アルバムレビュー:True Sadness by The Avett Brothers

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2016年6月24日

ジャンル:フォークロック、アメリカーナ、インディーフォーク、オルタナティブ・カントリー、ポップロック

概要

The Avett Brothersの『True Sadness』は、2016年に発表された通算9作目のスタジオ・アルバムであり、彼らのキャリアにおいて最も大胆にポップ・プロダクションへ踏み込んだ作品の一つである。ノースカロライナ州コンコード出身のThe Avett Brothersは、スコット・アヴェットとセス・アヴェットの兄弟を中心に、バンジョー、アコースティック・ギター、ウッドベース、ピアノ、ハーモニーを核としたアメリカーナ/フォークロック・バンドとして活動してきた。初期作品では、ブルーグラス、カントリー、パンク的な勢い、フォークの語りを混ぜ合わせた荒々しくも誠実なサウンドが特徴だった。

彼らが大きく評価を高めたのは、Rick Rubinをプロデューサーに迎えた2009年の『I and Love and You』以降である。この作品によってThe Avett Brothersは、インディー・フォーク/アメリカーナの枠を超え、より広いロック・リスナーへ届く存在となった。その後の『The Carpenter』(2012年)や『Magpie and the Dandelion』(2013年)では、家族、死、愛、信仰、労働、後悔、赦しといったテーマを、より成熟したソングライティングで描き出している。『True Sadness』は、そうした流れの先に位置しながらも、音楽的にはさらに多彩な方向へ開かれたアルバムである。

本作のタイトルである『True Sadness』は、「本当の悲しみ」を意味する。しかし、このアルバムは単純に暗い作品ではない。むしろThe Avett Brothersは、悲しみを人生の避けがたい一部として認めながら、その中に愛、回復、ユーモア、家族、再出発、身体的な喜びを見出そうとしている。アルバムには離婚、依存症、自己嫌悪、喪失、孤独といった重いテーマが含まれる一方で、サウンドはしばしば明るく、リズミカルで、ポップな質感を持つ。この「歌詞の痛み」と「音楽の開放感」の対比が、本作の最大の特徴である。

The Avett Brothersの歌詞は、伝統的なアメリカーナの語りに根ざしながらも、非常に個人的で率直である。愛する者との関係、自分自身への失望、過去の過ち、信仰や道徳への迷いを、抽象的な詩ではなく、生々しい感情として歌う。本作でもその傾向は強く、「Ain’t No Man」のような自己肯定のアンセムから、「Divorce Separation Blues」のような離婚を扱った曲、「No Hard Feelings」のような死と赦しをめぐる深い祈りのような曲まで、人生のさまざまな局面が描かれている。

音楽的には、本作はThe Avett Brothersの中でも賛否が分かれやすい作品である。これまでのアコースティックで荒々しいフォーク・バンド像に加え、電子的なビート、加工されたヴォーカル、ポップス的なコーラス、ダンス・ミュージック的なリズム、ロック的な厚いサウンドが取り入れられている。プロデューサーのRick Rubinは、バンドの根幹にある兄弟のハーモニーやソングライティングを保ちながらも、現代的な音像へ押し広げる役割を果たしている。

この変化は、2010年代半ばのアメリカーナ/インディーフォークの状況とも関係している。Mumford & SonsThe LumineersFleet FoxesBon Iver、Edward Sharpe & The Magnetic Zerosなどの成功によって、フォーク由来の音楽はメインストリームに近づいていた。しかし同時に、単なるアコースティックな温かさだけでは差別化が難しくなり、多くのアーティストがポップ、ロック、エレクトロニック、R&Bなどの要素を取り入れ始めた。『True Sadness』もその流れの中で、アメリカーナの感情表現を現代的なプロダクションへ接続した作品といえる。

The Avett Brothersのキャリアにおいて、本作は単なる実験作ではなく、成熟した成人の悲しみを扱ったアルバムである。若い頃の衝動や恋愛の高揚だけでなく、結婚の失敗、家庭の変化、親としての責任、老い、死への意識が前面に出ている。それでもアルバムは沈鬱な方向へ閉じず、むしろ生き続けるための音楽として鳴っている。悲しみを否定するのではなく、その真実を受け入れた上で、なお歌い、踊り、赦そうとする姿勢が『True Sadness』の核心である。

