1. 歌詞の概要
「Too Good」は、Arlo Parks(アーロ・パークス)が2021年にリリースしたデビューアルバム『Collapsed in Sunbeams』に収録された一曲であり、「うまくいっているように見える関係」の中にある違和感や自己防衛を、軽快でグルーヴィーなリズムに乗せて描いた、内省的かつチャーミングなポップソングである。
タイトルにある「Too Good(良すぎる)」という言葉は、表面上はポジティブな響きだが、この曲の文脈では「信じられないほど良すぎて、かえって身構えてしまう」という感情を表している。語り手は、恋愛関係の中で自分が素直になれず、相手の好意すら疑ってしまう――そんな自己防衛的な態度に葛藤しつつ、それをどこかで面白がってもいる。
つまりこの曲は、“人を好きになるのが怖い”という感情と、“それでも距離を縮めたい”という願いが交錯する、きわめて現代的でリアルなラブソングなのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
Arlo Parksは、「Too Good」を「自分自身の“素直になれなさ”をテーマにした曲」だと語っている。彼女は普段から非常に感受性が高く、また自己観察にも長けたアーティストであるため、こうした“感情のブレーキ”をかけてしまう自分への自嘲や優しさが、この曲の随所ににじみ出ている。
音楽的には、アルバムの中でも特にファンキーでキャッチーなビートが際立っており、70年代ソウルやR&Bからの影響を感じさせる心地よいグルーヴが魅力。リリックの繊細さとは裏腹に、サウンドは踊り出したくなるような軽快さを持っており、そのギャップもまた聴き手を引きつける。
この“軽さ”こそが、「重く考えすぎる私」を笑い飛ばすための救済でもある。そういう意味で、「Too Good」はArlo Parksにとっても、“心をほどく”ような一曲だったのかもしれない。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Why do we make the simplest things so hard?
どうして、いちばん単純なことをこんなにも難しくしてしまうんだろう?I bought you breakfast, then you started ghosting me
朝ごはんを作ってあげたのに、あなたは突然音信不通になったI just don’t know why I can’t be kind to me
なんで私は、私自身にやさしくできないんだろうYou’re too good to me
あなたは、私にはもったいないくらい優しすぎるよI’m too used to being misunderstood
理解されないことに、慣れすぎてしまった
歌詞引用元:Genius Lyrics – Too Good
4. 歌詞の考察
この曲の歌詞は、一見すると“恋愛におけるすれ違い”を描いているように思えるが、実際にはもっと根深い“自己認識”の問題が描かれている。語り手は、相手の優しさを素直に受け取れない。そして、それが自分の中にある“自己否定”から来ていることにも気づいている。
「理想的な関係」なのに、なぜか不安になる。「いい人」に好かれているのに、素直になれない。それは、傷つくことに慣れすぎてしまったせいかもしれないし、これまでの経験が“信じること”へのブレーキになっているのかもしれない。
特に「I just don’t know why I can’t be kind to me(なんで私は、自分にやさしくできないんだろう)」というラインは、自分の内面に対する誠実な問いかけであり、Arloのリリシズムの真骨頂とも言える一節である。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Lost in Yesterday by Tame Impala
過去にとらわれてしまう心と、それを笑い飛ばすようなファンキーなサウンドが魅力。 - Motion Sickness by Phoebe Bridgers
理不尽な関係への苛立ちと、過去を引きずる自分への皮肉を詩的に描いた名曲。 - Still Feel by half•alive
感情が麻痺している状態を、ダンサブルなリズムに乗せて描いた異色のポップナンバー。 - Goodie Bag by Still Woozy
“好きになってくれる人が信じられない”という不安を、軽妙なトーンで包んだポップソング。
6. “やさしくされると、怖くなることもある”
「Too Good」は、優しさに対する“疑い”と“憧れ”が同居する極めて繊細なラブソングである。Arlo Parksは、恋愛のなかにある「素直になれなさ」を、自己批判ではなく、“観察”として描いている。それがこの曲を、悲劇ではなく“共感”へと変えている理由である。
多くの人がこの曲に共鳴するのは、“愛される価値があると思えない”という感覚が、現代に生きる私たちのどこかに根付いているからだろう。Arloはそんな私たちに、「それでもいいんだよ」と優しく語りかける。
この曲を聴いたあとに残るのは、“答え”ではなく、“安心”。自分が複雑で、うまくいかないときもある。でも、それをそのまま歌にできたら、少しだけ心が軽くなる。そんなふうにして、「Too Good」は“やさしくされるのが怖い”あなたに寄り添う、まるでそっと手を握ってくれるような一曲なのだ。
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