アルバムレビュー：They Only Come Out at Night by Edgar Winter Group

アルバムレビュー

2025.04.21

発売日: 1972年11月
ジャンル: ハードロック、グラムロック、ブルースロック

ジャンルの垣根を超えたハイブリッド・ロックの結晶
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
- 関連記事:

ジャンルの垣根を超えたハイブリッド・ロックの結晶

『They Only Come Out at Night』は、Edgar Winter Groupが1972年に発表したハードロック／グラムロックの金字塔であり、キャッチーさと実験性を兼ね備えた名盤である。
白人アルビノのマルチ・インストゥルメンタリスト、エドガー・ウィンターを中心とし、兄ジョニー・ウィンターとは一線を画すポップな方向性を打ち出した作品だ。

このアルバムは、ブルースやジャズをバックグラウンドに持つ彼らが、当時隆盛を極めたグラムロックやハードロックの潮流と交わりながらも、独自のカラーを築いた好例である。
メンバーにはギタリストのロン・トゥリーマン、ドラマーのチャック・ラフ、そしてベースのダン・ハートマンがおり、個々のプレイヤビリティとアンサンブルのバランスが見事に融合している。

最大のヒット曲「Frankenstein」は、インストゥルメンタルながら全米1位を獲得し、ロック史上まれに見る異例の成功を収めた。
アルバム全体が、グルーヴ、遊び心、そして技巧に満ちている。

全曲レビュー

1. Hangin’ Around

軽快なピアノとファンキーなベースラインが特徴のオープニングナンバー。
都会的でグルーヴィーな雰囲気の中に、70年代初期のポップロックらしい気だるさも漂う。

2. When It Comes

ややサイケデリックな空気をまとったブルージーな楽曲。
ゆったりとしたテンポと抑制の効いたヴォーカルが、緊張感を醸し出している。

3. Alta Mira

ラテンのリズムとハーモニーが光るナンバー。
手拍子やホーンのアレンジにより、アルバムの中で異色ながら陽気なエネルギーを放っている。

4. Free Ride

キャッチーなコーラスと疾走感のあるギターリフが印象的な、グループ最大の代表曲のひとつ。
「自由な人生を手に入れろ」と歌うリリックは、70年代の若者文化と共鳴した。

5. Undercover Man

ミステリアスなメロディが展開する中期の佳曲。
都会の陰影を描くような大人びたムードがある。

6. Round & Round

ややダークなハードロック調の一曲。
ギターとオルガンの掛け合いが印象的で、アルバム全体の中でも硬派な楽曲に仕上がっている。

7. Rock ‘n’ Roll Boogie Woogie Blues

タイトル通り、ブギウギとブルースが混ざり合ったセッション風ナンバー。
陽気さとジャム感が心地よく、ライブでの即興性を感じさせる。

8. Autumn

メロトロンを用いた幻想的なバラード。
季節の移ろいを感じさせる繊細な音作りが美しく、アルバム内でも異彩を放っている。

9. We All Had a Real Good Time

ロックンロールの楽しさをストレートに伝える一曲。
パーティーチューン的な立ち位置で、肩の力を抜いた陽気さが魅力。

10. Frankenstein

複雑なリズムチェンジ、シンセサイザーの先鋭的な使用、異形的な構成美。
エドガー・ウィンターのマルチ演奏が冴えわたり、ロック・インストゥルメンタルの新境地を拓いた歴史的楽曲である。

総評

『They Only Come Out at Night』は、Edgar Winter Groupの創造性が頂点に達した作品であり、商業性と実験性を高次元で両立させた傑作である。
「Frankenstein」や「Free Ride」のような名曲がある一方で、アルバム全体を通して多様なジャンルを取り込みながらも、統一感のある世界観を保っている点が特筆に値する。

本作は、ハードロックの重厚感、グラムロックの華やかさ、ブルースの根源的な情熱をミクスチャーした異色の一枚であり、音楽的好奇心を刺激されたいリスナーには特におすすめだ。
1970年代アメリカのポップカルチャーの懐の深さと、ミュージシャンたちの技術と自由を感じられるアルバムなのだ。