全曲レビュー

1. Ain’t No Man

アルバム冒頭の「Ain’t No Man」は、本作の中でも最も明快なアンセムである。手拍子のようなリズム、コール・アンド・レスポンス的なコーラス、ゴスペルやソウルを思わせる高揚感が前面に出ており、The Avett Brothersの従来のフォークロック的な親密さとは異なる、より大きな会場に響くような開放的な曲になっている。

歌詞の中心にあるのは、他者に自分を決定させないという強い自己肯定である。「自分を止められる者はいない」というメッセージは単純に見えるが、アルバム全体の文脈では重要である。『True Sadness』は悲しみや失敗を扱う作品だが、その最初に置かれるこの曲は、悲しみに呑み込まれないための宣言として機能する。

音楽的には、アコースティック楽器の温かさと、ポップス的な整理されたプロダクションが共存している。ベースとリズムは太く、コーラスは集団的な力を持つ。初期The Avett Brothersの荒々しいバンジョー主体の勢いとは異なるが、歌の持つ共同体的な感覚は一貫している。彼らの音楽における「個人の弱さを、歌うことで共同体の力へ変える」という性質が、ここでは非常に分かりやすく表れている。

「Ain’t No Man」は、アルバムの入口として、聴き手を暗さではなくエネルギーの中へ引き込む。悲しみを扱う作品の冒頭に自己肯定の歌を置くことで、本作は単なる告白的な沈鬱さから距離を取り、回復の物語として始まる。

2. Mama, I Don’t Believe

「Mama, I Don’t Believe」は、信仰、家族、疑いをめぐる楽曲である。タイトルに「Mama」と呼びかけが含まれていることから、母親という存在が道徳的・宗教的な基盤として置かれている。しかし、主人公はその基盤に対して「信じられない」と告げる。この一言には、成長に伴う信仰の揺らぎ、家族から受け継いだ価値観への距離、そして自分自身の苦悩が込められている。

音楽的には、穏やかなフォークロックの形を取りながらも、コーラスやアレンジには明るさがある。歌詞の内容は疑念を扱っているが、曲調は極端に暗くならない。このバランスはThe Avett Brothersらしいものであり、深刻なテーマを歌いながらも、音楽としては人を遠ざけず、むしろ共に歌える形へ整える。

歌詞で描かれる「信じられなさ」は、単なる反抗ではない。宗教、家族、愛、人生の意味に対して、かつてのように無邪気には信じられなくなった状態である。大人になることは、信仰を失うことでもあり、同時に自分なりの信じ方を探すことでもある。この曲は、その中間地点に立っている。

「Mama, I Don’t Believe」は、アルバム全体に流れる精神的な主題を早い段階で提示する。『True Sadness』における悲しみは、恋愛や家庭の問題だけではなく、世界を信じる力そのものの揺らぎでもある。この曲は、その根源的な不安を穏やかなメロディの中に閉じ込めている。

3. No Hard Feelings

「No Hard Feelings」は、『True Sadness』の中心的な楽曲であり、The Avett Brothersのキャリア全体の中でも特に重要なバラードである。曲は静かなアコースティック・ギターと柔らかな歌声を中心に進み、装飾は控えめである。その簡素さによって、歌詞の重みが直接的に伝わる。

歌詞のテーマは、死を前にした赦しである。人生の終わりに立ったとき、怒り、恨み、嫉妬、後悔を手放せるか。誰かに対して「悪い感情はない」と言えるか。この問いは非常に普遍的であり、同時にThe Avett Brothersが長年歌ってきた愛、失敗、信仰、家族のテーマをすべて含んでいる。

この曲では、死は恐怖としてだけでなく、人生を整理する視点として描かれる。人間は多くの過ちを犯し、他者を傷つけ、自分自身にも失望する。しかし、最後に残るべきものは恨みではなく、赦しであるという思想が、静かな語り口で示される。宗教的な言葉を強く使わずとも、曲全体には祈りに近い感覚がある。

音楽的には、The Avett Brothersのフォーク・バラードとしての強みが最も純粋に表れている。派手なプロダクションはなく、声、言葉、コード進行の力だけで楽曲が成立している。『True Sadness』には現代的なポップ・アレンジも多いが、この曲は彼らの核にある素朴なソングライティングが失われていないことを証明している。

「No Hard Feelings」は、本作の精神的な到達点である。アルバムタイトルが示す「本当の悲しみ」は、この曲において、死や喪失そのものではなく、人生を完全にはやり直せないという認識と、それでも赦しを選ぶ姿勢として表現されている。

