アルバムレビュー:This Is What It Feels Like by Gracie Abrams

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2021年11月12日

ジャンル:インディーポップ、ベッドルームポップ、フォークポップ、オルタナティブポップ、シンガーソングライター

概要

Gracie Abramsの『This Is What It Feels Like』は、2021年に発表されたプロジェクトであり、2020年のデビューEP『minor』で提示された内省的なソングライティングを、より広いスケールと多様な感情の振れ幅へ拡張した作品である。厳密にはフル・アルバムというよりもプロジェクト/ミックステープ的な位置づけで語られることが多いが、彼女のキャリアにおいてはきわめて重要な作品であり、後の『Good Riddance』へ向かう橋渡しとして機能している。

『minor』では、失恋、謝罪、自己嫌悪、未練が、非常に近い距離の声と最小限のプロダクションによって描かれていた。『This Is What It Feels Like』では、その親密さを保ちながらも、感情の種類がより増えている。恋愛の終わりだけでなく、友人関係、孤独、不安、成長、相手との距離、記憶の整理、自己理解の難しさが、曲ごとに異なる角度から描かれる。タイトルの「This Is What It Feels Like」は、「これがそれを感じるということ」という意味を持ち、明確な結論ではなく、感情のただ中にいる状態をそのまま示している。

Gracie Abramsの音楽の特徴は、劇的な出来事よりも、出来事の後に残る心理の細部を描く点にある。彼女の曲では、大きな別れの瞬間そのものよりも、その後に何度も思い返す会話、相手の部屋の記憶、返信できなかったメッセージ、自分の言葉への後悔、友人に話しながらも整理できない感情が重要になる。『This Is What It Feels Like』は、そのような「感情がまだ固まっていない時間」を音楽化した作品である。

音楽的には、ベッドルームポップ的な親密さ、フォークポップの柔らかさ、インディーポップの透明感、控えめなエレクトロニック・プロダクションが組み合わされている。ピアノやアコースティック・ギターを中心にした曲も多いが、『minor』よりもリズムや音響の幅が広がり、曲ごとの表情が明確になっている。派手なポップ・アンセムは少ないが、サビのメロディや声の重なりには、より大きな場所へ届くポップ感覚が芽生えている。

本作で特に重要なのは、Gracie Abramsの声の距離感である。彼女の歌唱は、大きく張り上げるタイプではない。むしろ、息遣い、ためらい、語尾の揺れ、少し低く沈むトーンによって感情を伝える。声はリスナーのすぐそばに置かれ、まるで電話越しや深夜の会話のように響く。そのため、曲の感情は大げさに演出されるのではなく、すぐ隣で起きていることのように感じられる。

歌詞の面では、『minor』から続く自己分析の鋭さがさらに深まっている。Gracie Abramsの語り手は、自分を完全な被害者として描かない。相手を恋しく思いながら、自分が相手を傷つけた可能性も見つめる。関係を終わらせたいのに、終わってほしくない。忘れたいのに、記憶を手放したくない。誰かに頼りたいのに、頼りすぎる自分が嫌になる。こうした矛盾が、本作の中心にある。

『This Is What It Feels Like』は、2020年代初頭の若い世代のシンガーソングライター作品としても重要である。Billie Eilish以降のささやくようなポップ表現、Phoebe Bridgers以降の内省的で自己批判的な歌詞、Taylor Swiftの『folklore』『evermore』以降の静かな物語性、Clairoやbeabadoobeeに通じるベッドルームポップ以降の親密さと同じ時代感覚を共有している。ただし、Gracie Abramsの特徴は、非常に素直な言葉で複雑な感情を表す点にある。彼女の歌詞は難解な比喩で飾られるより、日常的な言葉の積み重ねによって痛みを生む。

本作は、若い恋愛の記録であると同時に、自己認識のアルバムでもある。誰かとの関係を通じて、自分の未熟さ、依存、怖さ、優しさ、冷たさを知っていく。その過程は美しいだけではなく、非常に気まずく、苦しい。『This Is What It Feels Like』は、その気まずさを隠さない。むしろ、感情がきれいにまとまらない状態こそを、作品の中心に据えている。

