
発売日:1987年 ジャンル:Alternative Country / Country Rock / Roots Rock
概要
Two-Fisted Talesは、The Long Rydersが1987年に発表した3作目のスタジオ・アルバムであり、最初の活動期では最後のアルバムとなった。ロサンゼルスのPaisley Underground周辺から登場した彼らは、1960年代のフォーク・ロックやカントリー・ロックを、1980年代のインディー/オルタナティヴ・ロックの感覚で鳴らしたバンドである。本作ではSid Griffin、Stephen McCarthy、Tom Stevens、Greg Sowdersという編成を中心に、前作State of Our Unionで広げたルーツ・ロック志向をさらに明瞭なバンド・サウンドへまとめている。
プロデュースはEd Stasiumが担当した。RamonesやThe Smithereensなども手がけた彼らしく、ギター、ベース、ドラムの輪郭はくっきりしており、初期作品にあったガレージ的な粗さよりも、4人が一緒に鳴らす力強さが前へ出る。McCarthyの12弦ギターやスティール・ギターなどがカントリーの色を加える一方、リズム隊には1980年代のロックらしい硬さがあり、単なる1960年代音楽の再現にはなっていない。
歌詞では旅や別れ、恋愛だけでなく、労働者の日常やアメリカ社会を見る視点も重要である。理想化された「古き良きアメリカ」を描くというより、その音楽的伝統を借りながら、1980年代を生きる人物の失望や不安を歌うところにThe Long Rydersの個性がある。後に「オルタナ・カントリー」と呼ばれる音楽が広がる以前に、カントリーとインディー・ロックが自然に同居できることを示した作品の一つである。
全曲レビュー
1. 「Gunslinger Man」
勢いのあるドラムとエレクトリック・ギターで始まり、西部劇を思わせるタイトルとは裏腹に、音は完全に1980年代のロック・バンドとして鳴っている。カントリー由来のフレーズが入っても演奏は懐古的にならず、硬いビートが曲を前へ押す。ガンマンという古典的なアメリカの人物像を使いながら、それを単純な英雄として描かないところにもバンドの距離感がある。ルーツ音楽と現代的なギター・ロックを一気に接続するオープニングだ。
2. 「I Want You Bad」
大きく開くメロディと簡潔なコードを中心にした、アルバムでも特にストレートなラブ・ソングである。欲望を遠回しにせずタイトルそのままに押し出し、歌詞の直接性に合わせて演奏も余計な回り道をしない。ギターにはカントリー・ロックらしい明るさがあるが、ドラムの強さによって軽くなりすぎない。The Long Rydersの音楽が歴史的なルーツへの知識だけで成立しているのではなく、単純に強いポップ・ソングを書けることを示している。
3. 「A Stitch in Time」
前2曲の直線的な勢いを少し抑え、フォーク・ロック寄りの旋律を聞かせる。タイトルは「早めの対処が後の大事を防ぐ」という英語のことわざを思わせ、歌にも時間や選択をめぐる感覚が流れている。12弦系のきらめくギターが旋律の周囲を動き、厚い歪みよりコードの響きを生かすアレンジになっている。The Byrds以来のフォーク・ロックを受け継ぎながら、80年代の乾いた音像へ置き換えた一曲である。
4. 「The Light Gets in the Way」
明るさを意味する「light」が、ここでは進む道を照らすものではなく「邪魔になる」と歌われる。この言葉の反転が曲の少し苦い感触を作り、親しみやすいメロディにも素直な楽観性を与えない。演奏ではギター同士の役割分担が明確で、一方がリズムを支え、もう一方が短いフレーズで隙間を埋める。ルーツ・ロックらしい温かい音色の中に、感情的には割り切れないものを残す書き方が効果的である。
5. 「Prairie Fire」
題名の「草原の火」に似合うように、演奏には広がりと切迫感が同居する。カントリー的な音色を使いながらも牧歌的な風景にはせず、リズム隊を強く鳴らすことで火が広がっていくような運動を作る。歌詞でもアメリカの土地を単なる美しい背景として扱うのではなく、その場所にある緊張を感じさせる。The Long Rydersが西部や田園のイメージを愛しながら、それを神話として無批判に再現するバンドではないことが分かる。
