アルバムレビュー:The Search for Everything by John Mayer

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発売日: 2017年4月14日
ジャンル: ソフトロック、ブルースロック、アダルトコンテンポラリー


迷いと癒しのブルース——自己回帰のサウンドスケープ

The Search for Everythingは、ジョン・メイヤーにとってキャリア7作目となるスタジオ・アルバムであり、彼の音楽的ルーツとパーソナルな心象風景を結びつけた内省的な作品である。
2017年にリリースされたこのアルバムは、EP形式で2回に分けて先行配信され、最終的にフルアルバムとしてまとめられた。
本作では、ソウル、ブルース、フォーク、ポップといったジャンルをシームレスに行き来しながらも、アルバム全体には穏やかな一貫性が流れている。

過去の名作Continuumのようなギタリストとしての鋭さと、Born and Raisedに見られるフォーキーな成熟が融合し、恋愛、失恋、孤独、そして癒しといったテーマが繊細なタッチで描かれている。
スタジオには、名手スティーヴ・ジョーダン(ドラム)やピノ・パラディーノ(ベース)が参加し、トリオ時代のファンにも馴染み深い音像が復活している点も注目である。


全曲レビュー

1. Still Feel Like Your Man

ファンキーなリズムとソウルフルなメロディが交錯する、軽快かつ切ないオープナー。
「I still keep your shampoo in my shower」といった歌詞が、別れた相手への未練をリアルに描く。

2. Emoji of a Wave

波のように寄せては返す感情の起伏を、静かなアコースティックギターと優しいコーラスで表現。
回復の過程での揺らぎと希望が繊細に織り込まれている。

3. Helpless

スティーヴィー・レイ・ヴォーンを思わせるギターリフとファンキーなビートが特徴。
歌詞では恋に対する無力さと欲望がぶつかり合う。

4. Love on the Weekend

アルバムからの先行シングル。
平日にすれ違う恋人たちの、週末だけの再会というロマンチックなテーマを軽快に歌い上げる。

5. In the Blood

家族や過去の影響をめぐる深い問いが込められた、フォーク調の内省的バラード。
「Will it wash out in the water, or is it always in the blood?」という問いが胸に残る。

6. Changing

時間とともに変わっていく自分自身を肯定する一曲。
後半のギターソロは、ジョン・メイヤーの表現者としての原点と熟練が融合した名演。

7. Theme from “The Search for Everything”

短いインストゥルメンタル。
アルバム全体の世界観を象徴するような静謐でメロディアスな小品で、感情の地図を描く序章のようでもある。

8. Moving On and Getting Over

恋愛の終わりと再出発の狭間にある混乱を、グルーヴィーなサウンドで描いたナンバー。
「Moving on and getting over / Are not the same, it seems」というラインが核心を突く。

9. Never on the Day You Leave

別れの痛みは、その瞬間ではなく後からじわじわと来るというリアルな心理描写。
ピアノとギターが静かに寄り添い、メイヤーの語り口がしみじみと響く。

10. Rosie

失われた恋への懇願を歌う、軽快なテンポの楽曲。
どこかレトロな感触もあり、サウンド面での遊び心も垣間見える。

11. Roll It on Home

カントリーテイストの効いた、夜の酒場にふさわしいような1曲。
気まずい夜を終わらせるための「帰り支度の歌」として、ウィットと哀愁を兼ね備えている。

12. You’re Gonna Live Forever in Me

アルバムのラストを飾るピアノバラード。
口笛とピアノだけで紡がれるミニマルな構成が、失われた人への永遠の思いをそっと包み込むように響く。


総評

The Search for Everythingは、ジョン・メイヤーがこれまでのキャリアと私生活を統合しながら、自らの原点に回帰した作品である。
華麗なギタープレイも、洗練されたソングライティングも、本作ではすべてが「内面を映す鏡」として機能している。

タイトルにある「すべての探求」は、愛の意味、過去の重み、自己理解、赦しと再出発——そうした人生の問いへの誠実な旅でもある。
そしてそれは、聴き手一人ひとりにとっての”search for everything”を静かに呼び起こすものとなるだろう。

ジョン・メイヤーがブルースマンとして、ポップ職人として、そして哲学的語り手として成熟した姿が、ここにある。


おすすめアルバム

  • Continuum by John Mayer
     ——ブルースとソウルが絶妙に融合した、キャリア最高傑作との呼び声も高い一枚。
  • Born and Raised by John Mayer
     ——フォークとアメリカーナに傾倒した時期の内省的なアルバム。
  • Heavier Things by John Mayer
     ——メイヤーのポップ面が色濃く出た、初期代表作。
  • Room for Squares by John Mayer
     ——彼の出発点。シンプルなメロディと都会的な感性が光る。
  • Continuum by Eric Clapton
     ——メイヤーのギター・ヒーロー的側面に通じる、現代ブルースの重鎮の名作。

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