4. Smithereens

「Smithereens」は、タイトルが示す通り、何かが粉々に砕けるイメージを持つ楽曲である。恋愛関係、自己像、家庭、あるいは人生の計画が崩れる感覚が、軽快なリズムとともに描かれる。The Avett Brothersはしばしば、深刻な感情を明るい曲調に乗せるが、この曲もその典型である。

音楽的には、ポップロック色が強く、リズムは弾み、メロディも親しみやすい。アコースティックな要素は残るが、全体の質感はラジオ向けのロックに近く、The Avett Brothersのメジャー志向がよく表れている。初期の生々しい録音に比べると整った音像だが、歌詞には彼ららしい弱さと自己分析がある。

「粉々になる」という表現は、単なる失恋の比喩にとどまらない。大人になり、家族を持ち、社会的な役割を担う中で、人は自分が思っていたほど強くも正しくもないことを知る。自尊心や理想が崩れる瞬間は痛みを伴うが、その崩壊を認めることが回復の第一歩でもある。

「Smithereens」は、アルバムにおけるポップな側面を担いながら、テーマとしては崩壊と再構築を扱っている。『True Sadness』が持つ「明るい音の中に悲しみを隠す」のではなく、「悲しみを明るい音で運ぶ」という特徴がよく表れた楽曲である。

5. You Are Mine

「You Are Mine」は、親密な愛情を歌った曲でありながら、所有や依存の危うさも感じさせる楽曲である。タイトルの「あなたは私のもの」という言葉は、ロマンティックな愛の表現であると同時に、関係性における独占欲や不安を含む。The Avett Brothersのラブソングは、単純な幸福の表明ではなく、愛の中にある恐れや弱さを同時に描くことが多い。

音楽的には、柔らかなメロディと温かいアンサンブルが中心である。アコースティックな響きが残されており、アルバムの中では比較的落ち着いた曲調を持つ。兄弟によるハーモニーは、個人的な愛の歌を共同体的な響きへ広げている。

歌詞における愛は、安定したものというより、失われるかもしれないものとして意識されている。そのため「You Are Mine」という言葉は、自信に満ちた宣言というより、不安を抑えるための祈りのようにも響く。愛する者を自分の側に置きたいという願いは、人間的であると同時に危うい。曲はその二面性を完全には解決しない。

この曲は、『True Sadness』における愛の複雑さを示している。本作では、愛は救いである一方で、痛みの原因でもある。相手を必要とすることは美しいが、その必要性が強すぎると、依存や所有へ変わる可能性もある。「You Are Mine」は、その境界線上にあるラブソングである。

6. Satan Pulls the Strings

「Satan Pulls the Strings」は、本作の中でも最も実験的な楽曲の一つであり、The Avett Brothersの従来のアメリカーナ・サウンドから大きく踏み出している。電子的なビート、加工された音色、ダンス・ミュージック的なリズムが前面に出ており、伝統的なフォーク・バンドとしてのイメージを意図的に揺さぶる曲である。

タイトルの「Satan Pulls the Strings」は、「悪魔が糸を引く」という意味を持つ。これは誘惑、依存、自己破壊、外部の力に操られる感覚を示す。The Avett Brothersの歌詞には、宗教的な善悪のイメージがしばしば登場するが、この曲ではそれが現代的で奇妙なサウンドと結びついている。

音楽的な異質さは、歌詞のテーマとよく合っている。自分が自分でないものに操られている感覚、制御を失う感覚は、アコースティックな温かい音よりも、機械的で歪んだリズムによって強く表現される。バンジョーやフォーク的な要素も完全に消えているわけではないが、それらは電子的な質感の中に組み込まれ、奇妙な混成を生んでいる。

この曲は、アルバム内でも特に賛否を呼びやすい。従来のThe Avett Brothersらしさを求めるリスナーには大胆すぎる変化に感じられる一方で、本作のテーマである混乱、誘惑、現代的な不安を表現する上では重要な役割を果たしている。『True Sadness』が単に伝統的なフォークロック作品ではなく、現代の精神状態を扱うアルバムであることを示す曲である。

7. True Sadness

表題曲「True Sadness」は、アルバムのタイトルを担う重要曲であり、本作の主題を最も直接的に表現している。曲は明るいポップ感と切実な歌詞を併せ持ち、悲しみを真正面から扱いながらも、音楽としては動きがあり、閉塞感だけに沈まない。

