発売日: 2021年5月7日
ジャンル: ハードロック、パワーポップ、グラムメタル、オルタナティブ・ロック
概要
『Van Weezer』は、Weezerが2021年にリリースした15作目のスタジオ・アルバムであり、1980年代のアリーナ・ハードロックやヘヴィメタルの影響を正面から打ち出した、バンド史上最も“ギター主導”のロックアルバムである。
タイトルの由来はもちろん、ギターレジェンドであるエディ・ヴァン・ヘイレン率いるVan Halenへのオマージュ。
過去の作品ではパワーポップやバロックポップ、エレクトロポップなど様々な実験を重ねてきたWeezerだが、本作では原点回帰的に“歪んだギター”と“スリリングなリフ”に重きを置いている。
もともとは2020年春のHella Mega Tour(Green Day、Fall Out Boyとの合同ツアー)に合わせて発表される予定だったが、パンデミックの影響により延期され、その間に一転してオーケストラ作品『OK Human』が先に発表されるという異例の流れとなった。
そのため、『Van Weezer』は『OK Human』の静謐な音世界とは真逆を行く、“ラウドで陽気なエネルギーの解放”として位置づけられている。
全曲レビュー
1. Hero
ヒーロー像への憧れと平凡さの間で揺れる感情を、堂々たるギターリフと共に描くオープニング・ナンバー。
キャッチーでアンセミックなサビが、まさにアリーナロックの王道を体現している。
2. All the Good Ones
ポップなコード進行と80年代メタル風ギターが交差する、キラーチューン。
「良い子はみんないなくなった」と歌うやるせなさが、どこか懐かしさと切なさを伴って響く。
3. The End of the Game
初期Van Halenを思わせるライトハンド奏法のイントロが炸裂する、アルバムの目玉曲。
Rivers Cuomoのソングライティングとギター愛が最も純粋な形で表出した、シアトリカルかつドラマティックな一曲。
4. I Need Some of That
ノスタルジックな歌詞と軽快なギターが融合した、パワーポップとハードロックの中間に位置する楽曲。
「昔の自分を取り戻したい」というテーマは、多くのリスナーに共感を呼ぶだろう。
5. Beginning of the End
映画『Bill & Ted Face the Music』のサウンドトラックにも使用された、エピックな雰囲気を持つ楽曲。
人生の転機や終末感をユーモラスに描きつつ、サビでは全力で“歌い上げる”。
6. Blue Dream
オジー・オズボーン「Crazy Train」のギターリフを引用した、遊び心あふれるメタル・ポップ。
重厚なリフとRiversの甘いボーカルのギャップが絶妙である。
7. 1 More Hit
「あと一発だけくれ!」という依存性と快楽の象徴をテーマにしたダークかつ攻撃的な楽曲。
ブリッジの高速リフが、バンドの演奏技術の高さを証明している。
8. Sheila Can Do It
シンプルでストレートなラブソング。
ギターとドラムの掛け合いがパンク寄りのテイストを感じさせる、ライブ映えする一曲。
9. She Needs Me
80年代風のロマンスと、誇張されたヒロイズムが混在するトラック。
ポップメタルのエッセンスをWeezer流に軽やかに落とし込んでいる。
10. Precious Metal Girl
アルバムを締めくくるアコースティック・バラード。
全編を通してラウドだった流れを一旦落ち着かせ、“本当に大切なもの”を見つめ直すような余韻を残す。
総評
『Van Weezer』は、Rivers Cuomoの“ギター少年としての原風景”を現代に蘇らせたような、祝祭的かつ懐古的なロックアルバムである。
メタル、ハードロック、グラム、パンクといった80年代のサブジャンルをWeezerらしいポップセンスで再構築し、オマージュと新鮮さを両立させている。
特筆すべきは、バンド全体の演奏力の高さと、ギターリフへの情熱。
単なるノスタルジーではなく、そこには「ギターが主役だった時代の美学」への敬意と、現代にそれを鳴らす意義が込められている。
また、前作『OK Human』とは音楽的にも精神的にも真逆に位置するため、この2作をセットで聴くことで、Weezerというバンドの振れ幅の広さとユニークさが際立つ。
笑えるくらいギターを愛し、冗談みたいに真面目にロックを鳴らす——それこそが『Van Weezer』なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
-
1984 / Van Halen
本作の最大のリファレンス元。ライトハンド奏法や派手なギターが好きな人には必聴。 -
Pyromania / Def Leppard
メロディアスなメタルとポップの融合。『Van Weezer』のサウンド志向に近い。 -
American Hi-Fi / American Hi-Fi
パワーポップとハードロックの橋渡しをした好例。Weezerファンにも刺さる90s感。 -
Make Believe / Weezer
シンプルなロックとエモーションが交差するWeezerの中期作。『Van Weezer』とのギター志向の違いも楽しめる。 -
Dookie / Green Day
ポップパンク的な即効性と、少年性の爆発。『Van Weezer』の疾走感と共鳴する。
コメント