である。
12. Strange or Be Forgotten
アルバムを締めくくる「Strange or Be Forgotten」は、本作のテーマを最も明確な言葉にした曲である。
タイトルは「奇妙であれ、さもなくば忘れられろ」という意味を持つ。
この言葉は、Templesの音楽観そのものを表しているように聞こえる。
安全で普通のものを作れば、受け入れられるかもしれない。
しかし、記憶には残らない。
だったら奇妙であることを選ぶ。
この価値観は1960年代のサイケデリアにも、1970年代のグラムにも、現代のインディー・ロックにも共通する。
音楽はアルバムの締めにふさわしく、広がりがあり、コーラスも大きい。
前作『Sun Structures』のレトロなサイケデリック・ロックから、本作でより人工的かつ現代的な音響へ進んだTemples自身の変化を肯定するようにも聞こえる。
アルバム全体の結論として非常に象徴的な楽曲である。
総評
『Volcano』は、Templesが「1960年代サイケデリアの優れた再現者」から、「自分たちなりのサイケデリック・ポップを構築するバンド」へ移行した作品である。
デビュー作『Sun Structures』は、その完成度の高さゆえに、同時に影響源が非常に分かりやすい作品でもあった。
The Beatles。
The Byrds。
Pink Floyd。
T. Rex。
そして1960年代後半の英国サイケデリック・ポップ。
それらがTemplesの音楽の中にはっきり見えた。
『Volcano』では、その参照元が少しぼやける。
ギターは依然として重要だが、シンセサイザーやスタジオ処理の比重が増える。
音はより厚く、色彩的で、現実のバンド演奏と人工的なサウンドの境界が曖昧になる。
この変化は、Templesにとって非常に重要だった。
サイケデリック・ロックは、歴史的に「過去の音楽を再現する」ジャンルではない。
むしろ、既存の音のルールを崩し、新しい知覚を作ることを目的としていた。
1960年代当時のサイケデリアが新しかったのは、シタールを使ったからでも、テープ逆回転を使ったからでもない。
それまでのポップ・ミュージックに存在しなかった音の組み合わせを作ったからである。
その意味で、『Volcano』がより現代的なシンセや加工を導入したことは、サイケデリアの精神にむしろ忠実だ。
Templesは「1967年の音を再現する」ことから、「2017年にサイケデリックであるとはどういうことか」を考える方向へ進んだ。
この点で、同時代のTame Impalaとの比較は興味深い。
Kevin Parkerは『Currents』でギター中心のサイケデリアからシンセ、R&B、ディスコへ大きく移行した。
Templesも『Volcano』で電子音を増やしたが、彼らはより英国的なポップの構造を維持している。
メロディは依然としてThe Beatlesやグラム・ロックの伝統に近い。
つまり、音響は未来的になっても、ソングライティングの芯は古典的である。
この二重性が本作の特徴だ。
アルバム全体の歌詞も、具体的な現実より知覚や意識の変化を重視する。
「Certainty」では確信。
「I Wanna Be Your Mirror」では自己と他者。
「Oh the Saviour」では救済。
「Born into the Sunset」では始まりと終わり。
「Open Air」では解放。
「Mystery of Pop」では音楽そのもの。
そして「Strange or Be Forgotten」では個性と記憶。
これらを並べると、『Volcano』が単なる色鮮やかなサイケデリック・ポップではなく、「自分がどう世界を見るか」をテーマにした作品であることが分かる。
タイトルの「Volcano」も、その意識変化を象徴する。
火山は外から見れば静かだ。
しかし内部では熱が蓄積している。
そして、ある瞬間にそれが地表へ噴き出す。
本作の楽曲も同じだ。
表面的には柔らかなメロディと美しいハーモニーを持つ。
しかし、その内部では複数のシンセ、ギター、エフェクト、リズムが複雑に動いている。
そのため聴きやすいのに、完全には構造を把握しにくい。
この「ポップでありながら複雑」という性格が、本作の魅力である。
プロダクション面でも重要な作品だ。
『Sun Structures』ではローファイ感やヴィンテージ機材を思わせる質感が、作品の魅力の一部だった。
『Volcano』では、もっと明確にスタジオそのものを楽器として使っている。
ヴォーカルを何層にも重ねる。
ギターを加工する。
シンセを前景と背景の両方に配置する。
リズムに人工的な感触を加える。
これによって、曲が「バンドの演奏を録音したもの」ではなく、「スタジオの中で作られた世界」になる。
この発想はThe Beatlesの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』以降のスタジオ・ポップの伝統に連なる。
また、アルバム終盤の「Mystery of Pop」から「Strange or Be Forgotten」への流れは特に重要だ。
ここでTemplesは、サイケデリック・ロックを単なるジャンルではなく、ポップ・ミュージックの可能性を拡張する方法として捉えていることを示す。
奇妙であること。
普通とは違う音を作ること。
しかし、それでもポップとして記憶に残ること。
このバランスがTemplesの核心である。
『Volcano』は、『Sun Structures』の分かりやすい即効性と比べると、少し散漫に感じられる瞬間もある。
音の層が増えたことで、楽曲の輪郭がぼやける場面もある。
しかし、その曖昧さ自体が本作の目的でもある。
輪郭を溶かすこと。
ジャンルの境界を曖昧にすること。
現実と夢を混ぜること。
その点で、本作はTemplesのサイケデリック・バンドとしての野心がより明確になった一枚である。
デビュー作が「過去の美しいサイケデリアを現在へ持ち込んだ作品」だとすれば、『Volcano』は「その過去を材料として、自分たちの人工的な夢世界を作った作品」と位置づけられる。
2010年代ネオ・サイケデリアの中でも、レトロと未来の境界を意識的に揺らした重要なアルバムである。
おすすめアルバム
1. Temples – Sun Structures(2014)
Templesのデビュー作にして、彼らのサイケデリック・ロックの原点。The Beatles、The Byrds、Pink Floyd、T. Rexなどの影響を強く感じさせる一方、現代インディーとしての明快なプロダクションを持つ。『Volcano』で何が変化したのかを理解するうえで最重要の一枚である。
2. Tame Impala – Currents(2015)
2010年代サイケデリック・ロックが、シンセポップ、R&B、ディスコへ拡張した代表作。Templesとはより電子的で内向的だが、「ヴィンテージ・サイケデリアを現代のスタジオ技術で再設計する」という点で『Volcano』と強く関連する。
3. MGMT – Congratulations(2010)
サイケデリック・ポップ、プログレッシヴ・ロック、アート・ロックを複雑に融合した作品。大ヒット向けの即効性から距離を取り、奇妙な曲構成や厚いスタジオ音響を優先した点で、『Volcano』の実験志向と共通する。
4. The Beatles – Magical Mystery Tour(1967)
英国サイケデリック・ポップの重要な基準点。色彩豊かなスタジオ処理、メロディックなポップ・ソング、現実と幻想の境界を曖昧にする歌詞など、Templesの音楽的DNAを理解するうえで欠かせない。『Volcano』の華やかなコーラスやスタジオ志向にも連続性がある。
5. The Flaming Lips – The Soft Bulletin(1999)
サイケデリック・ロックを大規模なスタジオ・ポップへ変換した代表作。ギターだけに依存せず、シンセ、オーケストレーション、エフェクトを用いて「現実には存在しない音響空間」を作る姿勢は、『Volcano』の方向性と強く共通する。

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