歌詞では、真の悲しみとは何かが問われる。表面的な落ち込みや一時的な失望ではなく、人間が深く抱える孤独、自己嫌悪、他者との断絶、人生の取り返しのつかなさが背景にある。しかし、The Avett Brothersは悲しみを美化しすぎない。悲しみは人を深くするが、同時に人を壊すものでもある。その現実を認めながら、なお前へ進もうとする姿勢が曲全体にある。

音楽的には、ポップなアレンジが特徴的である。リズムは軽く、メロディも開かれているが、歌詞には影がある。この対比によって、「悲しい曲」を悲しく演奏するのではなく、悲しみを抱えたまま生きている人間の複雑さが表現される。日常生活では、人は悲しみを抱えていても笑い、働き、話し、動き続ける。この曲の明るさは、その現実に近い。

表題曲としての「True Sadness」は、アルバム全体を読み解く鍵である。本作の悲しみは、絶望ではない。むしろ、自分や他者の弱さを見つめることで初めて到達する誠実さである。その意味で、この曲はThe Avett Brothersの成熟を象徴している。

8. I Wish I Was

「I Wish I Was」は、The Avett Brothersらしい比喩表現が美しく展開されるバラードである。タイトルの「自分が何かであれたなら」という願望は、愛する相手にとってよりよい存在になりたいという思いと、自分自身への不満を同時に含んでいる。

歌詞では、自分が相手を包むもの、守るもの、照らすもの、支えるものになれたらという比喩が重ねられる。これはロマンティックな愛の表現であると同時に、自己の不十分さを認識する歌でもある。人は愛する相手に対して、もっと優しく、もっと強く、もっと役に立つ存在でありたいと願う。しかし現実には、その理想には届かない。この距離が曲の感情的な核である。

音楽的には、穏やかなアコースティック・アレンジが中心で、メロディの美しさが際立つ。アルバム内の実験的な曲に比べると、従来のThe Avett Brothersに近い温かさがある。声の重なりと控えめな伴奏によって、歌詞の親密さが丁寧に伝えられる。

「I Wish I Was」は、本作におけるラブソングの中でも特に詩的な曲である。愛を所有や欲望としてではなく、相手のために変わりたいという願いとして描いている点で、「You Are Mine」と対照的である。アルバム全体の中では、静かな美しさを担う重要な楽曲である。

9. Fisher Road to Hollywood

「Fisher Road to Hollywood」は、The Avett Brothersのキャリアと出自を振り返るような楽曲である。タイトルには、地元や生活の現場を思わせる「Fisher Road」と、成功や名声の象徴である「Hollywood」が並置されている。この対比は、地方出身のバンドが全国的・国際的な注目を得るまでの道のりを象徴している。

歌詞では、夢を追うこと、故郷を離れること、成功の代償、そして自分たちがどこから来たのかを忘れないことがテーマになっている。The Avett Brothersは、アメリカーナのバンドとして、地元性や家族性を非常に大切にしてきた。しかし成功によって、彼らは大きな音楽産業の中へ入っていく。その過程で生じる違和感や緊張が、この曲には含まれている。

音楽的には、軽快で物語性のあるフォークロックとして展開する。語り口は親しみやすく、演奏も過度に重くない。ロード・ソング的な感覚があり、移動と成長を描く曲として機能している。

「Fisher Road to Hollywood」は、アルバムの中で個人的な恋愛や悲しみから少し視野を広げ、バンド自身の歩みやアメリカ的な成功物語を扱う曲である。ただし、その成功は手放しで祝われるものではない。故郷と名声、誠実さと商業性、素朴さと洗練の間で揺れるThe Avett Brothersの姿が映し出されている。

10. Victims of Life

「Victims of Life」は、人生そのものに翻弄される人々を描いた楽曲である。タイトルは「人生の犠牲者たち」と訳せるが、そこには単なる被害者意識だけでなく、人間が誰しも避けられない苦しみを背負っているという認識がある。

音楽的には、リズミカルで親しみやすい曲調を持つ。重いタイトルに反して、サウンドは比較的明るく、前向きなエネルギーがある。この明るさは、人生の苦しみを軽視するものではなく、むしろ苦しみを抱えた者同士が共に進むための力として機能している。