全曲レビュー

1. Feels Like

オープニング曲「Feels Like」は、本作のタイトルにも通じる重要な楽曲であり、Gracie Abramsの新しい段階を示す一曲である。『minor』の多くの曲が後悔や謝罪の内側へ沈んでいたのに対し、この曲には、誰かと一緒にいることで世界が少し変わって見えるような柔らかな高揚感がある。タイトルの「Feels Like」は、言葉にしきれない感覚そのものを指している。

音楽的には、穏やかなギターと軽いリズムが中心で、全体に風通しがある。彼女の声は近いが、閉じた部屋の中だけでなく、少し外へ開かれているように響く。メロディには自然な推進力があり、恋愛や友情の中で生まれる小さな幸福を、過剰に飾らずに表現している。

歌詞では、相手と一緒にいるときの安心感や、説明できない親密さが描かれる。これは大げさな運命の恋というより、相手と過ごす時間の中でふと感じる「これが自分の欲しかったものかもしれない」という感覚に近い。Gracie Abramsは、その微妙な感情を非常に控えめに歌う。

「Feels Like」は、本作の入口として重要である。前作『minor』の痛みを引き継ぎながらも、ここには少し明るい空気がある。しかし、その明るさは単純な幸福ではない。壊れやすい関係の中で、それでも一瞬だけ確かに感じられる親密さである。この不安定な幸福が、アルバム全体の基調を作っている。

2. Rockland

「Rockland」は、本作の中でも特に感情の深いバラードであり、Gracie Abramsのソングライティングの成長を強く感じさせる楽曲である。タイトルの「Rockland」は地名のようにも、心の中にある特定の場所のようにも響く。曲全体には、相手との距離、記憶の場所、戻れない時間への痛みが漂っている。

音楽的には、静かなピアノと控えめなアレンジが中心で、Gracieの声が非常に近くに置かれている。曲は大きく展開しすぎず、淡々と感情を積み重ねる。だからこそ、歌詞の一つひとつが強く響く。声の小ささが、感情の大きさを逆に際立たせている。

歌詞では、相手に対する未練と、自分自身の過去の振る舞いへの後悔が描かれる。Gracie Abramsの特徴である自己批判的な視点がここでも強く表れている。彼女は相手を失った悲しみだけを歌うのではなく、自分がなぜその関係をうまく扱えなかったのかを考え続ける。その反芻が曲全体を支配している。

「Rockland」は、単なる失恋バラードではない。これは、ある場所や記憶が、関係の象徴として心に残り続けることを歌った曲である。人は相手を忘れようとしても、特定の場所、季節、部屋、道によって記憶を呼び戻される。この曲は、その記憶の地理を非常に繊細に描いている。

3. For Real This Time

「For Real This Time」は、タイトルからして、何度も繰り返してきた関係に終止符を打とうとする意志が感じられる楽曲である。「今度こそ本当に」という言葉には、過去に何度も別れようとしながら戻ってしまった経験が含まれる。そのため、この曲には決意と不信が同時にある。

音楽的には、軽やかなリズムとポップなメロディがあり、比較的聴きやすい曲である。しかし、歌詞の内容は決して軽くない。サウンドの明るさによって、むしろ語り手が自分を奮い立たせようとしているように聴こえる。Gracieの声は柔らかいが、その中には疲れと諦めも含まれている。

歌詞では、関係を終わらせることの難しさが描かれる。終わるべきだと分かっていても、感情は簡単には従わない。相手を手放すと決めても、心の中ではまだ期待してしまう。この曲の「for real this time」という言葉は、強い宣言であると同時に、自分に言い聞かせる言葉でもある。

この曲の重要な点は、別れが一度の出来事ではなく、何度も試みられるプロセスとして描かれていることである。現代的な恋愛では、関係が明確に終わらず、連絡、再会、未練、沈黙を繰り返すことが多い。Gracie Abramsは、その曖昧な終わり方を非常に自然に捉えている。

