発売日: 2021年11月12日
ジャンル: インディーポップ、シンガーソングライター
アルバム全体の印象
グレイシー・エイブラムスのThis Is What It Feels Likeは、彼女のデビューEPminorの流れを受け継ぎつつ、より成熟した音楽性を示す作品だ。前作で見られた親密なサウンドはそのままに、より洗練されたプロダクションと広がりのある感情表現が際立つ。恋愛や喪失、孤独、そして自己発見といったテーマが、繊細な歌詞とともに描かれている。
プロデューサー陣には、アーロン・デスナー（ザ・ナショナル）やジョエル・リトルといった重鎮が再び参加。彼らの手によるミニマルで洗練されたアレンジが、グレイシーの歌声を引き立てている。彼女の透明感のある歌声と、詩的で内省的な歌詞が絶妙に組み合わさり、リスナーに深い感情の共鳴を与える作品となっている。
全体を通して、一人のアーティストとしての成長が感じられるこのアルバムは、彼女の心の奥底を覗き見るような親密さと同時に、普遍的なテーマを通してリスナーとつながる力を持っている。
各曲ごとの解説
1. Feel Like
アルバムの幕開けを飾るこの曲は、穏やかなピアノとグレイシーの柔らかい歌声が特徴的だ。恋愛の微妙な感情の揺れをテーマにしており、「This is what it feels like」というフレーズが、アルバム全体のテーマを象徴している。
2. Rockland
アーロン・デスナーの影響を感じさせるミニマルなギターリフと、親密な歌詞が際立つ一曲。遠距離恋愛や心の距離をテーマにした歌詞が切なく響く。「You were my rock, but I’m stuck in quicksand」というラインが胸に刺さる。
3. For Real This Time
シンプルなアコースティックギターとストリングスが絡み合う美しい楽曲。恋愛の終わりを受け入れる過程を描いた歌詞が、静かに心に響く。「I’ll let you go for real this time」というフレーズが、苦渋の決断を象徴している。
4. Camden
ニューヨークを舞台にしたこの曲は、ノスタルジックな雰囲気が漂う。軽やかなメロディにのせて、過去の思い出や失われた関係を振り返る歌詞が印象的だ。「Camden in the rain」というフレーズが情景を鮮やかに描き出す。
5. The Bottom
アップテンポなリズムが特徴の楽曲で、アルバムの中では比較的エネルギッシュな一曲。心の中の葛藤や、自己受容の難しさを描いた歌詞が核心を突いている。
6. Difficult
感情的なボーカルとシンプルなピアノアレンジが際立つ楽曲で、孤独感や不安がテーマになっている。「It’s difficult to love me when I’m difficult」というフレーズが、自身への葛藤を象徴している。
7. Feels Like
シングルとしてもリリースされたこの曲は、グレイシーの音楽の親しみやすさを表している。軽やかなビートとメロディアスなフックが特徴的で、恋愛の初期の高揚感が描かれている。
8. Alright
この楽曲は、自己慰めや前向きな感情を描いた一曲だ。歌詞には希望が込められており、「It’ll be alright」というリフレインが、アルバム全体に明るい光をもたらすようだ。
9. Wishful Thinking
幻想や期待がテーマのこの楽曲は、切なさと美しさが同居している。グレイシーの歌声が感情の深みを際立たせており、「Was it only wishful thinking?」というフレーズが印象に残る。
10. Amelie
アルバムを締めくくるこの曲は、シンプルで静謐なアレンジが印象的。過去の記憶と向き合いながら、それを受け入れる心のプロセスを描いている。「Amelie, I hope you’re happy now」というラインが、穏やかな余韻を残す。
特筆すべきテーマ：感情の多層性
This Is What It Feels Likeは、感情の多層性を描き出した作品だ。グレイシー・エイブラムスは、シンプルなメロディと詩的な歌詞を通じて、リスナーが自分の感情と向き合うきっかけを与えている。恋愛や喪失といったテーマにとどまらず、自己受容や心の葛藤といったより深いテーマも掘り下げられている。
アルバム総評
This Is What It Feels Likeは、グレイシー・エイブラムスがアーティストとしての成熟を見せた作品だ。彼女の歌声、詩的な歌詞、そして洗練されたプロダクションが一体となり、深い感情の渦にリスナーを引き込む。前作よりも幅広い音楽性が感じられつつも、親密さはそのまま保たれており、彼女の音楽の核となる魅力がさらに洗練されている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Sling by Clairo
繊細な歌詞と親密なサウンドが共通しており、感情の深みを楽しめる作品。
Punisher by Phoebe Bridgers
内省的なテーマと詩的な歌詞が共通点。グレイシーファンにも響くアルバム。
Evermore by Taylor Swift
ミニマルなアレンジとストーリーテリングが魅力で、共感できる部分が多い。
Blue Weekend by Wolf Alice
感情の多層性と音楽的な冒険心が、このアルバムと共通している。
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