歌詞では、人間が自分の選択だけでなく、環境、偶然、過去、他者の行動によって形作られる存在であることが示される。誰も完全に自由ではなく、誰も完全に無傷ではない。人はそれぞれの事情を抱え、人生の流れの中で傷つきながら生きている。この視点は、アルバム全体の赦しのテーマと結びつく。

「Victims of Life」は、個人的な悲しみをより普遍的な人間の条件へ広げる曲である。The Avett Brothersはここで、悲しみを個人の失敗としてではなく、生きることに伴う共有された経験として描いている。

11. Divorce Separation Blues

「Divorce Separation Blues」は、本作の中でも特にテーマが明確な楽曲であり、離婚と別離を扱っている。タイトルには、ブルースの伝統に連なるユーモアと悲しみが同時に含まれている。深刻な出来事をあえて軽快な形式で歌うことで、痛みの中にある滑稽さや、人間的な弱さが浮かび上がる。

音楽的には、カントリーやブルースの影響が強く、どこか昔ながらのアメリカ音楽の語り口を感じさせる。離婚という現代的かつ個人的なテーマを、伝統的なブルース形式に近い感覚で扱うことで、個人の苦しみが大きな音楽的伝統の中へ置かれる。

歌詞では、別離の混乱、孤独、自己憐憫、生活の変化が描かれる。しかし曲は泣き崩れるような悲劇にはならない。むしろ、自分の情けなさを少し距離を置いて見つめるユーモアがある。この点は重要であり、The Avett Brothersは悲しみを誠実に扱いながらも、過剰な自己深刻化を避けている。

「Divorce Separation Blues」は、『True Sadness』のタイトルに最も直接的に結びつく個人的な痛みの曲である。結婚の終わりは、愛の失敗であると同時に、人生の計画が崩れる経験でもある。その痛みをブルースとして歌うことで、曲は個人的告白を普遍的な形式へ変換している。

12. May It Last

アルバムの最後を飾る「May It Last」は、穏やかな祈りのような楽曲である。タイトルは「それが続きますように」という願いを示し、愛、平和、赦し、人生のささやかな幸福が長く保たれることを望む気持ちが込められている。『True Sadness』というアルバムの終曲として、この曲は非常に重要な役割を果たしている。

音楽的には、控えめで静かなアレンジが中心である。アルバムの中にはポップで派手なプロダクションの曲も多いが、終盤に置かれたこの曲は、The Avett Brothersのフォーク的な核へ戻るように響く。声とメロディの素朴さが前面に出ており、過剰な演出を避けている。

歌詞は、人生の一瞬の美しさを大切にする姿勢を示している。すべては変化し、愛も幸福も永遠ではないかもしれない。それでも、その瞬間が少しでも長く続くことを願う。この願いは、アルバム全体で描かれてきた喪失や悲しみを踏まえているからこそ、より深く響く。

「May It Last」は、悲しみを消し去る曲ではない。むしろ、悲しみを知った後に残る静かな希望の曲である。人生が壊れやすいものだと理解しているからこそ、続くものへの願いが切実になる。アルバムはこの曲によって、絶望ではなく、慎ましい祈りの中で閉じられる。

総評

『True Sadness』は、The Avett Brothersのキャリアにおいて、音楽的にも歌詞的にも大きな転換点となった作品である。初期の荒々しいアメリカーナやフォーク・パンク的な勢いを期待するリスナーにとって、本作のポップで現代的なプロダクションは驚きのあるものだった。電子的なリズムや加工された音色を含む「Satan Pulls the Strings」のような曲は、従来のバンド像から明確に踏み出している。

しかし、表面的なサウンドの変化とは裏腹に、本作の中心にあるものはThe Avett Brothersらしい人間的な誠実さである。愛、家族、死、信仰、失敗、赦し、自己嫌悪、回復といったテーマは、彼らが長年歌ってきたものと連続している。違いは、それらがより成人的で複雑な人生経験として描かれている点にある。若さの衝動ではなく、結婚、離婚、親密さの破綻、老いと死への意識を経た後の歌として、本作は深い重みを持つ。

アルバムタイトルの『True Sadness』は、単なる悲劇性を意味しない。ここでの「本当の悲しみ」とは、人生が思い通りにならないこと、自分が理想通りの人間ではないこと、愛する人を傷つけることがあること、死を避けられないこと、完全な赦しが容易ではないことを認める感覚である。しかし同時に、本作はその悲しみを受け入れることによって、より本質的な優しさや自由へ近づける可能性も示している。