4. Camden

「Camden」は、本作の中でも特に繊細で、自己認識の痛みが強く表れた楽曲である。タイトルは地名を思わせるが、曲の中心にあるのは、場所そのものというより、ある時期の自分や関係を思い出す感覚である。Gracie Abramsの楽曲では、地名や場所が感情の記憶装置として機能することが多く、この曲もその一例である。

音楽的には、静かなピアノと柔らかな音響が中心で、非常に内向的な空気を持つ。彼女の声はほとんど独白のように響き、聴き手は個人的な日記を読んでいるような感覚になる。サウンドは控えめだが、緊張感は強い。

歌詞では、自分がどれほど不安定で、自分自身をうまく扱えないかが描かれる。相手との関係だけでなく、自分自身との関係が問題になっている。Gracie Abramsの音楽では、恋愛の痛みがしばしば自己理解の問題へ接続される。なぜ自分はこう感じるのか、なぜ同じことを繰り返すのか、なぜ相手に依存してしまうのか。その問いが曲の背後にある。

「Camden」は、派手なフックで聴かせる曲ではないが、Gracie Abramsの作詞家としての誠実さが強く出ている。自分の弱さを美化しすぎず、しかし冷たく切り捨てることもない。その中間の苦しい場所に立っている曲である。

5. The Bottom

「The Bottom」は、関係や精神状態の底に落ちる感覚を描いた楽曲である。タイトルの「bottom」は、底、最下点、これ以上落ちる場所がない状態を意味する。Gracie Abramsはここで、恋愛や自己認識が最も苦しい地点へ向かう瞬間を、比較的ポップなサウンドの中で描いている。

音楽的には、ビートがやや前に出ており、本作の中ではリズムの存在感が強い曲である。暗いテーマを扱いながらも、曲は重く沈みすぎず、ポップとしての軽やかさも持つ。このバランスが、Gracieの音楽の特徴の一つである。痛みはあるが、曲は完全には崩れない。

歌詞では、関係が悪化していく過程や、自分の感情が制御できなくなる感覚が描かれる。底に落ちるということは、終わりのようでありながら、同時にそこからしか見えないものがあるということでもある。語り手は苦しみながら、自分と相手の関係を見つめ直している。

「The Bottom」は、Gracie Abramsの自己分析的な歌詞とポップ感覚がうまく結びついた楽曲である。深刻なテーマを、重いバラードではなく、少し動きのあるサウンドで表現することで、感情の混乱がより現代的に響く。落ち込んでいるのに日常は続いていく、その感覚がここにはある。

6. Wishful Thinking

「Wishful Thinking」は、タイトル通り、希望的観測、都合のよい期待、現実には起こらないかもしれないことを信じたい心理を描いた楽曲である。Gracie Abramsの歌詞世界では、相手が戻ってくるかもしれない、自分たちはまだ終わっていないかもしれないという小さな期待が、しばしば痛みの原因になる。この曲はその心理を正面から扱っている。

音楽的には、穏やかで柔らかなポップソングであり、メロディには切なさがある。サウンドは明るすぎず暗すぎず、曖昧な期待の状態をよく表している。Gracieの声は、希望を持ちたい気持ちと、その希望が幻想かもしれないと分かっている諦めの間で揺れる。

歌詞では、現実を直視できない語り手の心情が描かれる。人は関係が終わったとき、相手の小さな行動や言葉に意味を見出そうとする。返信が来た、目が合った、まだ何か残っているかもしれない。そうした期待は、心を支える一方で、前へ進むことを妨げる。「Wishful Thinking」は、その甘さと危険を描いている。

この曲の重要な点は、希望を完全に否定しないところにある。希望的観測は愚かかもしれないが、傷ついた人間にとっては必要な時間でもある。Gracie Abramsは、その未練を批判するのではなく、未練の中にいる人間の状態を丁寧に歌う。