6. 「Baby’s in Toyland」
タイトルには童話的な軽さがあるが、演奏はギターを中心とした引き締まったロックである。短く覚えやすいメロディとコーラスが前へ出ており、アルバム中盤の流れを重くしすぎない。The Long Rydersでは歴史や社会を扱う曲が目立つ一方、こうした小ぶりなポップ・ソングを間に置くことで作品全体に起伏が生まれる。カントリーの装飾を強調するより、4人組のギター・バンドとしての簡潔さを楽しめる曲だ。
7. 「Two Kinds of Love」
タイトル通り、愛情を一種類の理想的な感情として扱わず、異なる形の愛や欲望の間にある距離へ目を向ける。歌は大げさなバラードにならず、落ち着いたテンポの中で言葉を前へ出す。ギターの響きにも柔らかさがあり、前半の力強いロックから少し温度を下げる役割を果たしている。恋愛を単純な幸福や失恋へ二分せず、人間関係の中にある矛盾を小さな曲へ収めたところに味わいがある。
8. 「Blind Side of the Heart」
感情では見えていない部分、あるいは自分でも理解できない心の領域を思わせるタイトルが印象的である。旋律は親しみやすいが、歌にはわずかな陰りがあり、明るいカントリー・ロックの形式と内容のずれが生まれている。McCarthyのギターは派手なソロより、ボーカルへ応答する短いフレーズで存在感を出す。アルバム後半へ入る位置で、外向きの勢いから内側を見る歌へ自然に流れを変えている。
9. 「He Can Hear His Brother Calling」
本作の中でも物語性が強く、家族や記憶を思わせる題材を落ち着いた演奏で描く。タイトルにある「兄弟の呼ぶ声」は、実際の声とも記憶の中の呼びかけとも取れ、歌詞には明確に説明しすぎない余白がある。フォークやカントリーが長く扱ってきた家族の物語を下敷きにしながら、過剰な郷愁へ流れないのがThe Long Rydersらしい。ギターの控えめな響きも、言葉を中心に聞かせるために機能している。
10. 「Six Days on the Road」
トラック運転手の生活を歌ったDave Dudleyで知られるカントリーのスタンダードを取り上げ、バンドのルーツを直接示す。原曲のロード・ソングとしての骨格を保ちながら、ギターとドラムを強く鳴らすことで1980年代のルーツ・ロックへ変換している。長距離を走り続ける労働者の歌という題材も、The Long Rydersが関心を持つ日常のアメリカ像によく合う。単なる懐メロではなく、自分たちの現在の音へ取り込んだカバーである。
11. 「You Don’t Know What’s Right, You Don’t Know What’s Wrong」
長いタイトルをそのまま強いフックとして使い、正しさと間違いの境界が分からなくなる状況を勢いのある演奏へ乗せる。リズム隊は直線的で、ギターも細かな装飾よりコードの力を優先するため、言葉の切迫感がそのまま曲の推進力になる。説教的に答えを提示するのではなく、判断そのものが揺らいでいる状態を描くことで、アルバム後半に緊張を戻している。
12. 「It’s a Matter of Time」
時間の経過を題材にした歌を、比較的開放的なメロディで聞かせる。何かが変わるのは「時間の問題だ」という表現には希望にも諦めにも取れる曖昧さがあり、歌唱もどちらか一方へ決めきらない。ギターは広がりのあるコードを使い、終盤らしい見通しのよさを作る。前曲の混乱した判断から少し距離を取り、物事を長い時間の中で見る視点へ移ることで、終盤の流れを整えている。
13. 「Harriet Tubman’s Gonna Carry Me Home」
奴隷制から人々を逃がす地下鉄道で知られるHarriet Tubmanの名を用い、歴史的な解放のイメージを現代の歌へ重ねる。The Long Rydersはアメリカの過去を美化するのではなく、その歴史にある対立や自由への希求をロックの題材として扱う。演奏は説教臭くならないよう力強いルーツ・ロックとしてまとめられ、タイトルの「家へ連れて帰る」という言葉が大きなフックになる。バンドの社会的関心がはっきり表れた曲である。
14. 「Spectacular Fall」
