アルバムレビュー:Up by ABC

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※本記事は生成AIを活用して作成されています。

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発売日: 1989年10月
ジャンル: ハウス、ダンス・ポップ、コンテンポラリー・ポップ


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概要

『Up』は、ABCが1989年に発表した5作目のスタジオ・アルバムであり、バンドの音楽的方向性における“第3の転機”とも言える作品である。

本作では、80年代末期のクラブ・カルチャーに接近し、ハウス・ミュージックやアシッド・ジャズといった当時の先端的なダンス・サウンドを大胆に取り入れている。
つまりこれは、ロマンティックなストリングス(『The Lexicon of Love』)でもなく、ギター中心の社会批評(『Beauty Stab』)でもなく、あくまで“身体で聴く”ABCの提案だったのである。

プロデュースはABC自身とダンス・ミュージックのプロデューサーであるマーク・ホワイト(メンバーでもある)を中心に進められ、プログラミングやビート・メイクに力が入っている。
アレンジにはアシッド・ハウスやシカゴ・ハウスの影響も顕著で、当時のUKクラブ・シーンにおいて、ABCが決して“過去のバンド”ではなく現役であることを証明しようとする意志が感じられる。

ただしリリース当時、長年のファンにはこの急激なダンス路線が唐突に映り、セールス的には成功とは言い難かった。
イギリスやアメリカでのチャート入りも振るわず、ABCのディスコグラフィーの中では比較的“埋もれた”存在として扱われてきた。

しかし今日聴き返すと、このアルバムはハウス・ミュージックとポップスの融合に挑んだ野心作であり、マーティン・フライのボーカルが持つエレガンスとビートの相性が意外なほどに良いことに気づかされる。
『Up』は、ABCの“クラブ解釈”として再評価されるべきアルバムなのだ。


全曲レビュー

1. Never More Than Now

オープニングを飾るのは、幻想的なシンセ・パッドと4つ打ちリズムが交錯するハウス調のナンバー。
“今この瞬間以上に大切な時はない”というテーマが、刹那的な快楽の世界へと誘う。

2. The Real Thing

アルバム中もっともダンサブルでクラブ志向の強い曲。
シカゴ・ハウス的なビートに乗せて、“本物の愛”とは何かを問いかけるが、その問いはむしろ“踊ること”によって曖昧にされていく。

3. One Better World

唯一UKチャートに登場したシングルで、“より良い世界”を求める平和的メッセージが込められたアンセム。
ハウスの祝祭性とポップの理想主義が重なり合う、今なお輝きを放つナンバーである。

4. Where Is the Heaven?

タイトルに反して、楽曲はダークで内省的。
“天国はどこにあるのか”という問いが、重低音のベースとミニマルなシンセに乗せて繰り返され、トランス的な没入感を生む。

5. The Greatest Love of All

ホイットニー・ヒューストンのバラードとは無関係のオリジナル曲。
クラブサウンドの中にもABCらしいロマンティシズムが漂い、愛とは何かをもう一度考え直すような構成が美しい。

6. North

中盤に差し掛かるこの曲では、サンプリングとブレイクビーツが前面に出ており、アシッド・ジャズ的な要素も含まれる。
インストゥルメンタルに近い構成で、空間性のあるミックスが印象的。

7. I’m in Love with You

恋に落ちる瞬間の多幸感をストレートに描いたナンバー。
80年代中期のABCを思わせるメロディアスさが残っており、ファンにとっては嬉しい一曲。

8. Paper Thin

感情の脆さや関係の不確かさを“紙のように薄い”という比喩で表現。
リズムと歌詞の対比が際立ち、パーソナルな痛みがフロアで再構成されるような感覚を与える。

9. Blame

タイトル通り、責任の所在を巡る心理的駆け引きがテーマ。
機械的なトラックとマーティン・フライの感情的な歌唱の対照が、アルバム後半の山場をつくっている。

10. Never More Than Now (Kraushaar Mix)

オープニング曲のリミックス・バージョン。より重低音が強調され、クラブ仕様に最適化されている。
本作の“再解釈”として、アルバムを円環的に閉じる役割を果たしている。


総評

『Up』は、ABCが“80年代的ポップの枠”を壊し、新しい表現手段としてのハウス・ミュージックに挑戦した意欲作である。

その姿勢は、単なる時流への追従ではなく、ABCの美意識をいかにダンスフロアへ適応させるかという真摯な実験に近い。
マーティン・フライの端正なボーカルと反復的なビートは、意外にも好相性を見せ、ソウルの魂を失わないまま“身体を動かす音楽”へと変容を遂げている。

リリース当時こそ戸惑いの声が多かったものの、現在の視点から聴き直すと、このアルバムはアダルト・ポップとクラブ・カルチャーの架け橋として、非常にユニークな存在感を放っている。
それはABCが過去にとらわれず、時代とともに変化し続けるアーティストであろうとした証でもある。

“踊る”ことは、感情を言語化せずに表現する行為だとすれば、『Up』はABCがそれを初めて本気で試みた記録であり、サウンドと身体、言葉とリズムが交錯する実験室なのだ。


おすすめアルバム(5枚)

  1. Pet Shop Boys – Introspective (1988)
     ハウスとポップの融合というテーマにおいて非常に近い試み。

  2. Erasure – Wild! (1989)
     ダンス・ポップの明快さとエレガントさが、ABCの本作と呼応する。

  3. Soul II Soul – Club Classics Vol. One (1989)
     UKにおけるアーバン&ダンス・サウンドの先駆けとして比較対象に適する。

  4. Swing Out Sister – Kaleidoscope World (1989)
     アダルトな洗練とダンスビートの融合という点で共通性がある。

  5. Deee-Lite – World Clique (1990)
     ABCのダンス路線をさらにポップ・アート的に展開したようなイメージ。

制作の裏側(Behind the Scenes)

『Up』の制作は、ABCにとって音楽業界の変化と向き合う挑戦であった。
1989年という年は、アシッド・ハウスとレイヴ・カルチャーがUKを席巻し始めた時代。

彼らは自宅スタジオに最新のサンプラーやリズム・マシンを導入し、従来のソングライティング手法から脱却。
より即興的かつ反復的な“トラック志向”へと制作体制を変化させた。

プロダクション面では、既存のスタジオ・バンドという枠を超え、ダンスフロアに届く音像をいかに構築するかが主眼となっていた。
その意味で『Up』は、“音楽を聴く”から“音楽に身体を委ねる”へのシフトを体現したアルバムであり、ABCの野心と柔軟性が最も現代的な形で結実した作品と言えるだろう。

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