アルバムレビュー：Twice Removed from Yesterday by Robin Trower

発売日: 1973年3月
ジャンル: ブルース・ロック、ハードロック、サイケデリック・ロック

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『Twice Removed from Yesterday』は、元Procol Harumのギタリスト、ロビン・トロワーによる1973年のソロ・デビュー・アルバムであり、ジミ・ヘンドリックス直系の音楽的精神を独自のスタイルで受け継ぎながら、ブルースと幻想性、そして孤高の美学を融合させた衝撃作である。
Procol Harum時代には表現しきれなかったギター・サウンドへの欲求がここで爆発的に解き放たれ、全編を通してロング・トーンとワウ、ファズ、ビブラートを駆使した“歌うようなギター”が鳴り響く。

トロワーはフロントマンではないが、ここではヴォーカルにジェイムズ・デューイを迎えることで、ギタリストとしての美意識に特化したバンド・サウンドを構築。
歌詞のテーマも人生、魂、運命といった抽象的で霊的なものが多く、演奏とリリックが不可分な“精神世界のブルース”として機能している。
70年代初頭の英国ロックの中でも異彩を放つ、内省的かつ情念的なアルバムである。

全曲レビュー

1. I Can’t Wait Much Longer

ジェイムズ・デューイのヴォーカルとトロワーのギターが見事に絡む、ソウルフルなスローブルース。
「もうこれ以上待てない」というフレーズが、切迫した感情と焦燥感を浮き彫りにする。
ギターのトーンはヘンドリックス風ながら、よりメランコリックで繊細。

2. Daydream

アルバムの中でも最も美しく、幻想的なバラード。
ゆったりとしたテンポに乗せて、感情を揺さぶるようなギターのうねりが続く。
“夢想”というタイトルにふさわしい浮遊感と、抑制の効いた叙情が秀逸。

3. Hannah

短くて疾走感のあるインストゥルメンタル寄りの楽曲。
ポップなメロディと攻撃的なギターリフが一体となり、アルバムの中で異色の軽快さを放つ。
一時の風のように駆け抜けていく楽曲構成も魅力的。

4. Man of the World

トロワーらしいブルース進行のミディアム・ロック。
“世界を知りすぎた男”が抱える虚無感と疲労が、ギターとヴォーカルで表現される。
スライドやピッチベンドによる表情豊かなギターが、リリックの余白を埋める。

5. I Can’t Stand It

ファズを効かせたギターとドライヴ感のあるリズムが特徴的なロック・ナンバー。
トロワーの荒々しいギターワークと、怒りに満ちた歌詞が一体となり、グルーヴの力強さを感じさせる。
この楽曲での“怒り”は、抑えきれない内面の噴出でもある。

6. Rock Me Baby

B.B.キングの名曲カバー。
原曲に比べてヘヴィでサイケなアプローチが施されており、トロワーの解釈が色濃く反映されている。
スローなリズムと濃密なギター・トーンが、オリジナルとは違う妖艶な魅力を生む。

7. Twice Removed from Yesterday

表題曲にして、アルバムの中核。
“昨日から二度切り離された者”という抽象的で哲学的なタイトルが象徴するように、過去と断絶した精神の孤独を描く。
サイケデリックな残響と浮遊感あるコード進行が、内面世界への旅路を示す。

8. Sinner’s Song

罪と赦しを主題としたスロー・ブルース。
“罪人の歌”というタイトルに込められた道徳的・宗教的な問いが、ギターの深い音色によってより感覚的に伝わる。
祈りにも似たメロディが胸を打つ。

9. Ballerina

儚くも美しいアルバムの終曲。
“バレリーナ”という繊細な存在に託した愛と喪失のイメージが、ギターの旋律で描かれる。
最小限の音数で感情を最大限に伝える構成が、トロワーの叙情性を端的に物語っている。

総評

『Twice Removed from Yesterday』は、ロビン・トロワーというギタリストが“言葉を持たぬ歌い手”として、自らの内面と対話しながら創り上げた、ブルースの深層心理学的記録とも言える作品である。
ジミ・ヘンドリックスに影響を受けつつも、その模倣にとどまらず、より深く、より哀しみを湛えた音世界を構築している。

Procol Harumでは抑制されていた情念とエモーションが、本作ではギターを通じて自由に解放されており、ヴォーカルとの相性も極めて良好。
幻想と孤独、怒りと祈り――そのすべてがゆったりと波のように押し寄せ、静かに、しかし確実に聴き手の感覚を揺らしていく。
1970年代初頭の英国ブルース・ロックの中でも、最も詩的で静謐な作品の一つとして評価すべきアルバムである。