7. Older

「Older」は、成長、時間、関係の変化をテーマにした楽曲である。タイトルの「older」は、年を取ること、経験を積むこと、大人になっていくことを意味する。しかしこの曲で描かれる成長は、単純な成熟や前進ではない。むしろ、年を重ねてもなお感情の扱い方が分からないという現実がある。

音楽的には、落ち着いたテンポと控えめなアレンジが特徴で、非常に内省的な雰囲気を持つ。Gracieの歌唱は静かで、過去を振り返るように響く。曲全体に、若さを少し離れた場所から見つめるような空気がある。

歌詞では、以前の自分と現在の自分の違いが描かれる。時間が経てば自然に賢くなると思っていたのに、実際には同じような不安や未練を抱えている。成長とは、すべてを解決することではなく、自分の弱さをよりはっきり認識することかもしれない。この曲は、その苦い認識を含んでいる。

「Older」は、本作の中でも特に成熟したテーマを持つ曲である。Gracie Abramsは、若い感情を歌いながらも、その感情を少し距離を置いて見つめる力を持っている。この距離感が、後の『Good Riddance』でさらに深まる自己分析へつながっていく。

8. Better

「Better」は、タイトル通り「より良くなること」「より良い人になること」をめぐる楽曲である。Gracie Abramsの楽曲では、相手との関係の中で、自分がどう変わるべきだったのか、自分はもっと優しくできたのではないかという問いが繰り返される。この曲も、その自己改善への願望と苦しさを描いている。

音楽的には、ミニマルなアレンジと柔らかなメロディが中心で、声のニュアンスが強く伝わる。曲は大きく盛り上がるよりも、静かに感情を積み重ねていく。Gracieの声には、謝罪と諦めが混ざっている。

歌詞では、自分がもっと良くなれたかもしれないという後悔が描かれる。相手のために変わりたい、自分のために変わりたい、しかし簡単には変われない。その葛藤が曲の中心にある。「better」という言葉は前向きに見えるが、この曲ではむしろ、自分が十分ではなかったという痛みを含んでいる。

この曲の重要な点は、自己改善の願望が必ずしも健全なものとして描かれていないことである。誰かに愛されるために「良く」なろうとすることは、ときに自分を責め続けることにもなる。Gracie Abramsは、その危うさを静かに表現している。

9. Hard to Sleep

「Hard to Sleep」は、不安、後悔、考えすぎによって眠れない状態を描いた楽曲である。タイトルは非常に日常的だが、Gracie Abramsの音楽では、こうした日常的な身体の反応が感情の核心として扱われる。眠れないことは、心が整理できていないことの表れである。

音楽的には、静かな夜の空気を感じさせるアレンジが特徴である。柔らかな音色と控えめなビートが、眠れない部屋の感覚を作る。Gracieの声は低く近く、深夜に頭の中で同じ考えが回り続けるように響く。

歌詞では、相手のこと、自分の行動、関係の終わりが頭から離れない状態が描かれる。夜は、昼間には抑え込めていた感情が浮かび上がる時間である。誰かと話すこともできず、ただ自分の思考と向き合うしかない。その閉塞感が、この曲にはよく表れている。

「Hard to Sleep」は、本作の親密な魅力を象徴する楽曲である。大きな事件は起きていない。ただ眠れないだけである。しかし、その眠れなさの中に、恋愛や不安や自己嫌悪のすべてが詰まっている。Gracie Abramsは、そうした小さな身体感覚を通じて感情を描くことに長けている。

10. Augusta

「Augusta」は、地名をタイトルにした楽曲であり、記憶と場所の関係を扱っている。Gracie Abramsの曲において、地名はしばしば特定の感情を保存する器として機能する。「Augusta」もまた、単なる地理ではなく、ある時期、ある関係、ある自分を思い出させる場所として響く。

音楽的には、穏やかでフォークポップ的な質感があり、アコースティックな響きが印象的である。曲は静かに進み、声とメロディが自然に感情を運ぶ。大きな展開はないが、余韻が深い。