音楽的には、アメリカーナの伝統と現代ポップの語法が混ざり合っている。バンジョー、ギター、ピアノ、兄弟のハーモニーといったThe Avett Brothersの基本要素は残りつつ、リズムや音色の面では大きく拡張されている。これは、2010年代のフォーク系アーティストが直面した課題、すなわち伝統的な手触りを保ちながら現代的なリスナーにどう届くかという問題への一つの回答である。

本作の中核を成すのは、やはり「No Hard Feelings」である。この曲は、アルバム全体の精神を凝縮している。死を見据えたときに、恨みや怒りを手放せるかという問いは、The Avett Brothersのソングライティングが到達した成熟を示す。アルバムの他の曲がポップな実験や個人的な痛みを描く中で、この曲はそれらを静かに統合する祈りのような役割を持つ。

『True Sadness』は、完璧に統一されたアルバムというより、人生の散らばった感情をそのまま抱え込んだ作品である。明るい曲、暗い曲、実験的な曲、伝統的な曲が並び、その振れ幅は時に大きい。しかし、その不均一さこそが本作の人間らしさでもある。悲しみの中に笑いがあり、失敗の中に希望があり、信仰の疑いの中に祈りがある。The Avett Brothersは、その矛盾を整理しすぎずに提示している。

日本のリスナーにとって、本作はアメリカーナやフォークロックに馴染みがない場合でも、メロディの親しみやすさと歌詞の普遍性によって入りやすい作品である。一方で、歌詞の背景にはアメリカ南部的な家族観、キリスト教的な赦しの感覚、カントリーやブルースの伝統が深く関わっているため、聴き込むほどに文化的な奥行きが見えてくる。特に、人生の失敗や別れを単なる悲劇ではなく、回復と赦しの契機として捉える姿勢は、The Avett Brothersの大きな魅力である。

総じて『True Sadness』は、The Avett Brothersが自らのフォークロック的な根を保ちながら、現代的なポップ・サウンドと成人の複雑な感情へ踏み込んだ意欲作である。従来の素朴なアメリカーナだけを期待すると戸惑いもあるが、悲しみを真正面から見つめ、それでも歌い続けるバンドの姿勢が鮮明に刻まれている。The Avett Brothersの成熟と変化を理解する上で欠かせないアルバムである。

おすすめアルバム

1. The Avett Brothers – I and Love and You(2009)

The Avett BrothersがRick Rubinと組み、より広いリスナーへ届くきっかけとなった重要作である。初期のアコースティックな荒々しさを残しつつ、ピアノを中心とした叙情的な楽曲や、洗練されたフォークロックの方向性が明確になった。『True Sadness』の前提となる転換点として重要である。

2. The Avett Brothers – The Carpenter(2012)

死、家族、労働、人生の有限性をテーマにした成熟作であり、『True Sadness』に通じる精神的な深みを持つアルバムである。サウンドは本作よりもアコースティック寄りで、The Avett Brothersの温かいハーモニーと人生観がよく表れている。特に内省的な歌詞を重視するリスナーには関連性が高い。

3. The Lumineers – Cleopatra(2016)

同じ2016年に発表されたアメリカーナ/インディーフォーク系の作品で、簡潔なメロディ、語りの強い歌詞、人生の後悔や愛を扱う点で『True Sadness』と共通する。The Lumineersはよりミニマルで乾いたサウンドを持つが、フォーク由来の音楽が現代のポップ・リスナーへ届いた時代性を共有している。

4. Mumford & Sons – Wilder Mind(2015)

フォークロックからより大きなロック・サウンドへ移行した作品であり、『True Sadness』の変化と比較しやすいアルバムである。アコースティックなバンジョー中心のイメージから離れ、エレクトリックな音作りへ進んだ点で、フォーク系バンドのメインストリーム化を考える上で関連性がある。

5. Jason Isbell – Something More Than Free(2015)

現代アメリカーナを代表するシンガーソングライター作品であり、労働、後悔、依存、赦し、生活の現実を深い歌詞で描いている。『True Sadness』よりもサウンドは落ち着いているが、成人の苦悩を誠実に見つめる姿勢に共通点がある。アメリカーナの歌詞表現を理解する上で重要な作品である。

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