発売日: 2014年10月28日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ポストグランジ、ハードロック
概要
『The Turn』は、アメリカのロックバンドLiveが2014年にリリースした8作目のスタジオ・アルバムであり、Ed Kowalczyk脱退後に制作された唯一のフルアルバムとして、非常に特異な位置づけを持つ作品である。
本作では、元Unified Theoryのクリス・シャネル（Chris Shinn）が新たなリードシンガーとして加入。
バンドにとって“再起動”を意味する一枚となっており、タイトルの『The Turn』には、“曲がり角”、“反転”、“物語の転換点”などの意味が重ねられている。
Liveは1990年代から2000年代初頭にかけて、エド・コワルチックのスピリチュアルかつ情熱的なボーカルを軸に高い人気を誇ったが、内部分裂と方向性の違いを経て、
本作ではよりロック・バンドとしての再定義に挑む構成となっている。
音楽的には、ハードで直線的なロックサウンドを基調としながらも、Liveらしい叙情的メロディや内省的なトーンも残されており、
“新しいLive”の輪郭を模索する、挑戦と再構築の記録である。
全曲レビュー
1. Siren’s Call
重厚なギターリフと浮遊感あるサウンドで幕を開ける、バンド再生の狼煙。
“セイレーンの呼び声”というモチーフが、新たな旅立ちと誘惑の危うさを象徴する。
クリス・シャネルのボーカルが新風を吹き込む、説得力ある幕開け。
2. Don’t Run to Wait
疾走感あるビートと明快な構成が特徴のストレートなロックナンバー。
“待つために逃げるな”という逆説的なタイトルは、今を生きることへのメッセージとして響く。
3. Natural Born Killers
ややダークで挑発的なトーンを持つヘヴィチューン。
社会の暴力性と人間の本能をテーマにした、Liveとしては異色とも言える攻撃的な曲。
4. 6310 Rodgerton Dr.
実在するロサンゼルスの住所をタイトルにした、ノスタルジックな楽曲。
思い出、空間、時間の交差点としての“場所”を描いた叙情的な一曲で、アルバム中もっとも詩的なトーンを持つ。
5. By Design
エモーショナルなボーカルが主導するバラード調のトラック。
「運命づけられた愛」や「設計された痛み」という主題が、歌詞とメロディににじむ。
6. The Way Around Is Through
タイトルの意味は“迂回するには突き進むしかない”。
苦しみや葛藤を回避するのではなく、突き抜けることで乗り越えるという哲学的メッセージが込められた力強いロックソング。
7. Need Tonight
愛と欲望の狭間を描いた、ややメロウで艶やかな楽曲。
「今夜だけでいい」という切迫した情動が、サビの解放感と共に迫ってくる。
8. The Strength to Hold On
“耐え抜く力”というシンプルながら重いテーマを、穏やかな演奏と共に展開。
抑えたアレンジが歌詞の誠実さを際立たせ、後半に向けて感情が高まっていく。
9. We Open the Door
再生と赦しをテーマにした、アルバムの中核的な位置づけのバラード。
“扉を開ける”という比喩が、新章への意志と過去との和解を暗示する。
10. He Could Teach the Devil Tricks
ユーモラスでシニカルなタイトルとは裏腹に、切実な人間性が浮かび上がる一曲。
“悪魔にさえ教えられるほどの術”を持つ人物像が、カリスマと破滅の両面を象徴する。
11. Till You Came Around
恋愛や出会いによる“生の転回点”を、シンプルかつ明快に描いたポップロック・ナンバー。
希望に満ちたエンディングとして、アルバムを柔らかく締めくくる。
総評
『The Turn』は、Liveにとって再出発の“実験室”のような作品である。
カリスマ的フロントマンであったエド・コワルチックの不在は明らかに大きいが、
それでもこのアルバムは、残されたメンバーたちが“バンドとしての芯”を取り戻そうとする過程そのものを記録している点で意義深い。
音楽的には、1990年代のスピリチュアルで詩的なアプローチよりも、より現代的なハードロック寄りのサウンドが特徴。
クリス・シャネルのボーカルはコワルチックほどの神秘性はないが、その分、力強さと誠実さが前面に出ており、バンドとしての“再構築”を強く感じさせる。
ファンの中には「これはLiveではない」と感じる声もあった一方で、
「新しい声とともに、過去の影から脱した挑戦」として評価する向きも少なくなかった。
『The Turn』は、喪失と回復、更新と葛藤の記録であり、Liveという名のもとで何が守られ、何が変わったのかを知る上で欠かせない作品なのである。
おすすめアルバム
- Stone Temple Pilots『Stone Temple Pilots (2010)』
新ボーカルを迎えた再構築期の作品として、状況が酷似。 - Soundgarden『King Animal』
再結成後の作品であり、成熟したロックバンドの在り方を示す。 - Bush『The Sea of Memories』
ポストグランジ出身バンドの“再始動”における新たな方向性が近い。 - Filter『The Trouble with Angels』
エッジの効いたロックサウンドと内省的リリックが共通する。 - Audioslave『Audioslave』
別のフロントマンを迎えたスーパーグループとして、声とバンドの融合を模索した好例。
ファンや評論家の反応
『The Turn』は、Liveにとっても、ファンにとっても**“何がLiveなのか”を問い直す契機**となった。
ボーカル交代という大きな変化に対し、受容と拒絶の声が入り混じったのは当然であり、
商業的には控えめな成果にとどまったが、その中でも“これはこれで良い”と支持を寄せるファンも少なくなかった。
一方で、本作を最後にエド・コワルチックは2016年に再加入し、“クラシックLive”は復活することとなる。
つまり『The Turn』は、Liveという名のもとに生まれた“別の人格”の記録でもあり、
その振れ幅の大きさこそが、バンドの豊かさと苦悩の両方を物語っているのだ。
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