1. 歌詞の概要
「Through Being Cool」は、Devoが1981年に発表したアルバム『New Traditionalists』のオープニングを飾る楽曲である。タイトルを直訳すれば「カッコつけるのはもう終わり」という意味であり、歌詞全体を通して「クールぶることへの拒絶」と「偽りのイメージを脱ぎ捨てる決意」が描かれている。
彼らが風刺するのは、80年代初頭に台頭した商業主義的な音楽やファッション、そして「カッコよさ」そのものを追い求める文化である。Devoはこの曲で、「表面的なスタイルや態度ではなく、真実を直視し、退化した現実を変えるために行動しろ」と訴えている。軽快なサウンドに乗せながらも、そのメッセージは過激であり、彼らの思想性を端的に表した曲といえる。
2. 歌詞のバックグラウンド
『New Traditionalists』は、前作『Freedom of Choice』(1980年)の商業的成功を受け、より大衆に知られるようになったDevoが、その立場を逆手に取り「ニュー・トラディショナリズム(新伝統主義)」というアイロニカルな概念を掲げて制作した作品である。
「Through Being Cool」はアルバムの先頭に置かれたことで、「Devoは大衆受けを狙って媚びるバンドではない」という宣言的役割を担った。実際、彼らは当時ポップ化したニューウェイヴ・シーンやMTV文化の「スタイル偏重」に対して批判的であり、この曲はそうした空気へのアンチテーゼとして機能していた。
シングルとしてもリリースされ、全米シングルチャートで93位と大ヒットには至らなかったが、ファンの間では「Devo流のマニフェスト」として長く愛されている。また、同年の映画『Heavy Metal』のサウンドトラックにも収録され、当時のカルチャーの一部として広く認知されることになった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
(歌詞引用元:Devo – Through Being Cool Lyrics | Genius)
We’re through being cool
俺たちはもうカッコつけるのをやめた
Eliminate the ninnies and the twits
間抜けや愚か者どもを排除するんだ
We’re through being cool
俺たちはもうカッコつけるのをやめた
This is a time of hands on hips
今は腰に手を当てて構える時だ
Now go and beat them to a pulp
さあ、奴らを叩きのめせ
Suburban robots monitor reality
郊外のロボットどもが現実を監視している
直訳的なメッセージの強さと、Devoらしい風刺的なユーモアが共存している。
4. 歌詞の考察
「Through Being Cool」は、Devoの哲学「退化論(De-evolution)」を背景にしつつ、同時代の音楽シーンや消費文化を直接的に批判した楽曲である。歌詞はシンプルかつ攻撃的で、「クールを気取ること」は退化の象徴であり、偽りの同調にすぎないと断じている。
「Eliminate the ninnies and the twits」というフレーズには、「表層的にカッコつけているだけの愚か者どもを排除する」という苛烈なメッセージが込められている。これは単なる攻撃性ではなく、「退化を食い止めるためには見せかけの文化を打破する必要がある」というバンドの思想を反映している。
また、「Suburban robots monitor reality(郊外のロボットが現実を監視している)」というラインは、同時代の停滞した郊外社会と監視的な日常を風刺しており、Devoが一貫して提示してきた「システムに取り込まれた人間像」の延長線上にある。
音楽的には、シンセサイザーとギターの鋭いリフが交錯するニューウェイヴらしいサウンドであり、従来のDevoの冷徹さにパンキッシュなエネルギーが加わっている。この楽曲をアルバムの冒頭に置いたことで、Devoは「商業的成功後もなお、妥協せず戦う姿勢」を明確にしたのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Freedom of Choice by Devo
社会批評をキャッチーなポップに昇華した代表曲。 - Beautiful World by Devo
「美しい世界」を皮肉に歌う、同じく『New Traditionalists』収録曲。 - Jocko Homo by Devo
Devo思想の原点とも言える「退化論」のアンセム。 - Burning Down the House by Talking Heads
消費社会を皮肉りつつダンス・ミュージックとして成立させたニューウェイヴ名曲。 - This Is Not a Love Song by Public Image Ltd.
表面的なスタイルや商業化を批判するポストパンクの代表曲。
6. 「Through Being Cool」の象徴性
「Through Being Cool」は、Devoが「ポップ化したニューウェイヴ・バンド」というイメージを拒否し、再びラディカルな批評性を取り戻すための宣言的アンセムであった。
「カッコつけをやめる」というメッセージは、音楽業界や社会に対する皮肉であると同時に、リスナー個人に「偽りの姿勢を脱ぎ捨て、自分の本質と向き合え」と突きつける呼びかけでもある。
結果として「Through Being Cool」は、Devoが「退化論」というコンセプトを単なるアート的アイデアに留めず、時代の文化批評へとつなげた重要曲であり、彼らのキャリアの中で最もアジテーション性の強いナンバーのひとつとして位置づけられている。
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