発売日: 2022年3月18日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ポスト・グランジ、エレクトロニック・ロック
概要
『Torpedo』は、Feederが2022年にリリースした通算11作目のスタジオ・アルバムであり、彼らの音楽的キャリアにおいて“怒り”と“再生”という二極の感情が最も強くせめぎ合った作品である。
2020年のパンデミックにより活動計画が大幅に狂った中、グラント・ニコラスとタカ・ヒロセは一度すべての制作を中断し、内省的な初期セッションの音源を白紙に戻した。
そしてその反動として生まれたのが、バンド史上でも最もヘヴィで、かつモダンなエッジを持つ『Torpedo』である。
タイトルの“魚雷”は、現代社会や個人の内面に潜む不安と爆発的な衝動を象徴しており、コロナ禍以降の世界に対する感情の応答として、まさに“沈黙を破る音”としての機能を果たしている。
そのサウンドは、グランジ的ヘヴィネスに加え、電子的な処理やリフ構成のモダンさも導入されており、Feederが30年近い活動の中でもなお進化を続けていることを示している。
全曲レビュー
1. The Healing
荘厳なイントロと徐々に加速していく構成が印象的なオープニング。
“癒し”というタイトルとは裏腹に、むしろ怒りと叫びが支配する曲調で、アルバム全体のテンションを設定する。
2. Torpedo
タイトル曲にして、本作の精神的中核。
重厚なリフ、機械的なビート、爆発するサビ——すべてが“怒りの衝撃波”として鳴り響く。
歌詞には社会不安や個人のフラストレーションが滲み、現代ロックへの応答として強烈なインパクトを放つ。
3. When It All Breaks Down
パンデミック下で生まれた孤立感と世界の崩壊を描いた一曲。
哀愁あるメロディと破滅的なリリックが交錯する、アルバム屈指の内省的トラック。
4. Magpie
“カササギ”という象徴的な鳥をテーマに、嘘と欺瞞の社会を皮肉るミッドテンポ・ナンバー。
ミニマルなギターフレーズが、疑念や不信をかたちにしているようでもある。
5. Hide and Seek
かつての自分との対話、逃げては見つかる“かくれんぼ”のような精神の循環を描写。
サビでの開放感が、このアルバムで数少ない“光”の瞬間となっている。
6. Decompress
タイトル通り、“圧縮からの解放”をテーマにしたダイナミックな楽曲。
緊張感のあるAメロから、轟音のサビへの展開は、まさに感情の爆発をそのまま音にしたかのようだ。
7. Wall of Silence
静と動のバランスが際立つナンバー。
無言の壁=コミュニケーションの断絶、あるいは感情の抑圧を象徴し、現代社会への強いメッセージ性を含んでいる。
8. Slow Strings
ストリングスを思わせるシンセパッドが漂う幻想的なサウンド。
この曲では怒りは抑えられ、代わりに虚無や脱力が支配する。
アルバム全体の中間点であり、“間”を活かした異色作である。
9. Born to Love You
一転して情熱的でエモーショナルな楽曲。
タイトルはストレートだが、内容は愛の苦悩と再生を描いており、個人的な感情が強く表れている。
10. Submission
「服従」というタイトルが示すように、外的な圧力や社会規範への疑問がテーマ。
反抗というよりも、諦めや飲み込まれる感覚を重く静かに描いている。
11. Desperate Hour
アルバムのフィナーレを飾る、壮大で希望と絶望が交錯するバラード。
“切羽詰まった時”にこそ響く、静かで力強い祈りのような楽曲である。
総評
『Torpedo』は、Feederがこれまでに見せてきた叙情的な側面とは異なる、むき出しの“衝動”と“怒り”を真正面からサウンドに刻んだ作品である。
特に、社会情勢やパンデミックによって生じた閉塞感が各曲の根底に流れており、その感情は叫びにも沈黙にもなって表出する。
本作におけるギターサウンドは、初期Feederを思わせるグランジ・オルタナ的質感を保ちながらも、現代的なエッジを備えており、リフ構築や空間処理にも進化が見られる。
また、歌詞のテーマもこれまで以上に抽象的かつ象徴的であり、個人の感情と世界の変化が重ね合わされる構造になっている。
グラント・ニコラスのボーカルも、優しさよりも荒々しさ、語りかけよりも叫びが中心で、リスナーに“感情をぶつける”強度が際立っている。
それでもなお、Feeder特有のメロディラインはしっかりと存在しており、“怒りと美しさ”が矛盾せずに共存するこのアルバムは、まさに現代におけるFeederの声明である。
単なる回顧ではない、更新された“ロックの存在意義”がここにある。
おすすめアルバム
- Foo Fighters『Wasting Light』
ヘヴィなサウンドと個人の葛藤を描く構造が共通する。 - Royal Blood『Typhoons』
モダンな重低音とデジタル的処理が融合するUKロックの代表例。 - Muse『Simulation Theory』
社会批評とエレクトロニックな音像の融合点として近いアプローチ。 - Biffy Clyro『A Celebration of Endings』
希望と破壊の間で揺れる現代的なUKロック作品。 -
Deftones『Ohms』
ヘヴィネスとドリーミーな要素の両立。『Torpedo』の空気感と共鳴。
制作の裏側(Behind the Scenes)
『Torpedo』の制作は、コロナ禍による中断と再構築の過程で独特な展開をたどった。
当初進めていたセッションをほぼ全面的に棚上げし、グラント・ニコラスとタカ・ヒロセは、より本能的かつ即興性を重視した制作へと舵を切る。
録音はロンドンのMetropolis Studiosを中心に行われ、プロデューサーには長年のコラボレーターであるTim Roeが参加。
ギターの音圧やドラムの打ち出し方には、従来のUKロックという枠を超えた、アメリカン・ポストグランジ的な処理も加わっており、グローバルな聴感を目指した仕上がりとなっている。
ビジュアル面では、タイトルとリンクした“破壊と静寂”をコンセプトに、ミニマルでダークな色彩を基調としたアートワークが採用され、音楽の世界観を視覚的にも補完している。
Feederはこの作品で、ロックというフォーマットの中に、今の時代の叫びと希望を同時に投げ込んだのである。
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