歌詞では、場所に結びついた記憶が描かれる。ある町や道や部屋は、そこにいた人や感じたことを保存してしまう。時間が経っても、地名を聞くだけで心が戻されることがある。この曲は、そのような記憶の作用を穏やかに表現している。

「Augusta」は、本作の中で特にフォーク的な美しさを持つ曲である。Gracie Abramsの歌詞は非常に現代的だが、この曲には古典的なシンガーソングライター作品に通じる場所への感受性がある。個人的な記憶を、地名という小さな器に入れて残す曲である。

11. Painkillers

「Painkillers」は、痛み止めを意味するタイトルの楽曲である。ここでの痛み止めは、身体的な薬であると同時に、感情の痛みを一時的に麻痺させるものの比喩として機能している。恋愛、孤独、不安からくる痛みを、何かで一時的に和らげたいという欲望が曲の中心にある。

音楽的には、柔らかいがどこか不穏な質感があり、メロディには疲れたような美しさがある。Gracieの声は、痛みを感じている人間というより、痛みを感じないようにしている人間のように響く。その抑制された歌唱が、曲のテーマに合っている。

歌詞では、感情を鈍らせたい心理が描かれる。痛みを完全に解決するのではなく、とりあえず感じなくしたい。これは現代的なメンタルヘルスや恋愛の文脈でも非常に身近な感覚である。人は時に、根本的な解決よりも一時的な麻酔を求める。

この曲の重要な点は、その麻酔が救済として描かれていないことだ。痛み止めは痛みを消すかもしれないが、原因をなくすわけではない。Gracie Abramsはそのことを分かっているように歌う。だからこそ、曲には安堵と空虚が同時にある。

12. Alright

「Alright」は、アルバムを締めくくる楽曲であり、タイトルは「大丈夫」という意味を持つ。しかしGracie Abramsの世界において、「alright」は完全な回復や幸福を意味するわけではない。むしろ、まだ傷は残っているが、それでもなんとかやっていくという控えめな肯定として響く。

音楽的には、静かで穏やかな終曲であり、過度なクライマックスはない。声とメロディがゆっくりと余韻を作り、アルバムは大きな結論ではなく、柔らかい未解決の感覚の中で終わる。これは本作にふさわしい終わり方である。

歌詞では、自分に言い聞かせるように、大丈夫であろうとする姿勢が描かれる。ここで重要なのは、本当に完全に大丈夫なのではなく、大丈夫になる途中にいることだ。Gracie Abramsの楽曲では、感情が一気に解決することは少ない。むしろ、少しずつ受け入れ、少しずつ眠れるようになり、少しずつ相手のことを考えない時間が増える。その過程が大切にされる。

「Alright」は、本作全体の余韻を静かにまとめる楽曲である。『This Is What It Feels Like』は、痛みや不安を消し去る作品ではない。しかし最後に、完全ではなくても生き延びる感覚が残る。その控えめな希望が、このアルバムの誠実さを支えている。

総評

『This Is What It Feels Like』は、Gracie Abramsが『minor』で提示した親密な失恋の表現を、より広い感情の地図へ拡張した重要作である。ここには、恋愛の後悔、相手への未練、自己嫌悪、成長への戸惑い、眠れない夜、場所に残る記憶、一時的な麻酔としての逃避、そして完全ではない回復が描かれている。タイトル通り、本作は「これが感じるということだ」と言うための作品であり、明確な答えよりも、感情の実感そのものを重視している。

本作の最大の魅力は、感情を結論へ急がせない点にある。多くのポップ作品では、失恋や不安は最終的に克服や自己肯定へ向かう。しかしGracie Abramsは、その途中の曖昧な時間を大切にする。まだ相手を思い出す。まだ自分を責める。まだ眠れない。まだ大丈夫ではないが、大丈夫になろうとしている。この途中の状態が、本作のリアリティである。

