
発売日: 2008年(USリリース)
ジャンル: インディーロック、ポストパンク・リバイバル、ダンス・ロック
概要
『The Wombats EP』は、リヴァプール出身の3人組バンド、The Wombatsが2008年にアメリカ市場向けに発表した5曲入りのEPであり、彼らのフルアルバム・デビュー作『A Guide to Love, Loss & Desperation』(2007)の勢いをそのままに、米国のインディーロック・ファンへの“名刺代わり”として放たれた重要な一作である。
本作は、UKでは既に評価を得ていたバンドが、ポストパンク・リバイバルの波が続く中で国際的な拡張を図った第一歩でもあり、The Wombats特有のユーモア、躁的なエネルギー、青春の焦燥感が詰まったトラックが並ぶ。
当時、Franz FerdinandやThe Killersといったバンドが人気を博していた中で、The Wombatsの音楽はより皮肉っぽく、コミカルでありながらダークな要素を内包しており、その“ギャップ”が若いリスナーを惹きつけていた。
本EPはその魅力をコンパクトにまとめたパッケージと言える。
全曲レビュー
1. Moving to New York
“君に会いたくないからニューヨークに行く”という逆説的なリリックが印象的なバンド初期の代表曲。
跳ねるようなギターリフとタイトなビートが、青春の逃避願望とユーモアを体現する。
2. Backfire at the Disco
タイトル通り、ディスコでの恋の失敗を描いたコミカルかつ切ないナンバー。
パーティーソング的なテンションと、孤独のにじむリリックが絶妙に交錯している。
3. Little Miss Pipedream
EP中最もスロウで内省的なトラック。
恋愛における期待と幻滅を、ストリングス風のギターとシンプルなリズムで描き出す。
バンドの“繊細さ”を垣間見せる佳作。
4. Lost in the Post
モダンライフに対するフラストレーションを、郵便というアナログなモチーフを使って風刺した楽曲。
テンポの速い展開と歯切れの良いボーカルが、ポストパンク的なカタルシスを生む。
5. Patricia the Stripper
タイトルの通り、脱線気味のストーリーと皮肉が満載の曲。
ストリッパーのパトリシアというキャラクターを通して、社会的通念や偏見を笑い飛ばすような力がある。
総評
『The Wombats EP』は、The Wombatsというバンドが持つ躁鬱のポップネスとナードなウィットを、きわめて効率よく詰め込んだ5曲入りの名刺代わりであり、アメリカ市場における彼らの存在感を確立するきっかけとなった。
2000年代後半のポストパンク・リバイバルの文脈に位置しながらも、その中で際立つのは抑圧されない明るさと滑稽なほどの切実さである。
Franz Ferdinandがダンスフロアの端正さを描くとすれば、The Wombatsはその隅っこでうまく踊れない人間たちの気まずさと衝動を肯定するバンドなのだ。
本EPはその本質をよく表しており、のちの作品群へと繋がるスタイルの原型がここにある。
“笑ってるけど泣きそう”という感情の輪郭を、ここまでエネルギッシュに鳴らせるバンドはそう多くない。
おすすめアルバム(5枚)
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A Guide to Love, Loss & Desperation / The Wombats
本EPに収録された曲の多くが収められたデビュー作。バンドの初期衝動が凝縮された名盤。 -
Employment / Kaiser Chiefs
ユーモアと英国労働者階級的な視点が融合した、The Wombatsと共鳴する2000年代UKロックの傑作。 -
Costello Music / The Fratellis
パブロック的テンションと軽やかな語り口が似ており、EPのテンポ感と通じる。 -
We Started Nothing / The Ting Tings
ダンサブルで反抗的、シンプルだけど強烈なメッセージ性が共通するデュオによる初期作。 -
Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not / Arctic Monkeys
同時代的空気とストリート感を強く持ち、Wombatsの初期世界観の背景理解にも役立つ名盤。
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