標準盤の最後は、題名からして成功より「壮大な転落」へ目を向ける。演奏は終幕にふさわしい力強さを持つものの、勝利を祝うような大団円にはせず、The Long Rydersらしい苦味を残して進む。華やかな成功と失敗が隣り合わせにある感覚は、恋愛や社会、アメリカという場所を理想化せずに描いてきた本作ともよくつながる。最初の活動期の最後のアルバムとなったことを予言した歌と断定する必要はないが、結果的には余韻の大きなクロージングになった。
総評
Two-Fisted Talesの強みは、1960〜70年代のアメリカン・ルーツ音楽を参照しながら、それを博物館のように保存しようとしていない点にある。12弦ギター、カントリー的なフレーズ、ロード・ソングといった要素は確かに古典的だが、Greg Sowdersのドラムは力強く、エレクトリック・ギターも1980年代のロックらしい硬い輪郭を持つ。Ed Stasiumのプロダクションによって、その二つの時代感覚が一つのバンド演奏として整理されている。
Sid GriffinとStephen McCarthyを軸にしたギターの使い分けも重要である。The Byrdsを思わせるきらめく響きから、カントリーの細かなフレーズ、ガレージ・ロック的なコードまでを曲ごとに切り替えることで、ルーツ・ロックという枠の中でも十分な変化を作っている。一方、Tom StevensとSowdersのリズム隊は装飾を増やさず、曲を前へ運ぶ役割に徹する。このバランスによって、歴史的な引用が多くても音楽が知識の展示にはならない。
歌詞で描かれるアメリカも一枚岩ではない。道路や草原、ガンマンといった伝統的なイメージが登場する一方で、労働、社会的な対立、失望、歴史上の自由への闘いにも視線を向ける。古いカントリーやフォークの言葉を借りながら、過去を理想郷として扱わないことが重要だ。「Six Days on the Road」のような既存曲まで含め、アメリカ音楽の伝統を現在の生活へ接続し直そうとする姿勢がアルバムを貫いている。
初期のNative Sonsにあった荒々しいインディー感覚と比べれば、本作はかなり整っており、そのぶん危うさが薄れたと感じる部分もある。しかし、メロディ、演奏、録音のバランスは最初の活動期で最も堂々としている。商業的な主流へ完全に移ることも、アンダーグラウンドへ閉じこもることもなく、カントリーとロックの間に別の道を作った点は、後のオルタナ・カントリーやAmericanaを考えるうえでも興味深い。1980年代半ばのギター・ロックが、アメリカの古い音楽をどのように現在形へ変えたかがよく分かる作品である。
おすすめアルバム
State of Our Union by The Long Ryders
1985年の前作で、カントリー・ロックと力強いギター・サウンドの組み合わせを本格的に広げた作品。Two-Fisted Talesより少し荒さがあり、バンドがルーツ志向を洗練していく過程を比較できる。
Native Sons by The Long Ryders
1984年のデビュー・アルバム。The ByrdsやFlying Burrito Brothersにつながる響きを、よりガレージ的な演奏で鳴らしている。本作の整ったサウンド以前にあったPaisley Undergroundらしい粗さを確認できる。
The Gilded Palace of Sin by The Flying Burrito Brothers
カントリーとロックを大胆に接続した1969年作。演奏の表面はThe Long Rydersより柔らかいが、伝統的なカントリーを同時代の若いロック・バンドの感覚で読み替える姿勢に直接的な共通点がある。
Sweetheart of the Rodeo by The Byrds
ロック世代が本格的にカントリーへ接近した1968年作。12弦ギターで知られるThe Byrdsのそれ以前の作品もThe Long Rydersには重要だが、本作は彼らが受け継いだフォーク、ロック、カントリーの接点を理解しやすい。
No Depression by Uncle Tupelo
1990年に登場したオルタナ・カントリーの基準点の一つ。パンク以後のギター・バンドが古いカントリーやフォークを現在形として鳴らす方法をさらに荒々しく押し進めており、The Long Rydersが1980年代に開いた道の先を確認できる。

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