To Last by Tyla(2023)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「To Last」は、南アフリカ出身のシンガーTylaが2023年にリリースしたセルフタイトル・アルバム『Tyla』に収録されている楽曲であり、彼女の表現力豊かなヴォーカルと繊細な感情描写が際立つバラード調の一曲である。これまでのTylaの代表曲「Water」や「Truth or Dare」がセクシュアルでダンサブルな印象を強く持っていたのに対し、「To Last」はより内省的で純粋な愛の継続性をテーマにしており、感情の“深さ”に重きを置いた構成になっている。

楽曲の中心となっているのは、「愛を長続きさせたい」という切実でまっすぐな願いである。タイトルの“To Last”は、「続くために」「永遠であるために」といった意味を含んでおり、歌詞全体を通して、関係性が壊れてしまうのではないかという不安と、それでもなお信じたいという気持ちが交錯している。恋において脆くなりやすい心の輪郭を、Tylaは静かに、しかし情熱を込めて歌い上げている。

2. 歌詞のバックグラウンド

「To Last」は、アルバム『Tyla』の中でもひときわ異彩を放つ楽曲であり、他のトラックがアマピアノやアフロポップ、ダンスホールのビートを活かしたトラックで構成されているのに対し、この曲ではよりミニマルで感傷的なR&Bサウンドが採用されている。プロダクションは、柔らかなピアノやシンセ、繊細なドラムによって構成されており、Tylaのヴォーカルが感情の中心に据えられている。

この曲の制作背景には、Tylaがインタビューなどで語る「本当の愛への憧れ」や「自己価値を誰かの承認に委ねない強さ」が関係していると考えられる。恋愛において、自分のすべてを委ねてしまうのではなく、相手とともに“持続可能な関係”を築いていきたいという願い。それは、Z世代的な恋愛観、つまり“燃え上がるよりも続いていくこと”の価値を歌に昇華したものだ。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「To Last」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。

I don’t wanna love in vain
むなしい恋なんてしたくない
I just want something that remains
私は、残るものがほしいの

If I give you all my heart
もし心を全部預けたら
Would you promise not to break it?
壊さないって約束してくれる?

I’m not asking for much, just to last
多くは望んでない、ただ“続いてほしい”だけ

出典:Genius – Tyla “To Last”

4. 歌詞の考察

「To Last」が描くのは、恋愛における“信頼”と“持続”というテーマである。Tylaはこの曲で、情熱的な愛の始まりではなく、「愛をいかにして持続させるか」という、より成熟した問いに向き合っている。そこに描かれているのは、ただの“ラブソング”ではなく、繊細で等身大な“人間関係の祈り”に近いものだ。

「Would you promise not to break it?(壊さないって約束して)」という一節は、恋をするうえで誰もが抱く不安をシンプルに表現しており、その言葉の裏には「私はあなたを信じたい」という願望と、「でも裏切られたくない」という恐れが同居している。それゆえ、この楽曲は多くのリスナーにとって“共感”という形で強く響くのである。

また、「I’m not asking for much, just to last」という言葉には、恋愛に何か特別な劇的展開を求めているのではなく、日々の安定と継続こそが最大の価値であるという視点が現れている。この“安定を望む愛”は、激しさを美徳とするこれまでのポップラブソングとは対照的であり、新しい恋愛観を象徴していると言えるだろう。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Let Me In by H.E.R.
    内なる不安と愛への希望を繊細に描いたR&Bバラード。静けさの中に情熱がある。

  • Talk 2 U by Brent Faiyaz
    言葉にならない気持ちや、不完全な恋の中でも続けたいという想いを表現した一曲。
  • Die for You by The Weeknd
    一見クールなトーンの中にある深い愛と依存の描写が、「To Last」の情緒に通じる。

  • On & On by Erykah Badu
    愛の継続性と人生の循環性を重ね合わせた哲学的ソウル。シンプルながらも深い。
  • Gone by Jorja Smith
    愛が終わることへの予感と、それでも残したい想いの余韻が美しく響く。

6. “継続する愛”を描く、新時代のラブソング

Tylaの「To Last」は、現代のポップ・R&Bにおいて注目すべき「静かな革命」を象徴している。それは、情熱や快楽を追い求めるのではなく、「長く続く愛」や「壊さない関係」を大切にするという価値観であり、それがZ世代のリスナーに深く支持されている理由でもある。

この楽曲は派手な展開やビートで押し切るタイプの作品ではなく、むしろ音数の少なさ、沈黙の美しさ、そしてTylaの呼吸までもが繊細に表現される“間”の使い方に価値がある。そのミニマルなアプローチは、聴き手の感情の余白にそっと寄り添い、「あなたの愛はどのくらい“続く”のか?」という問いを優しく投げかける。

Tylaは、自分の美しさやセクシュアリティを魅力として用いるだけではなく、感情の“持続可能性”を歌うことで、より深い共感と支持を得る新世代のアーティストへと成長している。「To Last」はその象徴であり、愛を信じたいすべての人にとって、静かに心を支えてくれるバラードである。

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