Time Bomb by Rancid(1995)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Time Bomb」は、アメリカのパンクロックバンド Rancidランシド が1995年にリリースしたサード・アルバム『…And Out Come the Wolves』に収録された代表曲であり、彼らの音楽的個性が最も明快に表れた楽曲のひとつです。
スカやレゲエを取り入れたリズミカルな構成と、ストリート色の強い歌詞が絶妙に組み合わさり、パンク・レゲエ・ルーツロックが見事に融合した、90年代の“アメリカ版The Clash”とも呼べる名曲です。

楽曲の主人公は、”black coat, white shoes, black hat, Cadillac”(黒のコート、白の靴、黒の帽子、キャデラック)という典型的なギャングスタ/ロックスター的イメージで描かれており、社会から逸脱しながらも強烈な個を持つ人物。
タイトルの「Time Bomb(時限爆弾)」は、彼の人生や性格、あるいは社会的背景がいつか破裂することを予感させるメタファーとして使われており、スカパンクの軽快さのなかに潜む社会的爆発の危うさを孕んでいます。

2. 歌詞のバックグラウンド

Rancidの中心人物である ティム・アームストロング(Tim Armstrong) は、自らもアルコール依存やホームレス経験など過酷な青春時代を送ってきた人物であり、彼のリリックには常に**“現実を生きるしかない若者たち”への共感と連帯**が込められています。

「Time Bomb」は、そうしたティム自身の経験や、90年代のアメリカ都市部で実際に起こっていた若者の貧困、暴力、ギャングカルチャーへの観察と応答から生まれた楽曲であり、ポップに聴こえながらも、その奥に社会批評性を秘めた作品です。

さらにこの曲は、Rancidの音楽的な方向性を決定づけた一曲でもあります。スカパンクというジャンルを広くリスナーに浸透させた功績は非常に大きく、メインストリームとアンダーグラウンドの間に橋を架けた曲とも言えるでしょう。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics

“Black coat, white shoes, black hat, Cadillac / Yeah, the boy’s a time bomb”
黒のコートに白い靴、黒い帽子にキャデラック
あいつはまるで時限爆弾みたいだ

“He’s just a kid, livin’ under the street / Doin’ alright with the folks he meets”
あいつはただのガキさ、路上で生きてる/でも、会う人間とうまくやってる

“Got no future, got no hope / Just another kid with a lotta dope”
未来なんてない、希望もない/ただのドラッグまみれの若造さ

“One day he’s gonna lose the fight”
いつか彼は戦いに敗れるだろう

4. 歌詞の考察

「Time Bomb」の歌詞は、一見ストーリーテリングのような形式を取りながらも、実際にはストリートに生きる“名もなき若者たち”の集合的ポートレートを描いています。主人公はどこにでもいるような少年であり、何かに巻き込まれ、何かから逃げながら、今日をサバイブしているだけの存在です。

「He’s just a kid, livin’ under the street」というラインには、非行や犯罪を“選んだ”わけではなく、“選ばされた”という社会構造への皮肉が込められています。
そのうえで「the boy’s a time bomb」というサビのリフレインは、彼がいずれ暴力的な末路を迎えるであろうという破滅的な運命の比喩であり、同時に彼がこの社会にとって“何かを爆発させる存在”になる可能性をも暗示しています。

また、スタッカート気味に畳みかけるヴォーカルと跳ねるスカビートの組み合わせにより、この暗い物語が**“踊れる抵抗”として昇華されている**点も見逃せません。悲劇的であるはずの内容が、音楽としてのエネルギーに変換される構造こそ、Rancidの真骨頂なのです。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “Sound System” by Operation Ivy
    ティム・アームストロングがかつて在籍していた伝説のスカパンクバンドの代表曲。

  • Roots Radicals” by Rancid
    同アルバム収録。レゲエとパンクの融合が美しい「音楽への愛の讃歌」。

  • “Mirror in the Bathroom” by The Beat
    英国スカの代表格による、人間の孤独を踊れるビートで包んだ名曲。

  • “Wrong Way” by Sublime
    家庭崩壊と自己破壊をスカパンクで描く、哀しみと陽気さが混在する一曲。

  • “Gangsters” by The Specials
    ギャングと政治、音楽と暴力をスカで描いた元祖反骨スカの決定版。

6. “踊るリアル”:Rancidが描いたスカパンクの社会詩

「Time Bomb」は、単なるポップなスカパンクヒットではなく、社会のはざまで生きる若者の肖像を軽快なリズムに乗せて描いた、れっきとした現代詩です。ティム・アームストロングの歌詞は決して説教的ではなく、むしろあくまでその“存在を描くこと”に徹しており、リスナーに考えさせる余白を残しています。

この曲を聴いて楽しくなるのは、曲の表面だけを捉えた結果ではなく、現実のなかでも希望やリズムを見つけようとする人間の本能に呼応しているからこそなのです。

Rancidの「Time Bomb」は、パンクの怒りとスカのリズムが融合した奇跡のような1曲であり、絶望をビートで跳ね返す、音楽としてのレジスタンスそのもの。
それは、路地裏の片隅で光る、ひとつの爆弾のように——確かに鳴り続けています。

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