音楽的には、ベッドルームポップ的な近さを保ちながら、前作よりも曲の表情が広がっている。「Feels Like」や「For Real This Time」には軽やかなポップ感があり、「Rockland」「Camden」「Hard to Sleep」には深い内省があり、「Augusta」や「Alright」にはフォーク的な余韻がある。どの曲も大きく派手ではないが、声、言葉、余白の使い方によって、感情の濃度が保たれている。

Gracie Abramsの歌詞は、非常に会話的である。難解な比喩や大げさな詩的装飾よりも、日常の中で実際に考えてしまうような言葉が中心になる。そのため、曲はまるで友人の長いメッセージや、自分のメモアプリに残した文章のように響く。しかし、その平易さは単純さではない。むしろ、誰もが使う言葉の中に、言えなかった感情を掘り出す力がある。

本作では、彼女の自己批判的な視点もさらに明確になっている。Gracie Abramsの語り手は、相手に傷つけられたと同時に、自分も関係を壊したかもしれないと考える。自分の未熟さ、依存、逃避、都合のよい期待を見つめる。そのため、彼女の失恋ソングは単なる被害の歌ではなく、関係の中で自分がどう存在していたのかを問う自己分析の歌になる。

『This Is What It Feels Like』は、後の『Good Riddance』への重要な前段階でもある。『Good Riddance』では、Aaron Dessnerのプロダクションのもと、より統一された音像と深い内省が展開されるが、その土台は本作にある。特に「Rockland」「Camden」「Augusta」などに見られる場所と記憶の結びつき、自己責任へのまなざし、抑制された歌唱は、後の作品へ直接つながっている。

日本のリスナーにとって本作は、歌詞の微妙な心理描写を追うことでより深く味わえる作品である。ただし、英語詞を完全に理解しなくても、声の近さ、音の少なさ、メロディの揺れから、感情の輪郭は十分に伝わる。特に、恋愛や友人関係の後に何度も同じ会話を思い返してしまうような経験を持つリスナーには、本作の静かな痛みが強く響く。

総じて『This Is What It Feels Like』は、Gracie Abramsの初期キャリアにおける重要な成長作である。『minor』の脆さを受け継ぎながら、より広い感情、より豊かな音像、より深い自己分析へ進んだ作品であり、彼女が単なるベッドルームポップの新人ではなく、現代の若い感情を非常に細やかに記録できるソングライターであることを示している。完全に癒えたわけではなく、完全に壊れたわけでもない。その間にある感情を丁寧に鳴らした、静かで誠実な作品である。

おすすめアルバム

1. Gracie Abrams – minor(2020)

Gracie AbramsのデビューEPであり、『This Is What It Feels Like』の原点となる作品である。失恋、謝罪、自己嫌悪、未練を、非常に近い声とミニマルな音像で描いている。「I miss you, I’m sorry」など、彼女の初期の魅力を理解するうえで欠かせない楽曲を収録している。

2. Gracie Abrams – Good Riddance(2023)

Gracie Abramsの初フル・アルバムであり、本作で広がった内省的なソングライティングが、より統一された音像と深い自己分析へ発展している。Aaron Dessnerのプロダクションにより、フォークポップとインディーポップの静かな緊張が強調された重要作である。

3. Phoebe Bridgers – Punisher(2020)

内省的な歌詞、自己批判、静かなサウンド、親密なヴォーカル表現において、Gracie Abramsと強く響き合う作品である。Phoebe Bridgersの方がより文学的で暗いユーモアを持つが、感情を大げさにせず、細部から描く姿勢に共通点がある。

4. Taylor Swift – folklore(2020)

静かなプロダクション、物語性、記憶と関係の描写という点で、Gracie Abramsの作風とも関連が深い作品である。Taylor Swiftはより物語的で構成力の大きな作家だが、日常的な言葉で感情の複雑さを描く点に共通する魅力がある。

5. Clairo – Sling(2021)

ベッドルームポップ以降の親密さから、より成熟したフォークポップ/シンガーソングライター的な音像へ進んだ作品である。Gracie Abramsの静かな感情表現や、内向的なサウンドを好むリスナーにとって、近い質感を持つ作品として聴く価値が高い。

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